5-2

 岡崎は僕に調べて欲しい要点をまとめ、友達人形と、友達人形を購入した古道具屋の住所を記したメモを残して帰って行った。

 今回、僕が調べるのは、友達人形の能力の真否と、岡崎の夢の中に現れる人物の所在である。

 夢の中に現れる人間を探し出すのは骨が折れそうだが、人形の能力については、現段階の持ち主である僕の夢に、見知らぬ友人が現れるかどうかを確認すればいいだけだし、購入したという古道具屋のオヤジから出所を探れば、なにかしらの情報が得られるはずだ。

 僕は楽観的だった。きっとすぐに良い報告を岡崎にしてやれるだろうと思った。

 さっさと永田町へ行き、古道具屋のオヤジからあれこれ話を聞きたいところだったが、もう日が暮れつつある。

 それに、明日の晩は氷山芽衣子と佐々木紗英との三人で、渋谷で飲み会をすることになっているから、その予定に合わせて出向けば出かける手間がまとまって済む。

「明日、行くか」

 僕は軽くネットで友達人形について調べたが、それらしい情報は出回っていなかった。

 闇雲にパソコンを眺めていても仕方がないので、エレキギターを手に取りジャカジャカとアンプにつながずかき鳴らした。

 ご機嫌でギターを弾いていると、スマホが鳴った。時刻は十八時を回っていた。

 発信者は行田だった。

「はいはい」

「あ、神市か。俺だ、行田だ」

「わかってるよ、登録してあるんだから」

「念のためだよ。そんなことよりも、おまえ、来週の土曜日、暇か?」

「来週の土曜日? 特に予定はないけど、どうしたの?」

「どうしたのって、おまえ、小山八雲こやまやくもの怪談ライブ行こうぜ」

「あ、来週の土曜って十四日か……」

 小山八雲は最近人気が上昇している美人女流怪談師である。夏になれば怖い話をするためにテレビから引っ張りだこになるが、シーズン以外はテレビ出演をせず全国を行脚し、毎月四のつく日に小さなライブハウスや公民館などを貸し切って怪談ライブを行っている。

 関東圏で開催されるときに予定が合えば、僕らはライブの観覧に行くことにしていた。

「来週の土日、連休が入ったんだよ。久しぶりに行こうぜ。今回のテーマは『神隠し』だってさ。まだどこにも出してない新ネタだってよ」

「会場はどこだっけ?」

「下北のライブハウス」

「あ、下北なんだ。最高じゃない」

「それで今回、俺、除霊会のときにあの煙草事件について小山八雲に教えようと思ってんだ。ほら、あの空飛ぶ煙草」

「ああ、あれか。大丈夫なの? まだあれ未解決事件だけど」

「だからおもしろいんじゃねぇか」

「警察官があんまり情報漏らさないほうがいいんじゃないの」

「機密情報までは話さねぇよ。それにこんなおもしろ怖い話、伝えねぇほうが失礼だろ。きっと小山八雲喜ぶぜ。うまくいきゃ、懇ろになれるかもしれねぇ」

「期待しすぎると、また泣くことになるぞ。……」

 それから当日の予定を決め、電話を切った。

 非常に良い気分だった。

 小山八雲の怪談ライブ。久しぶりに楽しい予定が入った。

 僕は晩飯を食いながら、ユーチューブで小山八雲の怪談を聴いた。晩飯後も聴き続け、背筋に冷たさを感じつつ、どこからか誰かに見られているような錯覚を楽しんだ。

 得体の知れない恐怖に包まれるのは、僕にとってこれ以上ない精神安定剤なのだ。

 0時過ぎ頃に床についた。

 その晩、僕は夢を見た。

 僕は自宅におり、ソファに腰掛けて牛乳を飲んでいる。するとインターフォンが鳴り、男がひとり入ってきた。真面目そうな男で、しきりに頭を下げている。男の発言の意味が不明瞭で会話の内容はよくわからないが、どうやら、遊びの依頼を受けているらしかった。僕が依頼を受諾すると、男は嬉しそうに部屋を出て行った。

 普段なら起床後すぐに忘れてしまいそうな平凡な夢だった。ただこのときは、目が覚めた後も夢と現実の境がわからず、いつまでもぼんやりと頭の整理をしなくてはいけなかった。

 夢の中に現れた真面目そうな男の存在感が大きかった。思い返してみても心当たりのある顔ではなかったが、どういうわけか、その男とは旧知の仲であるような感じがした。

「知り合いかな……?」

 しばらくベッドの上で首を傾げていたが、結局誰なのかはわからず、次第に夢の記憶は薄れていった。

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