第17話:トロピカルパラダイス!3
「やったー! 常夏の楽園だー!」
「なんとか無事に着いたのか……」
はしゃぐメルトの隣でビターも安堵の息を漏らす。
言われてみれば、ジャングルには色とりどりのフルーツがところ狭しと実っている。
季節問わずに実り狂う果実たちは魅力的ながらも不自然だ。これが常夏の楽園・フルーツアイランドたる所以なのだろう。
「リンゴがなってる! 美味しそう」
「バカ! 食べるならもっと高級そうなフルーツを選べよ」
「貧乏丸出しのセリフですよ、ビター様」
砂浜からジャングルの中に移動し、樹に実っているフルーツをもぎ取る。三人は食べ放題と言わんばかりにフルーツを貪り食った。
「うめぇ! このパイナップル、果汁が溢れ出してくるぜ」
「このリンゴも真っ赤で艶々よ」
「メロンって一つの樹にこんななってていいんですかね?」
三人は極上のフルーツに舌鼓を打つ。
先程の災難など記憶から飛んでしまう程、フルーツは絶品だった。
「あのフルーツ何だろう? ビター、採ってきてよ」
メルトが指差す方向には一本の高い木が聳え立っていた。木のさきには縞模様のよくわからないフルーツが三つほどなっている。
「うげ、あんな高いところ登れるかよ」
「ヤンキーは木登りも上手いはず。男でしょ。いってらっしゃい」
「まったく、強引な」
我が儘姫メルトの命令でビターは木登りをすることになった。
目標はてっぺんに実っている縞模様のフルーツ。
「んしょ、んしょ……」
木の幹はツルツルとしていて足をかける所がない。幹を掴む手と脚の力を最大限にし、ほぼ腕力と脚力でよじ登った。
「よし、もうすぐ頂上だ。あとはフルーツに手を伸ばせば……」
あと、もう一歩。
ビターが手を伸ばして目的のフルーツを掴んだ。
その時。
ーービュビュビュンッッ!!
伸ばした手の指と指の間一つずつに鋭い矢が滑り込んできた。
矢の力は強く、指の間に刺さった果実は穴だらけ。中身の果汁がぴゅーっと飛び出し、ビターの顔を濡らす。
「なななな、なんだ!? ……あ」
あまりの衝撃にビターは木に登っていたことを忘れ、手足の力を緩めてしまった。
どすん。
鈍い音をたて地上にそのまま背中から落ちる。
「いててて……」
ビターが腰を擦っていると、目の前に鋭い切っ先が突き付けられた。
槍らしく、磨かれた先端の石は禍々しく光っている。
「うおっ、危ないじゃねえか!」
ビターが思わず叫ぶ。
「……! なんだ!?」
槍を突き付けてきたのは謎の仮面の集団だった。
その数は十か二十か。
個々に槍や弓矢などの武器を持っている。
仮面は般若のような鬼のような恐ろしい表情を描いたデザインで、どこかの部族を思わせる。
よく見ると、仮面はフルーツをくり貫いたもので作られていることがわかる。この島の住人なのだろうか?
「なんなんだ、お前ら」
「ビター! 大丈夫!?」
メルトとフィナンシェが駆けつけてきた。
それと同時に三人は謎の集団に囲まれてしまう。
「ワレワレノシマニ、ナニシニキタ」
「シンニュウシャカ?」
「……なんて?」
謎の部族が何かを言い出す。
訛りがありすぎるため、何を言っているか聞き取りにくい。
「シンニュウシャカ?」
しかし、この状況と合わせよく聞くと、なんとなく言語は理解出来る。
多分、俺たちのことを聞いているんだ。
「俺たちはフルーツを食べに来ただけだ」
「そうそう! 船に乗って、美味しいフルーツをいただきにきただけなの!」
メルトとビターは必死に身ぶり手振りで説明する。
「フルーツ、クイニキタ?」
「そうそう!」
「ウバイニキタ?」
「そう……え?」
「リャクダツハツミ。オマエラヲツカマエル」
ざざっ!
謎の集団たちは武器を構える。
「待って! 私たちは貴方たちのものまで奪おうとしてないわ!」
「我々は観光目的で訪れただけです!」
あわあわあわ。メルトとフィナンシェは必死に弁解するが、相手は聞く耳なし。
「シンニュウシャハ、ハイジョ」
「くそ、戦うしかねぇのか?」
ビターは拳を握り戦闘態勢に入る。
「待って!」
メルトが叫んだ。
「あの耳……もしかして!」
耳と言われ、謎の集団たちの耳に注目する。
フルーツの仮面から飛び出すように生えている耳は尖っている。
「あの尖った耳……もしかして、エルフ!?」
「エルフ!? ……ってなんだ?」
「知らないの!? エルフは魔法を使う一族。それも、古来からの強い魔法を使う稀少な種族なのよ」
「つまり強いってことか?」
「性格は大人しめの種族だから、戦争や争いなどの前線に立たないけれど、彼らを敵に回すことは死をもたらすとも言い伝えられているわ」
「それってすげーピンチじゃねぇか!!」
「シンニュウシャハ、ハイジョ」
エルフたちの間から、蔓で手足をぐるぐる巻きにされた男が転がってきた。
「た、助けてくれぇ!」
「あ、あんたは……!」
助けを求めてきたのは先程まで旅を同行していたインチキのおっさんだった。
おっさんは手足を拘束されながらも、土だらけで汚れた体を必死に動かしこちらに助けを請う。
「おっさん、無事だったのか!」
「全然無事じゃないですぜ! なんですかこのおっかない集団は!?」
「あんた島に来たことあるんじゃないのかよ! なんでエルフを知らねぇんだよ!!」
「オマエラ、ナカマカ?」
「ひぃッ」
エルフはおっさんの喉元に槍の切っ先を突き付ける。
脅しではなく、本当にそのまま首に刺してしまいそうだ。
「コウゲキスルナラ、コイツノイノチ、ホショウシナイ」
「ひぃぃ……っ。どうかお助けっ」
「くそっ。これじゃ攻撃できねぇ」
それに、勝てる相手かもわからない。
自分は魔法を使えない。魔法の攻撃も受けたことがないため、どの程度の威力かもわからない。
目の前にいるエルフの戦闘力がどれ程のものかも推定できない。
下手に攻撃すればこちらが全滅してしまう。
おっさんどころか、メルトもフィナンシェの命も危ない。
「……降参だ」
ビターは両手をあげ、白旗をあげた。
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