ノロインクエスト ~666円で買った中古のゲームソフトが呪われてるかもしれない~

黒猫虎

短編



       1



 大学の夏期休暇もそろそろ終わろうかというある日。

 俺は、場末の中古ゲーム屋で、何か面白いゲームがないかと、ワゴンセールのかごの中を漁っていた。


 そのかごには古いゲームしか入っていないが、複数の機種ハードのゲームがごちゃ混ぜに入っていて、カオス状態になっていた。

 俺のアンテナが「掘り出し物がありそうだ」と、ビンビン受信している。


 そこで発見したのが、このソフト。



  『呪いの館からの脱出』チャンソフト 666円



 機種ハード――ゲームをするための本体――は、かつて一世を風靡したカセット型ゲーム機『ファミピューター』。

 俺は、ゲーム機は殆んど持っていて、もちろんこのハードも持っている。


 このワゴンに入ってる他のソフトは、他は全て100~300円なのに、このソフトだけ666円。

 箱も説明書も付いていないのに、この価格。

 この時点で、クソゲーハンターの俺としては、逆にちょっとした当たり感を感じ取った。

 カセットに貼られているシールには、ソフト名と開発会社名、それと古い館に囚われている髪の毛が水色なお姫様のドット絵が印刷されている。


 俺は財布から500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉の全ての種類の硬貨を各1枚ずつ取り出し、綺麗にレジのトレイに積み上げた。


「レジ袋は3円掛かるよ」


 レジの暗い顔した眼鏡のバイト女が言ってくる。

 もちろん俺は、


「あっ、裸のままで良いです」


 と、伝えながら、内心『くっそ、この女、胸デカくてエロいな……』と視界の隅でガン見していた。

 そして俺は、このデカメロンをまた拝むために近々再訪する事を誓い、颯爽さっそうと中古ゲーム屋を後にした。





       2



 俺はこのゲームのジャンルがアクションなのかRPGなのかも分かっていないが、どちらにしろそれなりの時間は遊ぶつもりで、コンビニでお菓子とジュースを買い込む。

 結局、そっちの方がゲーム本体より高くなるのは、俺あるある。


 買い込んだお菓子とジュースが入っているコンビニのレジ袋(3円)に裸で持っていたソフトも入れて、独り暮らしの安アパートに帰ってくる。

 最近は中々レア物件な、畳間のみのワンルーム。

 駅近なのに、ひと月3万と、かなりお安くなっております。


 さて、お菓子とジュースを所定の位置にセットしたところでゲーム機のスイッチをオン。

 この瞬間が、いつも堪らない。

 取り敢えずは、何もネットで調べずに始めてみますか。



〈――――――――――――――――――――

 呪いの館からの脱出

 チャンソフト

 19XX


 はじめる←

 ――――――――――――――――――――〉


 お、タイトル、結構おどろおどろしい感じでいいね。

『はじめる』ぽちぃ。


  ピロン♪




〈――――――――――――――――――――

 あなたは 旅の途中 _

 ――――――――――――――――――――〉


 お、ドット絵の主人公登場。



〈――――――――――――――――――――

 あなたは 旅の途中

 突然 激しい雨に みまわれた _

 ――――――――――――――――――――〉


 すると突然、窓の外が暗くなってきたかと思うと、


  「ざ――――っ」


 ……結構強めの雨が降ってきた。


 ――あ、れ?

