第5話 【猟友会(ハンターズ)】。

 ドドドドドドドドドッ!


 朝もやの【妖樹の森】の中。

 その静寂を破るかのように、間断なく轟音が響き渡る。



 火の玉に氷の矢、石つぶて、そして矢の雨が次々と高速で飛来しては、魔狼の群れへと襲いかかった。


「解! 紡ぎ、守れ!」


 呪紋使いカースメーカ―の少女が魔狼たちの戒めを解き、代わりに自分の真後ろにいばらのように呪紋を張りめぐらせる。


 それを見て、思わず反射的に浮かしかけた腰を僕は止めた。



 ドドドドドドドドドッ!


 そして、轟音とともに魔狼たちへ攻撃魔法と矢の雨が着弾する。


『『ギャウォオオオオンッ!?』』


 少女の呪紋でさっきまで空中に縫いとめられていた魔狼たち。大多数は地面に落ちる前にあわれにも骸となったが、わずかな生き残りは着地と同時に我先にと逃げだそうとする。だが。



「ブフォフォフォフォッ! 第二射ぁっ! 撃てぇぇぇっ!」


 ふたたび上がる男の野太いときの声。


 ドドドドドドドドドドドドッ!


『『ギャウォオオォォオオオオンッ!?』』


 二度目の飽和攻撃が圧倒的な物量をもって残りの魔狼たちに襲いかかった。




『ウ……ォ……オン……』


 樹上にいる僕の眼下には、死屍累々の光景が広がっていた。


 攻撃魔法と矢の雨による圧倒的な飽和攻撃から逃れられた魔狼は皆無。


 ほとんどが原型もとどめていない肉塊となり、まだかろうじて息のある最後の一体も下半身を吹き飛ばされたとあっては、もう間もなく絶命、それをもって完全に群れは全滅するだろう。


 突如としてはじまった一方的な殺戮は、こうして幕を閉じた。



「はぁっ……。はぁっ……。か、解……」



 少女はどさりと地面に座りこんだ。同時に後ろにいばらのように張り巡らせ、少女を守っていた呪紋が体に戻る。


 辛くも攻撃は防ぎきったものの、最初からぼろきれのようだったマントはもはや布とすらいえない有様になり、いまやその褐色の肌を隠す役目を半分も果たせていない。


 少女の無事を確認して、僕はホッと息を吐いた。


 よかった……! けど、いまのって完全にあの娘の後ろから攻撃が来ていたよな……? 完全にあの娘を巻きこむかたちで、あの娘の存在を意に介さないかたちで……!



「ブフォフォフォフォッ! 大っ戦果ではないかっ! なあ、我が友たちよ!」


 少女の後ろから、喜色満面といった様子ででっぷりと太ったチョビひげの狩猟スタイルの男が姿を現した。


 その手には男の権威を象徴するような煌びやかな宝石のついた杖が握られている。


「はい! さすが我らがリーダー、ブッフォンさんです! まさかこんなに上手くいくなんて!」


 さらに、そのでっぷりと太った男――ブッフォンに続いて、杖を、弓を手にした似たような狩猟スタイルの男たちがぞろぞろと現れる。


「はぁっ……。はぁっ……」


 息も絶え絶えにうずくまる少女を完全に無視して、現れた男たちは仕留めた獲物、魔狼の群れの死体にむらがった。


「あー、さすがに状態はひどいな? これじゃあ毛皮はほとんど使えないし、肉もミンチにでもするしかないか?」


「まあ、それは仕方ありませんよ。安全圏から一方的に蹂躙しておいて、その上素材まで得ようなんていうのは、少々高望みしすぎってものでしょう?」


「そうっすね! なんせこれだけの数の魔狼、負けないにしても正面から戦ったらこっちもただではすまなかったはずっす!」


「それにしても、ブッフォンさんが小汚い【闇】属性の子どもをオレたちのパーティー【猟友会ハンターズ】に入れるっていったときは、なに考えてるんだと思ったもんだけどよ?」


「まさか近接戦闘が得意じゃないオイラたちのためだったなんて! あの子どもがひとりで敵を足止めしてくれるおかげで、オイラたちは安全なところから一方的に魔法も矢も撃ち放題! くーっ! この一方的に相手を圧倒的な力でたたきつぶすのって、ちょっと病みつきになりそうな快感っす!」


「ブフォフォフォフォッ! 褒めろ褒めろ! もっと褒めるがいい! 我が友たちよ! なに、要は使いようだということよ! たとえ小汚い【闇】属性の子どもだろうとも、我輩たちのがわりには十分なるということだ! なあ、犬ッコロ?」


 びくりと呪紋使いカースメーカ―の少女が座りこんだまま身を震わせる。


「は、はい……。ご、ご主人……さま……」


 そこではじめてでっぷりと太った男、冒険者パーティー【猟友会ハンターズ】のリーダー、ブッフォンがうずくまる呪紋使いカースメーカ―の少女にねっとりとした視線を向けた。

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