第7話:知識はチョコレートに混ぜて

 ビターとメルトは街道を抜け、その先にある町『ノワール』へ来ていた。


 ノワールの町並みは緑の木々や可憐な草花に囲まれ、並ぶ住居はレンガで造られている。

 空気の澄んだ穏やかな場所だ。

 カカオの輸入が盛んらしく、チョコレートを使ったお菓子が名産品らしい。


 ビターたちは町の宿屋『ショコラの夢亭』を訪れていた。


「なんだこの豪華な部屋は!?」

「へへん、いいでしょ? 姫たるものこのくらいゴージャスな部屋じゃないと眠れないわ」

「嘘つけ! お前が森の中で魔物モンスターに囲まれてもぐーすか眠ってたの知ってるからな」

「んま、レディに対してなんてこと言うのかしらこのヤンキーは」


 レディ、地べたで寝ないから……なんていくら反論してもこの姫は更に言い返してくるので反論はこれくらいで止めておく。

 しかし、これだけは言いたい。


「もう少し安い部屋にしてくれよ……」


 メルトはノワールの町に着くと真っ先に宿屋で休みたいと言い、チェックインをした。ここまでは問題ない。

 しかし、彼女がチェックインした部屋は宿屋で一番豪華な部屋、スイートルームだったのだ。

 もちろん我々に莫大な予算なんてない。

 家出状態でデコレート王国から出たメルトたちに王族の支援なんて皆無であり、僅かなお金でここまで持ちこたえてきたのだ。


 それをこの姫は……


 ビターはやたらと豪華な椅子に座りながら頭を抱える。

 椅子はフカフカで体がすっぽりと沈んでいく。座り心地は抜群だ。

 そりゃあ高い部屋なんだから当たり前である。

 当たり前である金額を払っているのだから楽しまなきゃ損か。

 森から脱出した疲弊と椅子の座り心地の良さからビターの思考は鈍り楽観的なものになっていく。


 最終的には『なるようになる』精神でこの議題は終了となった。



 朝、ベッドでの睡眠を満喫して目を覚ますとメルトがいなかった。

 部屋を見渡してもどこにも姿がない。

無駄に広いテーブルを見るとそこには書き置きがあった。


~ビターへ~

『ちょっと町の広場まで遊びに行ってきます。

追伸:朝食のビュッフェは食べたのであんたも食べちゃいなね。オススメはパンケーキ! アプリコットのジャムをつけると美味しいわよ~』

                        ~メルトより~


「追伸の方が長ぇ」


 親切なのか余計なお世話なのかわからない追伸を読み終え「広場か……」と呟く。


 確かノワールの町には中央に大きな噴水がある広場がある。

 メルトはそこにいるだろうから、朝食を食べ終えたら迎えに行こう。


 ビターは手紙を折り畳み、顔を洗い着替えると、朝食のビュッフェへ向かった。

 とりあえず、パンケーキにアプリコットのジャムを塗ってみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る