 ゲームのシナリオと同じタイミングで雨が降ってくるなんて、ちょっと雰囲気でるな。


 少しドキっとしながら、Aボタンを押して、次に進める。



〈――――――――――――――――――――

 雷が あなたの近くに 落ちた _

 ――――――――――――――――――――〉


  「ッダ――――――――ン!!」



「ひゃっう」


 変な声出た。

 画面が一瞬明るくなる『雷演出』と同時に、この付近にかなり強めの雷が落ちたようだ。


 一瞬、テレビのゲーム画面が消えかけた。

 危なかった。

 稲光と音にほとんど時間差ラグがなかったから、かなり近くに落雷したのかもしれない。



〈――――――――――――――――――――

 あなたは ちょうど 近くにあった

 洋館に 逃げ込んだのだった _

 ――――――――――――――――――――〉


  ダッ

    ダッ

      ダッ



 怪しい雰囲気の洋館に入っていく主人公。



 いや、びびった。

 ゲームの演出と、自然の演出の、偶然の共演ハーモニー

 少し、演出過剰ぎみだったかな。



 俺は、平常心を取り戻すために、お菓子(ドリ◯ス)をバリボリと噛み砕き、ジュース(コ◯・コーラ)で流し込んだ。

 ウマい。



 しかし、ビビった。





       3



 俺は、洋館のあちこちを探索していたのだが――。


 どうも、完全に閉じ込められてしまったらしく、出口を探していた。

 移動方法は某有名なスライムが草原に出てくるRPGに近いけど、アドベンチャー型ホラーゲームという感じかもしれない。


『調べる』コマンドで、館のあちらこちらに隠されているヒントを見つけたり、時には罠を回避したりという、探索型の謎解きゲームなのだが、ショボいドット絵は俺の想像力を掻き立て、かなり夢中になってプレイに没頭した。



 ふと時間を確認すると、既に夜の7時を回っていた。

 昼の3時頃からやっているので、計4時間はこのゲームについやしてしまっていた事になる。

 窓の外では、激しく降っていた雨はいつの間にか止んでいて、静かな闇夜が訪れていた。



 俺は、ゲーム機の電源はつけたまま(というか、昔のゲームなのでセーブ機能なんてない上、『復活の呪文』的な中断機能が見当たらなかった)、一旦休憩を取ることにした。

 破裂しそうになっている膀胱を抑え、トイレに駆け込み、大量の液体を体から排出。

 凝り固まった体をほぐすように、簡単な柔軟運動をする。



 そして、胃袋が空腹を訴えていることに気付いたので、袋ラーメンを作って夕食にすることにした。


 小さな片手鍋に、お湯を沸かして、袋ラーメンの麺を投入。

 ゆで上がったところに、粉スープをダイレクトに投入。

 すかさず、乾燥ネギを入れ、生タマゴをイン。

 ほんの僅か数瞬、ふたをする。

 蓋を取ると、お、これはウマそう。


 独り暮らしの俺は、食器にわざわざ移したりせず、座卓テーブルに下敷き用の雑誌を置き、その上に直接片手鍋をせて食す。


 ――これは、我ながら良く出来た。

 ウマイ。





       4



 そんな俺が操作する主人公が、ある部屋に入ると、

 

〈――――――――――――――――――――

 女の子が 一人で 泣いている _

 ――――――――――――――――――――〉


 お、ゲームソフトのラベルにも印刷されている水色髪ヒロインが登場したぞ。



〈――――――――――――――――――――

 女の子が 一人で 泣いている

 連れて 行きますか?

 はい いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


 女の子が泣いているのなら、連れていくしかないでしょう。



〈――――――――――――――――――――

 女の子が 一人で 泣いている

 連れて 行きますか?

 はい← いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪



〈――――――――――――――――――――

『ありがとう』 _

 ――――――――――――――――――――〉


「ありがとう」







 ……えっ!?


 画面のセリフに合わせて、俺の右の耳元で、女子の声で何かささやかれた気が。


 俺の背中に、全身に怖気おぞけが走った。



 怖々と声のした方を見ると、誰もいない――が。

 俺の右腕に、何か黒いモヤの様なものがまとわりついている。


 ――な、なんだ、このモヤは?



 そして、画面に流れる文字。


〈――――――――――――――――――――

『この ゲームソフト には

 この館の 罠にかかって 死んだり

 館から 脱出 出来なければ

 現実の あなたが 死ぬ呪いが

 掛けられています 気をつけて』 _

 ――――――――――――――――――――〉



 ……あれ、このゲーム、ちょっとヤバい?




