第7話 重力波発生源

 喫茶NTRから量子探偵事務所NTRに移行するには、人力じんりきで少しばかり物を動かさなくてはならない。

 普段、俺が座っているロッキングチェアー2脚は、入り口のレジカウンターに持って行かれる。

 その向かいにある、普段は客席となっているソファーとテーブルは、そのままカラオケに使用される。


 ただ真ん中のテーブルは障害となるので奥のカウンター側に移動させ、さくたんとはじめちゃんがコントロールルームから出て来て、後を桜花に任せると同時に、そこから32型のモニターを1台持ち出して来てカラオケ用に2台目のモニターを置く。


 メインのカラオケ用モニターは俺が普段座っている、ソファーとは向かいの壁に65型を掛けてある。

 その下が歌い手の舞台となるのだが、横を向いたり、お尻しか見えなかったりと、さくたんやミス・テリーとかぴたんが、歌って踊る姿が見えないと全員から、“俺に”クレームが上がりもう一台置く事となった。


 65型のモニターの下に普段ある直径65cmの丸テーブルは、入り口側の壁から8畳の面積を取った、その中心に置かれる。

 丸テーブルの中心も、一定の誤差範囲内に置かれる。


 天井からは、上の階のサブコントロールルームの制御でミラーボールが降ろされる。

 これには非線形光学物質が使用されており、高出力レーザーを格子に配置したり、光子対を作り出す為の物だ。

 このミラーボールの真下には、さくたんの計算モデルをもとにした、重力波発生の為の非常に重要なゲージがレーザー光によって作り出される。


 カウンター席に向かい右手の壁に、クラッシックな窓が有るのだが、マジックミラーになっており、普段は向こう側からカーテンが引かれている。

 カウンターに入って壁に向かうと扉が有って、ここから隣のメインコントロールルームに入る事が出来る。

 つまりこの窓は、メインコントロールルームから、重力波発生源となるこの部屋を目視する為の物だ。


 今少しばかり、メインコントロールルームは騒がしい。

 どたどたどた。「いやいやいややぁーーー、私はいやぁーーー」

 ぎゃぎゃぎゃ。「それそれそれぇ~剥いちゃえーーー、お~さくたんいいねぇ~」

 わいわいわい。「やふぅーーー、ぷりっぷりっ、プリットキュアだぁーーー」

 「私は」

 「ミス・テリー、プリットキュアだよぉ~、撲滅ぼくめつのサイレントぷりっとだよぉ~」

 「私は」

 「え~~~、じゃぁ~殲滅せんめつ爆散ばくさんぷりっとと替わってあげる」

 「だめぇーーー」

 「ぉぉぉおおお~~~、さくたん撃滅げきめつの極大ぷりっと」

 何だそれ、かぴたんの熱烈な要望で、今回コスプレもするらしいのだが。


 おっ、さくたん以外は出て来たね。

 さくたんとはじめちゃんは、重力波の発生を確認するまで作業があるからね。

 ほほぉ~、わりと普通。

 何かかぼちゃ見たいなスカートに、色は派手だけどローファー。

 原色のアームカバーにひらひらのいっぱい付いた服。

 髪はそのままなのね。


 ぉぉぉおおお~~~、まもちゃんはボディーラインがはっきりと分る。

 これは大胆、オヴァンゲリヲンかな、娘子隊じょうしたいの子達もきたえてるだけあって、自信があるのね、皆自衛官だしね。

 まぁ~、俺以外は女の子ばっかりだからね、と、しとこう。



 ぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴよ。「はい、早紅耶さくやです。・・・はい、了解、両国の重力波望遠鏡チーム承諾しょうだく、検出準備OKね。はじめちゃんメインにコントロール移して降りて来て、始めとくから」


 おっ、さくたんが窓から手を振ってるね。

 準備出来ましたか、いよいよ俺の出番ね。

 「おっちゃぁーん、始めてぇーーー」

 「じゃぁ所長、お願いします。ミス・テリー、かぴたん頑張ってっ」

 「ほぉーーーい」「まぁ~かせて、ちち、行くよ」「分ったよん」



 俺とミス・テリーとかぴたんは、丸テーブルの周りを回り始める。

 「「「「「どっんどっとっと」」」」」「「「「「どっんどっとっと」」」」」

 ♪どっんどっとっと。誰かがソファーの前のテーブルと叩いてリズムと取り始めた。

 ♪どっんどっとっと。「「「「「「「どっんどっとっと」」」」」」」

 「「「「「Yahoo~」」」」」「「Yeah~」」「「「あわわわぁ~」」」

 ♪どっんどっとっと。「「「「「「「どっんどっとっと」」」」」」」

 「「「「「Yahoo~」」」」」「「Yeah~」」「「「あわわわぁ~」」」

 これってさぁ~、必要なのぉ~。

 ♪どっんどっとっと。「「「「「「「どっんどっとっと」」」」」」」

 「「「「「Yahoo~」」」」」「「Yeah~」」「「あわわわぁ~」」

 俺は前々からミス・テリーにこの儀式的ものが必要なのか聞いてみたかった。

 「あのさぁ~、ミス・テリー、『あわわわぁ~』てっ口に手を当てるこれ、必要なの」

  ♪どっんどっとっと。「「「「「「「どっんどっとっと」」」」」」」

 「「「「「Yahoo~」」」」」「「Yeah~」」

 「必要ぉ~、インディアン、嘘つかない。ねぇ~かぴたん」

 「うん、めっちゃ必要ぉ~」「「あわわわぁ~」」「そうか、あわわわぁ~」


 これが始まると、天井のミラーボール下部からレーザーで作られた棒状のゲージが、テーブルの中心上に表示される。

 テーブルに近い方から、青紫あおむらさき、青、シアン、緑、黄色、オレンジ、赤の7色。


 ミス・テリーとかぴたんは、このゲージを見ながら自分の力をコントロールする。

 青紫あおむらさきの方へかたよるとミス・テリーの斥力せきりょくが強く、赤にかたよるとかぴたんのヒッグス場が強い。

 二人は出来るだけ緑が強く輝く様に力を使う。


 そしてバランスが取れたら、力を強めていく、するとゲージの直径が膨らむ。

 こうする事で俺がエネルギー変換されたり、ミニブラックホールにならない様に見掛け上の質量を増大させ、俺が動き回る事で重力波を発生させる。


 この部屋には高解像度のカメラが、丸テーブルを中心とする8畳の四角形の四隅、天井に設置されている。

 桜花は各画像を分析、光子対の状態などを解析、ここの床全体が大規模な荷重センサーになっている。

 桜花はこれらをもとに重力波を予測計算しているが、実際の大きさや波形の確認は、他国に頼らないと分からないと言う訳だ。

 俺は自重が増して行くのを感じながら、ぐるぐると回り続ける。

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