前進しています。

探索魔術の一件から、1週間もすると数日が過ぎると流石に体調は幾分良くなっていた。体は少し重いが頭はすっきりしていた。


久しぶりに晴れ晴れとした気持ちで登校する事ができた。

首飾りの伝説など遠い昔のような気分だ。


それに今日は午後はほとんどコマがないのでクラブにも顔を出せそうだった。

久しぶりに魔術の研究調査ができそうで心が弾む。


エアノアは探偵倶楽部の活動にはほとんど参加していなかった。彼女は学園の図書館や資料室の古い文献に記載されている魔術を研究していた。

文献研究と言ってもそれらのほとんどは、御伽噺や昔話のような物語ばかりでそのような話に夢見ながら夢想するようなものであった。

彼女のように、クラブには席を置いて入るが、コマとコマの空き時間に半ば暇つぶし用に参加している部員は少なくなかった。


ただ、教室に入り彼女の机を見ると、今日の計画は危機に瀕した。

バーネットからの手紙が入っていた。

今回は前回のように秘密結社からではなく、普通の手紙であった。

どうやら秘密結社は通さないとの約束を律儀に守っているらしい。


昼食を一緒にどうかという誘い。

「そういえば、この前の報告をしていなかった。」


昼食…学食なのだろうか?

学園の学食は昼は当然のこと朝も夕食まで提供しておりボリューム、味ともに食べ盛りの学生たちに人気であった。


当然エアノアもなんの不満もない。食事としては…学生や教師が入り乱れた騒然とした雰囲気の中、この前の魔術について話すのだろうかと疑問が湧いた。


しかし、待ち合わせの場所は学食ではなく、校門と記されていた。

午前の授業を終えて校門に向かうとバーネットが澄まして立っていた。


表情はどこか強張りがあるように見える。やはり、学園内では堅苦しい役回りというようなものがあるのだろうと、エアノアは思う。


「ごきげんよう、今日はこの前のお礼にお食事をご一緒して頂こうと急にお呼びたてして、ごめんないさい。」とバーネットが澄まして挨拶をする。


「いえ、私の方こそ何も言わずにすいません。」どうやらバーネットは、ここ数日のエアノアの状態を知らないようであった。


「どうも堅苦しくなるわね。この前はびっくりしたわ。まさかあんなことになるなんて…よくあることなの?」バーネットは我慢できないように、一気に喋り出す。

「意識を失うことなんてなかったのですが…その後も体が重くて」

「まあ、今もお加減は悪いのかしら?」

「いえ、今は随分良くなりました。」


「それは良かったわ。」バーネットは本当に安心した様子だった。


バーネットの後に付いてそのまま「寮」向かった。豪奢な門扉はいつ見ても威圧的だ。

今日は随分と人気が多い。

「寮生は昼食は、こちらで摂る事が多いのよ」

「確かに貴族の生徒は学食ではあまり見ませんね」


「色々あるのよ...ほんと堅苦しくて疲れるわ」バーネットが深いため息が漏れる。

「でも、今日は貴方と二人きり楽しそうだわ」

バーネットに案内された部屋は黒いオークの扉がこれまた威圧的に聳えていた。


「どうぞ、入って」とバーネットが開けると

「いらっしゃいませ」と老紳士が出迎えてくれた。

「彼は我が家の執事のセバスチャン」バーネットが紹介してくれた。


執事でセバスチャン!

本当にそんな事が偽名だろうか?見た目もまさに執事のイメージをそのまま実写化したような人物だった。


白髪頭は綺麗に整えられ、口髭も清潔感がある。

燕尾服も下のシャツものりが利かせてあり、全く非の打ちどころがない。


エアノアはなぜか信じられないような気がしてすぐに返答できなかった。

「フフっ本名なの、安心して、優秀な上に口も硬いわ」

「私もこの名前には愛着を感じておりますので、お気になさらずに、どうかセバスチャンとお呼びください。」


セバスチャンが勧めるままに席に着く。


それほど、広くはないが大きな窓からは広い庭が見渡せるので狭さは感じない。

テーブルも部屋に合う程度の大きさで清潔なクロスが掛けられていた。


確かにここなら、密談も可能だろう。

エアノアは食堂の喧騒を思い出して納得した。


「まずはワインでもとしたいけど学園ではやめておきましょうね。」

バーネットはもうお酒を飲めるようであるがエアノアは飲めないので安心した。


前菜は目にも鮮やかな、料理が運ばれてきた。

「うわ〜キレイな料理」

「冬はどうしても殺風景ですから、いいでしょう?」

「ええ見ているでけで、気分が上がりますね。」

「さあ、食べましょうか」


二人ともほぼ無言で、料理を食べた。


デザートが来る頃になってようやくバーネットが本題を切り出した。


「先日の魔術の方なのですけど、結果を聞かせていただけますか?」バーネットは幾分か謙るように言った。


エアノアは魔術で見たことを、伝えた。

長身の男性、おそらくかなりの身分であること、そして彼が継承者であり、その手で首飾りを破壊した。


ただ、その後の黒い部屋のことは伝えなかった。

なぜか、その方が良いと思った。


今の状況と照らし合わせると、首飾りの継承者は総長にメッセージを送ったが首飾りを送らなかった。


もはや聖母像は失われたのであろうか?


「……そうではない気がする。」エアノアはそう思う。

なぜだかはわからない。

それに、あの黒い場所はなんなのどろうかとても大切な場所のような気がする。

実際には情景以上に残っているのは安心感だった。

感覚のつながりを可視化しているだけなので、印象や感情の方が強く感じられるのもこの魔術の特徴であった。

夢に近いと言っていい。起きた時に何を見たのかを、細かく思い出せなくて恐怖や喜びなど感情だけは残っている。それに近い感覚だった。


この感情はなんだろうか?

あの男性に感じたものだろうか。そういえばかなり長身だったし知的な雰囲気だった。

もしかすると、これは運命的な出会いの幕開けななろのではないか?

そんな期待が突如湧いてくる。エアノアは自分の考えに驚いた。

密かに胸の高鳴りを感じていた。


バーネットはエアノアの思いなど知らずに、説明を促す。

エアノアは魔術を通してみたことを話した。暗闇と女の子の声以外を…なぜかこのことには触れなかった。エアノアにとってもあまりにも理解不能なことであったからかもしれない。


「裕福で長身の男子生徒ですか…」バーネットは人差し指を口元に当てて思案する。

「それだけではなんの手がかりにもなりませんよね…」


「いえ、そうではないのです。私の知り合いにそれらしい方がいるのです。」


「ええぇ〜〜」

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