ep.5 モテる女

「静香ちゃん、映画とか見る?」


「見ない」


「遊園地とか好き?」


「嫌い」


「じゃあ、ラーメンでも食べに行く?」


「行く」


 自慢じゃないが、アタシはモテる。モテるがすぐ飽きられる。そんな種類の女である自覚はある。


 身長百五十センチ、体重四十キロ、スリーサイズは上から八十五・六十・八十五。どうやらこのプロポーションは世の男性が頭に描く理想に限りなく近しいようだ。


 絶世の美女というわけではないが、猫顔だねとよくいわれるその顔面もそれなりに男受けする構造になっていると思う。なのになぜ飽きられてしまうのか。男性という生き物は本当に鼻持ちならない生物だ。


 現在進行形で言い寄ってきている笠井は、前職における同僚である。不動産のアメミヤの店頭にやってきて誘いをかけてくるあたり、その執心ぶりには目を見張るものがある。


 なお、前職の不動産業者「テンザンエステート」は、漆黒を極めたブラック企業である。故にこの男は、中々にたくましい男なのだ。顔は芸人のようだが。


 前職では「おしとやか」路線で攻めていたが、状況が一変した勤務終盤はそのキープはままならない状態にあった。


 それでもこの笠井の中のアタシは、仕事のできるおしとやか女子という像にあるようだ。まずはそこをぶち壊してやらねばなるまい。


「ラーメン屋ならいい店知ってるわよ」


「そうなんだ。ラーメン好きなんだね」


「一人でラーメン屋に入るのも全然抵抗ないしね」


「へえ、意外だなあ」


 意外でもなんでもない。お前がアタシを知らないだけだ。


 店から出て大宮南銀座、通称南銀を駅とは逆の方面へと歩く。スケベな店の列が途切れたところにある一方通行に入り、線路の方へと進むと右手にその店はある。


「ラーメンショップたつみ」


 笠井は明らかに面食らっている。その店の佇まいはもはや廃屋に等しいので、その反応も無理はない。女子がお勧めする店舗に適していないことだけは、絶対的に確かだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る