第7話 出会い

そうして迎えた当日。

旦那と子供達を送り出した後、

「あぁ!何着れば良いの!!!」


センスもへったくれもない私。

ドレスっぽいやつじゃ気合い入り過ぎだろうしな、、

そうだ。参観日に行くような服装でいいか。


何着か引っ張り出し、鏡の前で合わせてみる。

「うーん。これかな、それともこっちの色の方が顔色が明るく見えるかな。」


私は”サクラ”だという事をすっかり忘れ、久々のおしゃれを楽しんでいた。

カラコンも付けて、久々にお化粧もして、外へ出る。


ああ~~テンション上がるう!

専業主婦って案外地味なのかも。家の事して、家族以外の人と全く合わず、

誰とも会話しない日もある。結構孤独なものだ。


「あ、時間時間!!」

慌てて車に乗り、待ち合わせ場所へ向かう。


「遅いぞっ、こら!」

司が笑って言う。


「それが人に頼む態度ですかぁ??!」

べーっと舌を出す。

そしてお互いケラケラ笑った。


会場はレッセルホテルの2階、会議室で行われた。

受付で名前と住所、プロフィールを書かなければならなかった。


これって、後日郵便物でも届くのか?

それは困る。主人にバレるじゃないか。


って事で、嘘の住所と偽名を使って中へ。

まるで探偵気分。もしくは軽い犯罪者気分。


コロナと言う事もあり、各席にはパーテーションが置いてあった。

そして、マスク着用は必須。良かった。これなら万が一、今回知り合った人にばったりあってもバレない。私は目の真下までマスクを引っ張った。


「それでは、受付で引いた番号札の席へ着いて頂いて宜しいでしょうか。」


私の番号は・・・。「4」

「ねぇ、司何番?」


「私は18番だ。」


えぇ~!めっちゃ席離れてるやん。

心細っ!!


「各自、そちらの番号にお座り頂き、3分経ちましたら、男性が席を隣へ移動していきます。短い時間ですが、最後にフリータイムを設けておりますので、気になる異性の方がいらっしゃいましたら、ゆっくりお話しするお時間も取っております。それではスタート致します!」


4番の席に着く。

めっちゃ緊張。


そんな私の前に座ったのは、少し小太りの男性だった。

お互いに挨拶を交わしプロフィールを交換する。


ふむ。会社員(いたって普通)

年商は500万。(40だし、ま、こんなもんなのか?)

趣味は~、釣り(だから日に焼けてるってわけか)


もくもくとプロフィールを読む。


学歴はっと、、、北高校卒業後、就職。


真剣な顔でプロフィールを見ていると


「あのぉ~・・」

男性が声を掛けてきた。


「あ!はい!!すみません。つい見入っちゃって。

釣りが趣味なんですね。海釣りですか?」


「そうなんです。ほぼ週末は友人と釣りへ出かけています。

なので、アウトドア派な女性を・・」


そこまで話した後、


ピー!

笛が鳴った。席移動だ。

話は途中だったが、お互い会釈をし、次の方へと移った。


はぁ。全員で20名。

ながっ!!これを20回も繰り返すわけ!?

司、これは何かおごって貰わないと割に合わないわよ~~~~。


次に来た男性はチャラそうな人だった。


年齢は、29歳。(30手前で焦って応募か?)

年商は1千万。1千万。いっせんまーーーん!!!?


え。え。何の仕事してんのよ。


仕事は、自営業(・・。めっちゃ怪しい)

趣味は、パチンコ(だろうね)


でも、顔はまぁまぁのイケメン。

二股三股してそうに見えるが、意外とそこは真剣に選ぶタイプなのか?


「美羽(みう)さんって読むんですね。可愛い名前。」

他の女性にも言っているんだろう。慣れてる感半端ない。


「婚活パーティ初めてなんだけど、美羽さんは?」


「私は~~。。私も初めてです。」

適当に話作っとこう。どうせ2度と会う事はない。


「年上の女性も好みです。良かったら後で連絡先交換しない?」


うわ!絶対嫌!独身であったとしても嫌!

