日当たりゼロのベランダ

ぼくと妻は家事が苦手だ。


食事はそれぞれ仕事帰りに勝手に外食が基本。コロナでリモートワークになってからはもっぱらテイクアウトとウーバーイーツに依存している。


そんな我が家において、洗濯だけは喜々としてぼくが担っている。唯一好きな家事だからだ。理由らしきものはあるが、理屈ではない。


なのでベランダは重要だ。前のマンションも広くていいベランダがあった。なかなかな量の洗濯物が干せたし、なにより空が広かった。朝、ベランダに出てコーヒー豆を手挽きしながら空を眺めたりするのが好きだった。


それで愛しの新居のベランダなのだが、まず北西向き。そしてがっしりと壁と屋根に覆われていて、日当たりという概念が存在しない。外にあるのは隣家のベランダで、運動不足のぼくでも飛び移れそうな程度に近い。


広さはというと、幅は2メートルくらい。奥行きは1.5メートルといったところ。つまり洗濯物が屋上前提みたいな古いマンションほどは狭くないが、お世辞にも広いとは言えない。


このベランダについては、正直住む前は許容はできるが微妙なポイントだと思っていた。


ものはわからないものだ。引っ越して生活を始めてみると、このベランダは第一に紹介するくらいのお気に入りポイントになっている。


まず第一に洗濯物が異常に早く乾く。これは正直びっくりした。日当たりゼロで季節は冬。下手すると24時間経ってもダメかもしれない。そう思って様子を見たのだが、気持ち悪いくらい乾いている。


特に手前の壁際のものが異様に乾いているのだが、理由は換気口。壁に囲まれているので日当たりはないのだが、代わりにその壁には換気口の出口が集中している。


最近の家はたいていそういうものなのかもしれないが、我が家は常時換気扇が回っている前提になっていて、出口のベランダでは風が流れ続けている。この風が洗濯物を乾かしている。


ベランダの主要機能は洗濯物乾燥であって、これが強いだけで事前の評価は逆転した。日当たりのなさを換気口が補っているともいえるが、むしろ日が当たらないことも含めてとても合理的だ。


ここ数年、洗濯に関するネットの言説を見る限り、天日は乾燥の好材料ではないのではないようだ。夜間の風でも十分乾くという話もあるし、致命的なのは直射日光はタオル等のフワフワさを奪うということだ。日光が当たらずなおかつ乾燥する環境は、悪くないどころか最高という可能性すらある。


このベランダを、ぼくは引越し前に工務店に頼んで最強にしていた。物干し竿受けを天井と外側にガッチリ取り付け、狭いながらも物干し竿を5,6本引っ掛けられるようになっている。いまはまだ3本で、それでも服とタオルで密林のようになっているこのベランダだが、この乾き具合ならまだいける。


いまも以前のマンションの広いベランダと変わらない量を干せているが、物干し竿を買い足せばさらなるパワーが得られるはずだ。


加えて利便性が高い。洗濯機との場所も近いし、寝室も隣なのでクローゼットにもすぐしまえる。いわゆる家事動線がよいってやつだ。これについては前の家よりも随分便利になった。


前の家では玄関近くの洗面所から、一番奥のベランダまで往復する必要があったし、ベランダーからクローゼットまでも少し距離があった。自覚的ではなかったが、今になってみるとストレスだった。


ちなみにベランダの出口廊下には作業スペースになる板が据え付けられているので、ソファに放り出したりもしない。そう、前の家ではソファには常に洗濯物がかかっていた。


ちなみにベランダにも電気がついているため、夜でも不便なく洗濯物を干すことができる。夜にベランダから光が漏れると虫が寄ってきたりしがちなのだが、いまのところみていない。単に冬だということもあるのだが、このベランダがシンプルなことにも起因しているような気がする。


日当たりの良く広いベランダだと植物を置いたりするし、エアコンの室外機で隙間空間があったりと、虫が寄る要素があるものだが、このベランダには洗濯物以外一切なにもない。雨も入らないので水気もない。このシンプルさがとても機能的だ。


そういうわけで、この洗濯に完全特化したベランダが痛く気に入っている。とはいえ家に日当たり要素がなくて大丈夫なのかという話がある。しかし我が家ではこのことを考慮する必要はない。


中庭があるからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る