第5話 許嫁のお誘い

ー真鈴 

 お互い名前で呼ぶようになってから約一週間が経った。不思議な事に一週間というのはあっという間で気づいたら金曜日になって休日がやってくる。

 でも私の休日はお世辞にも充実しているとは言えない。

 特別な事が無い限りずっと家にいるのだ。

 休日に友達をどこかに遊んだりした事は無く、ただ家にこもっているだけである。

 やりべき事はだいたい午前に終わってしまい、午後になると少し寂しくなってしまう。 

 クラスのみんなには休日はもっと華やかな事をして過ごしていると思われていますがそんな事はありません!

 勘違いもいいところです!

 それはそうと、私だって遊びに行ってみたいです!

 そう思ったら即行動です。

 とは言っても誘う相手はもう決まっています。許嫁の伊桜理君です。

 最近名前を呼び合うようになってようやくスキンシップが踏めたような気がするのです!

 名前で呼べるようになったら今度は次のステップです! 

 そ、その・・・・・・伊桜理をデ、デートに誘うのです!

 口に出していうのは少し恥ずかしいですが、やっぱり口に出さないと伝わるものも伝わらないと思うのです!

 決めました! 私、伊桜理君をデートに誘います!

 

 週明けの学校。

 私は少し胸を高鳴らせて登校した。自分の席に座り伊桜理君が来るのを待っている。時々話しかけてくるクラスメイトを上手く受け流していると、ホームルームが始まる直前、

「すみません・・・・・・。遅れました・・・・・・」

 伊桜理君はなんとかぎりぎり間に合ったようだ。息を切らしながら来たという事は家から学校まで走ってきたのだろう。

 時々一緒に学校に行きますが、歩いているだけで今のような汗の量は放出されないと思います。

「ぎりぎりセーフだね。今日は多めに見てあげる」

「あ、ありがとうございます」

 先生の許しをもらうと、伊桜理君は自分の席に着き、かばんから水筒を取り出し水分補給をした。

「珍しいですね。遅刻ギリギリって」

「ちょっと、寝坊しちゃって」

「夜はちゃんと寝てくださいね。夜更かしは体に悪いですよ」

「は、はい。気を付けます・・・・・・」

 

 昼休みになり、伊桜理君は弁当箱を持ってどこかに行ってしまった。

 まあ、どこに行ったかは大体予想はつきますが。

「ここにいたのですね」

「な、なんでここが・・・・・・」

「なんとなく、勘です」

 昼休みに教室以外でお弁当を食べる事になると、隣の空き教室か屋上で食べるのがテンプレです。

 屋上は暑いのでこの季節に屋上で食べる人はあんまり見た事ないですが、とりあえず屋上のドアを開けて念の為見てみたら、いました。

「それでなんでここに?」

「私から来たら何か不満でも?」

「いや、そんな事は」

「だったら私もここで食べます。教室で食べるの少し飽きちゃいましたし」

「まあ、別にいいけど」

 とは言っても、ここに来たのは伊桜理君とお弁当を食べるのが目的ではありません。他の目的があるのです。

「あ、あの!」

「ん?」

「その・・・・・・今週の休日って・・・・・・空いてますか?」

「うん、別に大丈夫だけど・・・・・・」

「そ、その・・・・・・」

 初めてです・・・・・・相手に言葉を伝えるだけでこんなにドキドキしているのは・・・・・・

 言いたい事はもう決まっているのです。でも上手く言葉にできないのです・・・・・・

 でも、言わなければ相手には伝わらない事は自分が一番分かってます!

 だから言うのです!

「その・・・・・・今週の休日、私と一緒にどこか遊びに行きませんか!」

 数秒の沈黙。そして、

「うん。別にいいけど」

「ほ、本当ですか!」

「うん。ちょうど俺もその日暇だし」

 まさかのオッケーの返事に私は少し涙目になってしまった。第三者から見て事情を話したら少し大袈裟と思われると思うが私の場合、心の底から嬉しいと思った瞬間なのだ。

 それはそうと、どこに行きましょうか?



 


 

 

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