spot 2 前編

【※当動画を見たことによるについて、○○(チャンネル名)は一切責任を負いません】



……カメラ起動。

(帽子を目深にかぶった、紫のインナーカラー、帽子を被った長髪の少女と、黒いショートボブで黄色の上着にジャージを穿いたイヤリングをした少女が映る。夏場とは思えない、長袖を着たイヤリングの少女が口を開く)

『こんにちは! 〇〇(伏字:チャンネル名)の……」

「ちょっと……。テンションどうなってんの」

『しょうがないじゃん。私最初のあいさつやったことないし」

「まったく」



TAKE2

「こんばんは。〇〇のアズサと」

『エリカです』

「これでいいんだよ」

『はあ難しいなあ』

「今度ひとりで行ってもらうから、練習しといてね」

『うん……。えっ?』



カット

「今日は、ありがたいことに前回の動画見てくださった方から、行って欲しい場所があるっていうことで」

『ありがたいね。……ありがたいか?』

「エリちゃん」

『なに?』

「今日行くのは病院です」

(エリカ、息を深く吸って『まじか……』と吐き出しつつ言う)

「その病院はですね」

(アズサ、苦笑がちにスマホの画面を見つめている)

「えー、今から20年くらい前に廃墟になった病院で、院長がお金目的で違法な手術を繰り返したとしてニュースにもなったところだと」

『へえ』

「いまだにベッドとかカルテとか、医療器具とかが残ってるらしいんだ」

『ほー』

「で、特に現象がおこると言われてるのが、4階にある、手術室なんだって」

『手術室……うん』

「なので、そこを目指して探索してきましょう」

『はあ……しょうがない』

(エリカ、今回は本当に嫌そうだ。今回は前情報があるからかもしれない。あるいは廃病院が嫌いなのかもしれない。好きな人もまずいないだろうが)



カット

(病院の外観が映し出される。夜ということもあり、いっそう不気味だ)

『ちょっと待って。すっごい怖い』

「ね」

『ね、じゃないよ。これ、何階建て?』

「5階建てだって聞いてるよ。でもあの、周りが山だから目立たないんだよ」

『山の中か……。だから世間の目もあんまり向かなかったのかな』

「あー、違法手術の話?」

『うん。だからそういうのもやりやすかったのかなって』

「かもしれないね」

『なんだかやるせない話だね。はあ』

「うん。なんか、シメに入ってるけど、中入るからね」

『もうほんっとにやなんですけど』



潜入

(エリカがカメラを持ち、前で懐中電灯を照らすアズサを撮影している)

『これナースステーション?』

「ほんとだ。ていうか、なんかすごいにおいする……」

『薬品のじゃないね。カビの匂いだ』

「マスクしとこう」

(ナースステーションを中心に右側と左側に通路があると見えるが、右側の道は通れなくなっているようだ)

『こっちはいけないみたい。天井が落ちちゃってる』

「普通に危ないから気を付けてね足元」

『うん』

「どっかに階段があるはずなんだけど」

『その扉なに?』

(エリカ、ナースステーション脇の扉を映して言う。アズサ、近づいて様子をうかがう)

「あっ、これ……」

『え、何?』

(不気味な音を立てて扉を開ける)

「外だね」

『うわっ、吹き抜けになってるんだ』

(そこは中庭だった。頭上、エリカのカメラが5階分の旧病室棟を映す。とそのとき)

『えっ、ちょっとちょっと……!』

「なっなにっ……?」

『あそこっ……! 人いるっ!』

「しっ!」

(エリカのカメラがその方向を映す)

『ほらあそこ……』

「どこよ。何階?」

『えっとえっと……』

「まって。いったん落ち着いて」



エリカが落ち着きを取り戻すまで、カット 

(カメラの持ち手はアズサに代わったらしい。エリカ、古びた椅子に額を抑えて座っている)

「エリちゃんが、なんか人がいるって言うんですけど、カメラには映ってないんですが。エリちゃん大丈夫?」

『ちょっと、やばいかも。もしかしたら普通に人いるのかもだし』

「帰る?」

『ん……いや、でも、行かないと、駄目でしょ』

「無理はしないでよ。ほんとに」

『大丈夫』

「……じゃあ、まあえっと、あっちに階段あるから、上の方行ってみようか」

『わかった』

「なんかあったらすぐに言ってよ」

『うん』



階段・2階

(再びエリカがカメラを持っている。アズサとエリカ二人分のコツンコツンという足音が響く)

『落書き無いね……』

「山奥だし、あんま寄り付かないんでしょ」

『んー……』

「2階」

『床抜けてる』

「ここはいけないね」

(アズサ、すぐに意識を切り替えて、階段をコツコツと昇って行く。カメラはアズサを映した後、そちらの方を少しズームして撮り、アズサの後を追う)

「3階か」

『あれなに? 紙いっぱい落っこちてる』

「カルテ、かも。ちょっと行ってみよう」

『うん』

(アズサ、前を行く。エリカの呼吸が今日はやけに響く。本当に怖がっているらしい)



3階

(紙をひっくり返すと、モザイクがかかった。個人情報が載っているからだろう)

『名前載ってるね』

「そりゃそうだ。モザかけとかないと」

 うう……

「ねえ大丈夫? 吐きそうだったけど」

『えなにが?』

「え? いや、今なんかううーって」

『言ってない言ってない』

「いや嘘だって。今完全にエリちゃんの方から」

『嘘でしょ』

(カメラ、背後を映す。しかし、少し遠くにさっきまでの階段があるだけで何も映っていない。そこはただの廊下で、脇に病室もない)

『ほんとにそういうのやめて。そうやって怖がらせようとして』

「いやいやいや絶対カメラ入ってるから」

『……』

「上行こうか」

『……うん』

(アズサ、再び前を行き階段へ。エリカ、後を追う)

『4階の手術室が、いろいろ噂がある場所なんだよね』

「うん」

『具体的には、どんな話があるの?』

「若い女性の霊が出るって言われてるみたい。詳しい話はわからないんだけど、手術に失敗したっていう」

『まあ、よくある話ではあるね。あれ、でも、違法手術の話は関係ないの?』

「そこはわからない」

『なんかもやもやするなあ』

「大体そんなもんだって。ああ、あともう一つ話があって」

『うん』

「そこで、看護師も一人死んだ……っていう」

『えっ?』

「違法手術を告発しようとした看護師さんがいて、拘束して、麻酔かけないまま「手術」したっていう話があるらしいんだ」

『それって、ただの殺人じゃない』

「そういうことになるね」

『ほんとだったら、もう……えっ』

「ちょっとちょっと……!」

『待って待って』

(何かに動揺する二人。それが明かされることなく、テロップが表示される)

 

【後編へ続く】



               ↺(もう一度見る)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※この物語はフィクションです。無許可で廃墟などに立ち入ることは辞めましょう。もちろん私(蓬葉)もしません。法律が許してもそんなことしません。

 また、この話は書き下ろし風の展開になっていますが、元動画があるわけではありません。

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