第57話「大海老天」

父「あとは、トイレットペーパーの使い方で終わりだ」


娘「ちょうど、お母さんも帰ってくる時間だね」

父「そうだな。帰ってくるまえにやってしまおう。トイレットペーパーは、日常点検だ。排便をした後、異常がないかの確認だな」

娘「治療にはならないの?」


父「治療にもなるけど、痔の人はトイレットペーパーで押した後、下着の上から押したほうがいい」

娘「それは、やっぱり摩擦があるから?」

父「そうだ。トイレットペーパーは柔らかくても、やっぱり紙だから、あまり使い過ぎると皮膚に悪い」

娘「なるほどね〜っ。それで、お尻のふき方は?」


父「お尻のふき方は、まず、普通に拭く」


娘「1回目ね」

父「そう。俺は、後ろから前に拭くが、女性は前から後ろか?」

娘「そうだね。女性は前から後に拭かないと膀胱炎になるって言われているから……男の人は大丈夫なの?」

父「男は大丈夫だろう!? たぶん……」


娘「わかった。2回目は?」

父「2回目は、トイレットペーパーで肛門を押さえるんだ。ぎゅ〜っと肛門の出口と肛門の周りを押さえる。少しづつ場所を変えて、いろんな場所をだいたい30秒くらい押さえる。そして、押さえた後で拭く」


娘「押さえた後で拭いても大丈夫?」

父「トイレットペーパーが破れるかってか?大丈夫だよ、ちゃんと拭ける」

娘「そうなんだ。それじゃ〜っ、3回目は?」

父「3回目は、2回目と同じ! 肛門をぎゅ〜っと押さえる。そして、たまに坐骨の内側も押さえる。それから拭く」

娘「坐骨の内側はたまにでいいのね」


父「ここも、コリがある人は下着の上からやったほうがいい。ゆっくり時間をかけて丁寧にしたほうがいい。お尻は繊細だからな」

娘「3回目で終わりなんでしょ?」

父「別に決まりはないが、それ以上やると、お尻が痛くなったり、痒くなるぞ。肛門が出ている人は、トイレットペーパーで押していると、奥に引っこむぞ」


娘「炎症がおさまるのかな? そっか、じゃあこれで話しは終わり?」


父「簡単だろ? こんな簡単なことで痔の予防ができるし、ある程度までなら治ると思う」

娘「わかれば簡単だけど、なかなかトイレットペーパーで押さえるって発想は出ないよ」

父「俺も気づくのにずいぶんかかった。小学校のトイレはくみ取り式だったが、紙はトイレットペーパーでトイレットペーパーにあこがれがあった。ついでにトイレットペーパーを捨てる時は、出した便にかからないようにすると、自分の便を見れるぞ」


娘「お父さん、自分の便を見てるの?」


父「もちろん見ている。50歳を過ぎたら、もう大腸がんのチェックで、便は見ておいたほうがいいぞ。一度、真っ赤な便が出て、これはまずいと思ったことがあった」

娘「真っ赤ということは、肛門付近からの出血!? 内痔かな?」

父「いや、よく見たらミニトマトの皮だった」

娘「…………」



母「ただいま〜っ」

 母親が帰ってきた。

娘「お帰りなさい」

母「あら、あなたも帰ってたの、早いわね」

 母親が勘蔵を見て言う。


娘「今日は、お父さんの半生を聞いていたのよ」

母「あなたの半生? 日頃の生活をしてほしいわ。ももひき姿で家の中を歩き回って、せめてスエットかジャージにしてよ」


父「スエットはゴムがきついからな……俺は、冬子に秘伝を伝授していたんだ」

母「また、パチンコの勝ち方とかじゃないの?」

娘「尻尾の秘密の話しだよ。お母さん、生餃子を買って帰るってメールあったけど、生餃子は?」

 母親は買い物袋を持っていない。


母「あっ、そうだ。忘れた! 何か忘れたような気がしたのよね。買い物をするのを忘れたわ。冷蔵庫に冷凍餃子が無かったかしら?」

娘「あっ! あたしも、ご飯炊くの忘れてた。どうしよう……」


父「出前を取ろう! 今日は俺が支払い出すから」


娘「それなら、あたし『はまこう』さんの天ぷらそばがいいな!」

 冬子が勘蔵を見て言う。


父「『はまこう』か……それじゃ〜っ、大海老天の天ぷらそばにしようか? お母さんもいいかな?」

母「いいわよ」


『はまこう』に電話で注文をする勘蔵。

父「大海老天のそば、温かいやつ3つ。それで、ひとつ大盛りでお願いします」


娘「あたし、『はまこう』さんの大海老天って食べたことなかったんだ」

母「冬子は小さい頃に大海老天のそばを見て、海老の頭が怖いって言ってずっと食べなかったのよ」

娘「そうだったの? 覚えてない……」



はまこう「お待たせしました。大海老天のそばです」

 出前のそばが届いた。

 

娘「うあっ、デッカイ海老天! 頭もデカくて、これは怖いかもしれない!?」

 そばの丼からはみ出した海老の天ぷら、海老の頭も付いていて食べるのが大変なくらいだ。


娘「お母さん、『はまこう』さんで、お父さんにプロポーズされたんでしょう?」

母「えっ、そんなことも話していたの?」

娘「その時、お母さん大海老天のそばを食べていたって……」


母「そうね、あの時は、真珠の耳飾りをもらって、さっそく付けたんだけど、おそばを食べてる時に、丼の中に片方を落としちゃったのよ。私、耳飾りってあんまり付けたことなかったから……」

娘「丼の中に落とした!?」

母「そうなのよ。丼の下の方に行ってしまって、お父さんに気づかれないように髪を横に垂らして顔を隠しながら、おそばを食べながら真珠の耳飾りを探したわね……」


娘「それって、猫の妖怪が行灯の油をなめているってやつ!?」


母「猫の妖怪? なにそれ?」

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