第2話 王子様が現れた

 そして入学から一ヵ月。

 在校生は部活が必須なので、入部体験を繰り返している一年生も、そろそろ活動する部を確定しなければならない。

 例の王子様の体験入部を追いかける女子が絶えず、いまだに部活が確定してない子が多いらしい。

 本気で部活をしたい子が少なくて、ワーッと群がっては散っていく。

 嵐のような行動を繰り返しているらしく、先生方も困惑しているようだ。


 大変だな、王子様みたいな人気者がいると。

 

 ちなみに、クラスの噂ではいまだに「王子様」なので、彼の苗字すら私は知らない。

 王子様が五組で、私が一組なので、基本的に接点もないのだ。

 他の女子みたいに王子の顔を見に行けば良いのだろうけど、幸い、仲良くなった女子は「男よりスイーツ!」の子だった。

 おかげで新作スイーツにも詳しくなったし、調理部に入った彼女のおかげで美味しい思いもしている。


 ちなみに私は、入学してすぐ、歴史愛好部に所属している。

 私の性癖を生かせる部活があって本当に良かった。


 実は、私の母は沼にどっぷり沈んだ歴女で、石田三成に傾倒している。

 そして、この妻にしてこの夫アリで、父も戦国時代を推していた。

 二人もそろうとお宝は、膨大な量の戦国関連の資料となる。

 物心つかないうちはまだしも、私にもその意味がわかるようになると、はじめはドン引いていた。


 しかし、しかしである。

 本があったら見ちゃうよね! 戦国関連の資料って面白いよね!


 と、いうことで。

 気が付くと私は、真田幸村に心を奪われていた。

 ちょっとのつもりでその世界を覗いたら、家族と似た沼にどっぷり沈むとは血の呪いか?


 うん、笑うしかないよね。

 私自身、やっちまったって思ってる。


 そんな私がたどり着いたのが歴史愛好部。

 漂う空気が最高なのだ、我が家みたいに。

 部長は西洋史オタクだと入部時に聞いたけど、戦国時代の話にも乗ってくれるので居心地は大変よろしい。


 なんてことを思いながら、歴史愛好部の部室の扉を開けた瞬間。

 部屋の真ん中に立つ、見知らぬ男子生徒がいた。


 振り向いたのは知らない顔だけど、間違いない。

 噂の王子様である。


 まさか、こんなところで初顔合わせになるとは。

 さすがは王子様と呼ばれるイケメンだ。

 ハッと目を引く綺麗な顔立ちをしているし、まとう雰囲気も爽やかで、涼しげな目元に気品があり、スラリと長身で手足も長くて、とにかくバランスがいいのだ。

 女の子が騒いでいるわけも秒で理解する。

 うん。本物のイケメンを、生まれて初めて見た。


「歴史愛好部は、ここで間違いない?」

「入部希望? ここ、体験がないうえに、入部テストがあるけど大丈夫?」


 なにこれ、ドラマかよ。声まで良い。

 歴史愛好部のオタク沼には似合わない人だなぁと思っている私に気付くこともなく、王子様はニコリと微笑んだ。

 女生徒が百人いれば、九十八人ぐらいはポーッと見惚れそうだ。

 ポーッとならない希少な残り二人に入る私は、見学者名簿を淡々と取り出して名前を書いてもらう。

 当然といえば当然で、王子様は字も綺麗だった。


「斎藤和也君? 安心するぐらい普通の名前だね」


 横からのぞいてプククッと笑ってしまった私に、王子あらため和也君は驚いたのか軽く目を見開いて、すぐにビックリするぐらい綺麗にはにかんだ。

 染みひとつないツルツルの頬がほんのり紅潮している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る