第9話:知識はチョコレートに混ぜて3
次の日。ビターはトイレに閉じ籠っていた。
どうやら昨日メルトから奪って食べたフォンダンショコラにあたったらしい。
それはもう猛烈な腹痛だった。
「まさか……本当に毒が入ってたのか!?」
ビターが初めてメルトの護衛らしきことをした瞬間だった。
宿を出て広場へ行くと、ビターに毒を盛った(?)犯人はまたフォンダンショコラを道行く女性二人に配っていた。
「お嬢さんたち。俺の作ったフォンダンショコラはいかが?」
「あら、ではおひとつ」
女性たちがフォンダンショコラの乗った皿を受け取ろうとした時、
「ちょっと待ったーッ」
ビターが間に割り込んだ。
「そのフォンダンショコラを食ったらヤバいことになるぞ!」
「そーよ! トイレに引きこもる羽目になるわよ」
こいつみたいに!
メルトに指を差されるげっそり気味のビター。
金髪少年はビターとメルトの二人を見て「げっ」と声を漏らす。
昨日あんなことがあってか二人を見る顔つきが険しい。
突然の忠告に女性二人は不安げな表情になる。
「ヤバいってどういうこと?」「危険なものなの?」
金髪少年はビターに怒鳴る。
「勝手なことを言わないで欲しいな! 僕は素敵な女性たちに美しいスイーツを提供したいだけだ」
金髪少年の真剣な瞳には嘘偽りはなさそうだ。どうやら本気で毒を入れたりはしないだろう。
(だとすれば……!)
ビターは過去の経験からあることを推測した。
ビターは金髪少年に問いかける。
「お前、フォンダンショコラの作り方言ってみろ」
「は? なんで」
「い・い・か・ら・言・え」
「ヒエッ……」
ビターは己の凶暴な面構えを武器に金髪少年にフォンダンショコラの作り方の説明を迫る。
金髪少年は答える。
「そんなの簡単さ。チョコと小麦粉を混ぜてオーブンで焼くだけ。ちなみにコツは中をトロッとさせる為に表面だけを焼くことさ!」
「それだ!!」
ビターは金髪少年に指を突きつける。
「それはただの半生のチョコレートケーキだ」
「!?」
驚愕する金髪少年。
「どういうこと?」
メルトも意味が分からないのか首を傾げる。
「本当のフォンダンショコラは生地と中身を別々に作るんだ。だから中身のチョコレートは加熱不足で蕩けてるんじゃない」
「つまり」
「それって……」
メルトと金髪少年が固唾を飲む。ビターは二人を見てうなずく。
「少年の作り方だと、半生の小麦粉を食べてることになる。火の通ってない小麦粉を食べると腹を壊すぞ」
「「そうなの!?」」
ビターは昔、幼い弟たちが作ってくれたホットケーキが生の状態で腹を盛大に下した経験を思い出した。
あの経験がこうして生かされることになるとは思わなかった。
「半熟とか嘘だから」
ビターはビシリと指を突きつけ金髪少年を論破する。
「おお~……」女性たちも思わず拍手。
「お前、スイーツ作って人に振る舞うならちゃんと調べてから作れよな」
「くっ……!」
金髪少年は悔しそうに唇を噛む。
フォンダンショコラを渡すことも失敗し、女性たちの関心もビターに奪われ金髪少年はヤケ糞気味になってビターに言う。
「何を偉そうに。僕はただ女の子にモテたいだけだから知識とかどうでもいいんだよ!」
カチーン。
ビターの頭の筋がブチりと切れた。
「テメェェェ! スイーツ作りナメてんのかァァア!!」
ビターはぶちギレ金髪少年の胸ぐらを掴み上下に揺さぶる。ヤンキー丸出しの怒声に「ひぃぃ」と震え上がる金髪少年。
「スイーツは知識なんだよ、配分なんだよ、工程なんだよ。それを貴様……」
「どうどう」
メルトが怒髪天ヤンキーと化したビターを宥める。
完全に馬にやるそれであるが、ビターは鼻息を荒くし我を忘れているため何も気にしていない。
「助けてぇ!」
すると、町の何処からか悲鳴が聞こえた。
まさか凶暴化したビターを見て町の人が叫んだのかと思ったがその予想は外れる。
「
「
メルトは暴走するビターの頬をつねる手を止める。
ビターも突然の緊急事態に一時怒りを抑え我にかえる。
「どうして安全な町に
叫び声がだんだんと大きくなる。
フォンダンショコラを受け取ろうとした女性二人組が「あれ!」と広場の北側を指差す。
そこには町の人たちを襲う真っ白なフォルムの
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