 俺は誰にともなく、怖がっていないアピールをする必要を感じ、何事もなかったの様に、お菓子(ドリ◯ス)をバリボリと頬張った……。





       5



 流石に少しビビった俺は、ネットの検索サイトゴーグル先生でこのゲームの情報を検索しゴグった。

 昔のマイナーゲームだからか、ほとんど情報は見当たらない。

 だが、唯一見つけた書き込みが、今の俺にとっては超貴重な情報ばかりだった。


 その貴重な情報のひとつ目がこの情報。



 〉(情報1)泣いている女の子(ヒロイン)を見つけたら連れていくこと。



 よし、正解。


 ……本当だろうか?

 段々と右腕に重さを感じ始めている俺。

 何だか本当に、女の子に腕を組まれている様な感触なんだけど。


 実際に女子と腕を組んだことなんて無いから知らんけど。



 このゲームソフトには何かがいている――という事は、もう確実だろう。

 超鈍感な俺でも流石に分かる。

 そして、この状況は、このゲームソフトをクリアする事でしか解決できない予感がする。



 それに、


『この館から 脱出 出来なければ

 現実の あなたが 死にます

 気をつけて』


 というゲーム画面のメッセージが本当ならば、この先恐怖に怯えているだけでは、間違いなく死んでしまうだろう。

 気を強く持たなければいけない。

 ――おれは、そう自分に言い聞かせた。






 しかし、その非常に恐ろしい状況にも関わらず、俺を困らせるもうひとつの現象が発生していた。


 実は大分前から何か柔らかな弾力のあるモノが腕に当たっているのだ。

 何だこれは。

 やはり、アレなのだろうか。

 当たってますよ、と指摘するべきなのだろうか。



 怖がればいいのか、鼻の下を伸ばせばいいのか、非常に困る状況になっていた――。





       6



 ある部屋にたどり着いた。



〈――――――――――――――――――――

 突然 明かりが 全て消え

 館は 闇に包まれた _

 ――――――――――――――――――――〉



  バチ

   バチィ


      フッ――


「わっ―――――」



 突然ゲーム画面が真っ暗になったのだが、それと同時に俺の部屋の照明が落ちた。


 ――こ、これはあのイベントだ。



 〉(情報2)ゲーム後半、ある部屋に入ると、真っ暗闇になる。女の子(ヒロイン)の教える方向以外に進むと下に落ちてゲームオーバーとなるので、慎重に1マスずつ進める事。女の子(ヒロイン)がいないと詰みなので、この部屋に入る前に必ず救出しておくこと。



