第10話:知識はチョコレートに混ぜて4

 そこには白い円筒のような姿をした魔物モンスターがいた。丸いフォルムには簡略化された小さな手足がついている。

「ねぇ、あれってバウムの森で遭遇した焼き菓子魔物クッキーモンスターと似てない?」

「くそッ。どうなってやがる!」


「シュシュシュッ」

 白い魔物モンスターは素早い動きで町の人を追いかけ回している。

 丸く柔らかそうな可愛らしい形態だけに動きと合わせてやたらコミカルに見えるが、町の人を脅かすその行動は邪悪な魔物モンスターそのものだ。

「キャーっ!」

 金髪少年の側にいた女性二人組が魔物モンスターに狙われた。

 白い魔物モンスターは標的を女性たちに絞り小さな手足をパタパタと小刻みに動かして迫る。

 別にあれに殴られても痛くもなさそうだ。

 なんて緊迫する場面に緊張感なしに考えてしまうビターだが、恐怖に脅える人々を放っておく程自分は冷酷ではない。


 ビターが女性たちの元へ駆けつけようとすると、

「彼女たちは僕が守る!!」

 金髪少年が女性たちの前に割り込み、白い魔物モンスターに一撃を入れる。


「おおっ」

「やったか!?」


 メルトとビターが思わず叫ぶ。

 しかし、魔物モンスターの白い体は少年の拳を吸い込み、そのままボヨヨ~ンと金髪少年の身体ごと跳ね返してしまった。

 金髪少年は反動で遠くへ吹き飛ばされてしまい、魔物モンスターは再び標的の女性たちの方へ迫ってくる。

「いやぁぁぁ!」

 女性たちも町の人々も諦め、目をつぶる。


 その時ーー


 ドガーーンッッ!!


 ビターが白い魔物モンスターに拳を突き放した。


「俺を忘れてんじゃねェ!」


 体の中心部を貫通された魔物モンスターはドロドロと溶け、紫色の液体になってしまった。

「さっすが!」

 倒れた金髪少年を介抱しながらメルトがサムズアップする。

「ヤンキーはケンカに強い」

 ビターもメルトに向けてサムズアップした。



 夕陽の沈む町の広場の噴水前のベンチにて、金髪少年はベンチに三角座りで泣いていた。

「僕は……何も出来ない。お菓子も腕力も、何もかもあの訳のわからないヤンキーに敵わない……」

「あんたボロ負けだったもんね」

 付き添いで隣に座るメルトが歯に衣着せぬ物言いで金髪少年の心を抉る。

「あいつの言う通りだよ。僕はモテに全てを捧げてた。スイーツのことなんて何にも知ろうとしなかった。あいつが大事にしてきたことを軽んじた。負けて当然さ……」

 ううっ、堰を切ったように泣き出す金髪少年。美しい顔立ちも涙と鼻水で台無しだ。


「落ち込んでる暇があんなら練習すればいいだろーが」


 噴水を挟んだ向こう側、呆れた顔でビターがやって来た。

 その手にはフォンダンショコラの乗った皿が佇んでいる。

「どしたの、それ?」

「町の人たちが魔物モンスターを討伐したお礼に何かくれるって言うから、調理場レンタルと特産品のチョコレートを少し分けて貰った」

「ほらよ」金髪少年に自作のフォンダンショコラの皿を渡す。

「正しいレシピで作れば腹も壊さねぇよ。お前形までは上手く出来てんだから」

 皿を受け取り、フォンダンショコラを一口食べる。

「う、うまい……!」

「これ作れたら女の子にもキャーキャー言われるかもね」

 なぜかメルトが自慢げに言う。

 金髪少年はあっという間にフォンダンショコラを食べ終えると、ビターの手をガシッと強く掴む。

「ありがとうございますアニキ!! これから僕、アニキのような素晴らしいスイーツを作って女の子にモテモテになります! 」

「お、おう……アニキ?」

 兄貴とは何なのか聞きたかったがどうやら無事にやる気を出したみたいなのでツッコまないようにする。

「男の友情ね」

 メルトが二人を見て呟いた。



 それから時が経ち、メルトとビターは再びノワールの町を訪ね、モテモテなパティシエになった金髪少年に歓迎されることになるのだが、それはまた別のお話。

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