ひきつった笑顔を作った後、


ピー!笛が鳴った。


ホッ。

良かった。とって食われる食われる。

隣の席でも同じ事言って口説いてるし、あいつ。バカだな。


「こんにちは」

「こんにち・・え!」


ヤバい!中学の同級じゃーん!!!

このパターンヤバいやつ。まさか知り合いに会ってしまうなんて。

世の中狭いってこの事~~~~!!!!


いや、正直にサクラだと言ってしまうか?。

別に悪いやつではなかったはず。


「ほんと、久しぶり。元気してた?」

平然を装うのが必死だった。


「山本こそ(旧姓)ってか、プロフィールの名前違くね??」


そうだった。サクラだというかどうしようか悩む以前の問題。

全く嘘のプロフィール書いてるんだった。


「あ、あのね、これには事情があって。実は私結婚してるんだけど

ちょーっと事情があって、友達が困ってたからここに来たんだけど・・。」

ごにょごにょ話す。訳わからない事を話していたかもしれない。


黒木君は怒るだろうか。

ドギマギしながら下を向く。


「はは!あいつ?司もいるよな。まだ話はしてないけど。

会ったら驚くだろうなー。なんせ元カレなんだから。」


えぇ、知ってますとも。


普通な感じの黒木君にホッと胸を撫でおろした。

「まだ黒木君は花の独身なんだねって、結婚したくて

ここ来てるのか。」


「もう36だしな。」

椅子にもたれ掛かって、少しだるそうにそう言った。


ピー

笛が鳴る。


「じゃな。あ、今度同窓会あるってよ。」

そういい隣の席へ移った。


ずっと黒木君との世間話や思い出話で良かったよ私は。トホホ。

結婚している私からしたら婚活パーティは面接のようで落ち着かないし、とにかく疲れる。


後、17人。

17人も相手するなんて耐えられない。

頼む!早く終わってくれ~~~


そして、20人全てとの面談が終わった。

私にとっては“給料もらって良いんじゃないの?”並みに頑張ったと思う。


次はフリータイム。


いそいそと司のもとへ行った。

「司~~~!どうだった?いい人いた??」


「いたわよぉ!あの青色のネクタイしている人。どこから見てもイケメンよねぇ。

趣味も合いそうだったし、話してて楽しかったんだよね。

普通のサラリーマンだったのは残念だけど。」


おお。昔から玉の輿にのるぞって言ってたもんなー。そこはやっぱり気になるんだ。

「話しかけ行ってみたら?あまり時間も無いよ。それに、うかうかしてると、他の子に取られるぞっ!」


「確かにそうだね!ちょっと行ってくる!」

司がささっと飲み物をもって彼に近づいて行った。


神様!司の恋、どうか上手く行きますように!!!


「なぁ、あいつ、あぁいうタイプが好みなのか。」

背後から黒木君が声を掛けてきた。


「わ!びっくりした。うーん。どうなんだろうね。面食いとは聞いた事ないけど。

ていうか、なに~?司に未練でもあるの??」


「ねぇよ。」


「じゃぁ他に良いなって思う子はいたの?」


「いなかった。もう、婚活はこれで最後かな。結構何度か参加してるんだ俺。

でも、ピンってくる人に出会えたことはなくてさ。

もう何年も彼女いない。彼女、ほし~~~~~~~~!!」

背伸びしながら、そう言った。


「ってか、婚活行ってる事、誰にも言わんといて。なんか、はずいじゃん。」


「いや、私の方こそ。秘密にしといて。家庭崩壊してまう。」

そういってお互い笑った。


黒木君のプロフィール、そういや見てなかったな。

「今、何の仕事してるの。」


「困った人を助けるスーパーマン!!カッコいいだろ?」


「いいね、そのジョーク。きっと映画通り、ハッピーエンドが待ってる。」

クスクス笑った。なんだか懐かしい。中学生時代に戻ったみたいで楽しかった。

そう、黒木君は冗談を良く言う人だった。


「山本は?子供いんの?」


「いるよ~。もうすぐ小4と小1。」


「まじ!!!・・だよなぁ。そういう年齢なんだよな、俺たち。結婚って良いもの?