 この画面で足を踏み外してゲームオーバーになったら、俺は死んでしまうかもしれない……。

 そう考えた俺は、画面に表示される女の子からのメッセージを真剣に待っていた。


〈――――――――――――――――――――

『┣・♀3ΦЩ∧╋△』 _

 ――――――――――――――――――――〉


 すると、画面に表示されたのは、意味不明の文字化けしたメッセージだった。




「あ、うそ、どうして?」


 ――もしかして、ゲームソフトのゲーム機ハード本体への差し込みが、甘かったのだろうか。

 昔のゲーム機は、ゲームソフトがちゃんと刺さっていないと、こういう文字化けになることが時々ある――――。



 俺が顔面を蒼白にしていると、俺の耳元にまた女子の声が囁いた。


「上に3歩」

「あっ、はい」


〈――――――――――――――――――――

『┳・♂4∴∂∨≡〓』 _

 ――――――――――――――――――――〉


「右に4歩」



「下に1歩」

「右に7歩」

「上に3歩」

「左に2歩」


 俺は、女子の声に従い、慎重にキャラクターを操作していった。


「うああっ」


 緊張のあまり、間違えて方向ボタンを連射れんしゃしてしまったのだが、たまたま複数歩が必要な場面だったので、命拾いした。

 もう少しで、死ぬところだったよ――。


 い、一回、深呼吸……。





       7



「下に1歩。ここで下の階に落ちる」


 女子の声に導かれ、とうとう、ここまできた。



 〉(情報3)真っ暗の部屋の最後で、女の子(ヒロイン)の言う通りにすると一旦下に落ちるが助かるので大丈夫。



 女子の声は、下に落ちる事まで、教えてくれた。

 う、優しい、惚れる……。


 俺は耳元の声に従い、コントローラーの十字キーを操作した。


 すると、俺の座っていた畳の感触が突然無くなった。



「な、っ、うわっ――――――――!?」



 突然の浮遊感につつまれ、俺は落下していき、ドンッ、と落ちた場所は元の俺の部屋の畳の上だった。



「くっ――――」「大丈夫?」



 落下の衝撃(身体的、精神的、両方)と痛みで、畳の上で手足をバタつかせて悶えていると、女の子の心配そうな声が響いた。

 しまった、カッコ悪いとこ見せちまう――。


「だ、大丈夫、大丈夫」「そう、良かった」


 と、とうとう、声と会話までしちまった俺。

 そんな俺が、ゲーム画面を確かめると――――。


 ああ、とうとうここまできたか。

 主人公と女の子のキャラクターの前に2つの落とし穴がある。


〈――――――――――――――――――――

 女の子を 左の 落とし穴に 落としますか?

 はい いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


「右が正解。私を右に落として。左には落とさないで」



 〉(情報4)最後は2択。女の子が教える方が正解。ただし、女の子は不正解の穴に落とすのが正解。



 ――ネットの情報によると、ヒロインの女の子は実は呪われており、助けてしまうと主人公も呪われてしまうという事らしい。



〈――――――――――――――――――――

 女の子を 左の 落とし穴に 落としますか?

 はい いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


「あなたも私を左に落とすの?」



 やはり、右手の黒いモヤを見ると、完全に呪いを受けている。

 女の子を連れて帰ると、俺は呪い殺されるのだろう。

 ここは、女の子を落とす、が正解だ。

 落とせば、このモヤも取れて、呪いも解けるに違いない。



〈――――――――――――――――――――

 女の子を 左の 落とし穴に 落としますか?

 はい← いいえ

 ――――――――――――――――――――〉



 カーソルを『はい』に会わせると、耳元の声が必死さを増した。


「お願い、私を左に落とさないで、お願い、私を左に落とさないで、お願い、もう残されたくない、お願い、もう落とされたくない、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、暗いのはイヤ、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、助けて、お願い、また待つのはイヤ、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、…………




 ネットの情報では、泣き落としできても絶対、言うことを聞いてはいけないと書かれていた――。


 〉(情報5)絶対に女の子は連れて帰ったらだめ。泣き落としてくるが、絶対に許してはダメ。呪われる。絶対、不正解の方に落とす事。




「お願い、お願い、お願い、オ願い、お願い、お願イ、お願い、お願い、お願い、お願イ、お願い、お願い、ヲ願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、助ケて、オ願い、お願い、お願い、お願い、お願イ、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、助けナいとお前ヲ殺ス、お願い、お願い、お願い、オ願い、お願い、助ケて、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、オ願い、お願い、お願い、お願イ、お願い、お願い、お願イ、お願い、お願イ、お願い、お願イ、お願い、お願い、ヲ願い、お願イ、ヲ願イ、お前ヲ殺ス、殺す、コロす、オまエを呪う、ノろウ、呪いコロす、…………




 必死に、耳元で懇願してくる女の子の声。

 この懇願の声に負けてしまったら、俺は呪われる事になる。


 俺は――――――――――――――――決断した。


 ここは呪われない為に、涙を飲んで左に落とすしかない。























〈――――――――――――――――――――

 左の 落とし穴に 落としますか?

 はい いいえ←

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪



 あ、あれ。

 



〈――――――――――――――――――――

 右の 落とし穴に 落としますか?

 はい← いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪



 俺が操作していないのに、勝手に操作されて、女の子は右に落ちていった。



  ヒュ――――――――っ


 彼女のキャラクターが落ちていくと。


    キ

    ャ

    |

    |

    |

    |



 ――ゲーム画面から「お前は呪いを受けた」と言わんばかりの不気味な叫び声が聞こえた……。



 と、とにかく、俺は、女の子を連れて帰る選択をしてしまった(勝手に操作されて)。

 俺は呪われる事になるのだろうか。

 あの子を落とさなくて済んで、ホッとしている自分がいることも事実……。



 そして、自分も館から脱出するとする。



〈――――――――――――――――――――

 あなたは 左の 落とし穴に 落ちますか?

