spot 2 後編

(テロップ)

【前回のあらすじ】

 

【視聴者紹介の、5階建ての廃病院。そこは違法手術を繰り返し、一時ニュースにもなった場所だった】

【入って早々、エリカが人影を見、アズサも何者かの声を聞く】

【そして私たちは、もっとも現象が報告されている4階手術室に向かった】


【のだが】



(カメラはエリカが持っており、アズサが映し出される。前編は4階への階段で、何かに動揺する二人が映って終わりだったのだが、今映る二人は階段ではなく、廊下にいた)


3階廊下

(床にはカルテが散らばっている。ということは、前回二人が立ち寄った3階の廊下か。帽子のつばを持ち、マスクをつけたアズサが息を弾ませながら、カメラの向こう、エリカを見ている)

「明らかに足音したよね……?」

(アズサ、声をひそめ、まばたきを繰り返して言う)

『ズッズッ……って、摺り足? っていうか、そんな感じの音だったね……』

「普通に人だったら、危ないかも……どうしよっか」

『いや、行ったほうがいいんじゃないかな。ここまで来たんだから』

「エリちゃん、なんでそんな前向きなの? 最初あんな怖がってたのに」

『や、別になんでってわけでもないけど……』

「……」

(アズサ、黙る。身の安全と撮れ高を秤にかけているようだ。「……」のあと、エリカが口を開く)

『前回、アズちゃんが一人で行ったんだよね、調査』

「そうね」

『じゃあ、今回は私が一人で行くよ。アズちゃんはここで待ってて』

「いやいや、ちょっと待って。エリちゃん」

『何』

「何か……おかしいよ。さっきまであんなに怖がってたのに」


(テロップ)

【エリカの様子がおかしい】


『いや、全然大丈夫だって』

「あんまり言いたくないけど」

『でもスマホでカメラの映像見れるんでしょ?』

「見れるよ」

『だからいざとなったら駆けつけてくれれば大丈夫だって』

「そう……いうことじゃないんじゃ」

 

カット

(テロップ)

【話し合いの末、エリカ一人で向かうことに。その代わり、アズサも階段脇で待機する】

【カメラの映像はアズサのスマホを通して映し出され、少しでも違和感を感じたら引き返すことが条件だ】

 


階段

『……「F」しかないね、4って字潰れてる』

「自然に消えたって言うより、意図的に消されてるように見えるわね」

(アズサの言うように、4の文字だけが掠れてしまっており、Fだけが残っている)

『よく4は不吉だから病院とかでは使わないっていうけど』

「この病院に関しては絶対そんな配慮はしないでしょうね」


4階

(アズサ、潰された4の文字に身を預ける。マスク越しでも険しい表情をしているのが、わかる)

「ここにいるけど……なんかあったらすぐ帰るからね」

『はいはい。行ってきます』

(カメラを持つエリカの声。心なしか、言葉が躍動しているように聞こえる)


カメラ

『寒いな……。長袖着てるのに』

(エリカが呟く。カメラは周囲を映しているが、変化はない。この階には病室ではなく、診察室がならんでいるようだ)

『レントゲン室……第2診察室……うん?』

(カメラが左側の部屋を映す。頭上、プレート、「多目的室」の字。ライトが室内を照らす)

『病室じゃないのに、なんでベッドが』

(広さは小学校の教室くらい。そこに、ずらりとベッドの列が二列。カメラ映像だけでも、上下あわせて20床くらいあるのがわかる)

『っ……うっ』


(テロップ)

【苦しそうに呼吸をもらすエリカ】


『すっごく嫌な感じがする……なんでだろ』

(その場に居たくないのか、エリカ、踵を返して、再び廊下を進む。カメラは奥を照らしているが、闇が深く、終わりがわからない)

『はあっ……はあ……。手術室……どこなんだろ』

(それらしき部屋は見当たらない。荒い息遣いとともにやがてカメラは、行き止まりに辿り着いた)

『なんで……どこにもない?』

(荒い呼吸。まるで、運動後のような……)

『はあっ……はあ……はあ……はっ……!』

(カメラ、振り返る。階段の方にいるアズサの姿は、闇が深くて見えない。ただ、それはおかしい)

『い、今、だれか、後ろで、息吸った……』

(その音声は、確かに入っている。エリカの『はあ、はあ』という、早くはあるが一定の呼吸の中に、「ひっ」という引き笑いにも聞こえる音が)

『も、もう、もど、戻るよ。アズちゃん』

(カメラ、踵を返したまま、元来た道を引き返す。足音の間隔が早い。恐怖に襲われつつ、パニックにならないようにしているのか、駆けることなく早歩きだ。その歩みが、何故か不意に、止まった)


(テロップ)

【なぜか立ち止まるエリカ】


(カメラ、さっきのベッドが並ぶ多目的室を映している。と)


 サッ……サッ……サッ……サッ……ザッ……サッ……ザッ……ズッ

 タッタッ……サッサッサッ……


(エリカは立ち止まっている。なのに、足音が……。しかもそれは、一人や二人ではない)


『あ……』


 ザッ……ザッ……ガタンッ……ドッ……!!


「エリちゃん!」

(カメラ近くで激しい物音がした瞬間、近くで声がした。アズサの声だ。カメラはその姿を捉えず、多目的室を映している。エリカは動けなくなってしまっているらしい)

『あ……ああっ……』

「行くよっ。もう、カメラ貸して!」

(カメラの視点が二転三転ぶらつく。それが安定した時にはアズサがカメラを持ったときで、階段を下る彼女の足だけが映し出されていた)



暗転

(テロップ)

【私たちは、慌てて病院を後にした。エリカは放心状態だったけれど、間もなく意識を取り戻した】

【あくまで仮説だが、あの多目的では、何か恐ろしいことがあったのではないだろうか。たとえば……】

【あの多目的室こそが、「手術室」だったのか……?】


(多目的室を映すカメラ、それは確かに何物かの足踏みをとらえていた。あるいはアズサの足音かもしれないが、少なくともエリカの足音ではない。また、微妙に違う足音、もしもそれぞれその持ち主が違っていたなら、そこにはいったい何人のそれがいたのか)



(テロップ)

【最後に、私たちはある部分に不可解なものが映りこんでいることに気づいた】


 前編 階段を上っていた部分

(床が抜けて行けなかった2階、エリカの持つカメラがそちらの方を少しズームして撮り、アズサの後を追う。その、ズームした映像だ)

 

 繰り返すが、2階は床が抜けていて人が立ち入ることはできない。しかし、ズームしたところにある病室から、影が、もっと言ってしまうなら、白衣をまとった女性の姿が。


【3階、カルテの散らばっていた場所。4階、多目的室があった場所は、ちょうどその真上にあたる】

【エリカは、なぜ、わざわざズーム撮影したのか。あまり記憶にないという】

【そもそも、病院に潜入してからの意識がふわついているのだと、彼女は言った】

【違和感を覚えた私は後日、エリカを連れてお祓いに行った】



【※当動画を見たことによるについて、○○(チャンネル名)は一切責任を負いません】



             ↺(もう一度見る)

おすすめ動画

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※この物語はフィクションです。無許可で廃墟などに立ち入ることは辞めましょう。もちろん私(蓬葉)もしません。法律が許してもそんなことしません。

 また、この話は書き下ろし風の展開になっていますが、元動画があるわけではありません。

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