今、幸せ?」


「結婚して良かったって思ってるよ。もう結婚して10年だけど。

幸せかって聞かれたら、「幸せ」かな。当たり前の日常が、当たり前にやってくる事が幸せ。」


「お、なんか深い事言うねぇ。俺さ、大学で心理学勉強して、今は医師会病院で

心理カウンセラーやってんだ。いろんな悩みを持つ患者さん来るんだけど

人の悩みは尽きないって言うか。1つ無くなったらまた1つ、自分自身で悩みを作ってさ。

何年も通院している患者さんが多い!困ってる人を助けたいって思って選んだ職業だけど、未だに自分のアドバイスが相手の心に届いているのか。どう感じているのか。不安になる時があるよ。」


うぅ。私の事を言われているようでグサリと心に言葉が刺さる。


「コロナでうつになっている患者さんも多いんじゃない?」

何かアドバイスを貰えるかもしれないと思い、さりげなく、うつに話を持っていく。


「多いよー。特に独身の人なんて、話す相手もいなければ、外出も自粛になって息抜きも出来ない。狭いアパートの1室で、段々気持ちが沈んで行く。僕らに出来る事は話しを聞いてあげて、理解して、解決策を一緒に探してあげる事。相談してくる人の中には、どう頑張ったって理解できない事もあるけど、、俺も人間だし?でも仕事だから(笑)」


「やっぱ心理カウンセラーって言っても人間だもんね。大変なお仕事、本当にお疲れ様です。」

丁寧にお辞儀をすると、


「山本に言われるとなんか笑えるんだけど(笑)ま、山本も何か悩みあれば、言えよ。吐き出すだけで心がすっきりするっていう人、特に女性は多いよ。言えなければノートに書きだすとかだな。頭の中、綺麗に整理出来てくれば、自然と自分に自信が付いてくるんだよ。」


私の病気が黒木に見透かされているような気がした。

一瞬、自分の事を話そうか悩んだ。でも元同級生に話すのはやっぱり気が引けて言い出せなかった。


「もし、、もしさ、どうしようも無くなったら、どう対処するようアドバイスするの?」


「そうだな。深く考えない事。考えて意味の無い事。沢山あるだろ?

うつになる人って真面目で、先の先を考えるっていう共通点があるんだよな。

とにかく、考えて解決しない事は考えない。」


なるほど。さすが専門の人は言うことが違う。


婚活パーティ、20人目って考えたらうんざりだったけど、良い出会いもあったな。

懐かしい人にも会えたし、プラマイゼロ。


司が戻ってきた。

「お二人さんご一緒で。大智は良い人いなかったの??」

※大智は黒木君の事


「いねぇ」

と言い、その場を離れて帰ってった。


「司はどうだった?あの彼とは話しできた?」


「出来たー!連絡先の交換も!複数人としてるのは見かけたけど、ま、友達からって事で。」


「やったじゃん!とりあえず、他人から友達になるプレミアムチケットはもらえたわけね。」


「そゆこと!」

司は嬉しそうにしていた。


んにしても、黒木君って司の事どう思ってんだろ?

てか、なんで二人は別れたんだっけ?うーん。覚えてない。


「司~、黒木君って今、心理カウンセラーやってるらしいよ。」


「へぇ。」

さっきの愛しの彼の連絡先をスマホへ入れながら返事した。


「なんで二人って別れたんだっけ?」


突拍子な私の質問に司がパッと私の方を向く。


「・・・・・。忘れた。」


おーい。忘れたんかーい!


私にはどうも、黒木君がまだ司に気があるように見えた。

別れた理由を必死で思い出そうとするが思い出せない。なんせ中学時代の話。何年前よ。


「これで会場は閉めますので、お帰りの際は・・」


アナウンスが流れた。

一斉に婚活へ来ていた人たちが帰って行く。


「今日は本当にありがとね。助かった。一人じゃ行く勇気無かったから。」


「ううん。なんか面接官の気分で楽しかったよ。」

(20人も!?なんて思ったなんて到底言えない。。)


私たちは他愛無い話をしながら帰った。

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