 はい いいえ←

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪



〈――――――――――――――――――――

 あなたは 右の 落とし穴に 落ちますか?

 はい← いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪



 すると、俺はまた浮遊感に包まれ、ドンッ、と落ちた先は、また俺の部屋に戻ってるだけだった。



「う、やっぱり――――」




 起き上がってゲーム画面を見ると、そこには恐らく最後の選択肢が表示されていた。




〈――――――――――――――――――――

 呪いの館 を脱出しますか?

 はい いいえ

 ――――――――――――――――――――〉




 ここで、『いいえ』を選択したらどうなるんだろう。

 もちろん、『はい』を選ぶけども。




〈――――――――――――――――――――

 呪いの館 を脱出しますか?

 はい← いいえ

 ――――――――――――――――――――〉


   ピロン♪







       8




   パッ




 お、部屋の照明が復活した。

 テレビのゲーム画面は……クリア後のスタッフロールが流れている。


 その画面をぼうっと眺めていると、あの子の声が右の耳元、至近距離から囁かれた。



「館からの脱出おめでとう」

「うわっ」



 その予感はしていた。

 俺が若干慌てて、そちらに振り向くと、『彼女』がいた。

 あ、完全に、ドット絵のヒロインだわ。


 俺の部屋に、あの『女の子』が出現していた。

 あのドット絵を実写化、リアル化したらこうなるだろうという、超美少女。

 服装はちょっとお姫様チックな清楚な白のレースのドレス姿。

 現実離れした、水色の髪の毛。

 細い体付きなのに、やたら存在感のある非現実的な大きさの、巨大な二つの膨らみ。


 しかし、その雰囲気は、確実に呪いの影響を受けているに違いないと確信できる。

 とにかく、冷気が酷い。

 あれ、誰かクーラーの温度、4℃くらい下げた?

 そして、漏れ出す黒いモヤ――――。






ちゃんと丶丶丶丶会えたね丶丶丶丶

「お、おう」


 少しうつ向き加減の彼女。


「……」


 俺が碌なことを言ってあげられないでいると、女の子が俺に体ごとぶつかってきた。


「ぐふっ」

「……助けてくれてありがとう。でも、残念。わたし、呪われているんだよ。あなたゲームオーバー」


 ――助けた、というか君が丶丶勝手に丶丶丶助かった丶丶丶丶んだけどね。

 都合が良い様に記憶を捻じ曲げるタイプのお方なのでしょうか。



 ……とは、決して口にしてはいけないことはおバカでも分かる答え。

 実際に口にしたら、絶対、ヒドい目にあうのが間違いないからね。

 腕に当たる、柔らかな感触――。←




「わたし、一生、あなたにいてしまう。そしたら、あなた、死ぬ。死ぬから。死ぬよ。死ぬ――――っ!?」



 俺は、しゃべり続ける女の子の唇を俺の唇で唐突且つ強引に塞いだ。



 結構、長い時間、彼女の唇を吸ってから、ゆっくりと離していく。



「――――っ、な、こんな時に、一体何を!?」




 俺は驚いた表情の彼女に向き合って、しっかり目を合わせて言った。





「一生、俺にいていいですよ」





 彼女は一瞬、泣き笑いの様な表情をしたかと思うと、俺に泣きながら、またしがみついてきた。

 俺は、よしよし、と彼女の背中をさすってやる。





 その時彼女は、俺にしがみつきながら、声を出さずほくそ笑むようにわらっていた――――か、どうかはまでは、俺が知ることではない――――。



 



『ノロインクエスト~呪いの館からの脱出 END』






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ノロインクエスト ~666円で買った中古のゲームソフトが呪われてるかもしれない~ 黒猫虎 @kuronfkoha

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