第49話「パンツ」

父「俺は、お尻から出血するようになって、冷えが原因だから温めると良くなるだろうと思った」

娘「温めたの? お湯で?」


父「まず、パンツを変えた。今まで一年中木綿のトランクスだったが、もっと暖かい素材のトランクがあったので、季節によって変えるようにした」

娘「トランクスは変えないんだ」


父「ブリーフは、ちょっと抵抗があるな……蒸れるような気がして……」

娘「女の子は、だいたいブリーフみたいな形だよ。トランクスのような形はあまりはかないよ」

父「ここは涼しいからいいけど、本州の自動車工場に居た時、沖縄の人が何人かいて朝と晩に風呂に入るんだよ」


娘「朝と晩? 1日2回もお風呂に入るの?」

父「そうなんだよ。俺なんか子供の頃は週に1~2回しか風呂に入らないのが当時は普通だったから、沖縄の人が朝晩風呂に入るのが変にみえたんだが、蒸し暑い夏に意味がわかったんだ」

娘「意味があるの? たんなるきれい好きじゃないの?」


父「あるんだよ、意味が。その頃、仕事が終わってから風呂に入っていたんだが、体が痒くなってきたんだ」

娘「痒くなる?」

父「股間とか脇とか肘の内側とか、汗の溜まるような所が痒くなって、なんだろうと思って見たら、赤くなっているんだ」

娘「皮膚病かな?」


父「職場の人と話したら、水虫だって言うんだ」

娘「水虫!? 水虫は足の指じゃないの?」

父「水虫は足の指だけど、白癬菌と言うのが原因で、これが足の指だけじゃなく体にもつくんだ。白癬菌の付いた場所によって呼び名が変わって、股関なら“インキン”他は、ハタケとかシラクモなんて言うらしい」


娘「うああぁっ、なんか聞きたくない話しだ……」


父「南方に戦争に行った兵隊さんの話しを親父から聞いたことがあったが、虫に刺されたり白癬菌で皮膚が痒くなるのに悩まされたらしい。それで、南の沖縄の人は朝と晩に1日2回も風呂に入って皮膚を洗っていたんだ。暖かくて湿気のある所では、1日1回では白癬菌がついてしまうんだ……」


娘「それでトランクス?」


父「ブリーフだと股関が蒸れてインキンになりそうだ。南方に行った兵隊さんはフンドシだったみたいだけど、フンドシの方が風通しがいいだろうな。しかし、フンドシとズボンは合わないんじゃないか?」

娘「そんなことを考えてたの?」


父「何百年もかけて服装を考えて、フンドシと着物に落ち着いていたのが、西洋化でパンツとズボンに変わった。昔は、みんな着物を着て帯をしていたから、知らずしらずにお腹を冷やさないようにしていて、免疫の異常も少なかったんじゃないかな?」

娘「それは、ミトコンドリア?」

父「そうだ。体は温めたたほうが良い、しかし、蒸し暑い夏にブリーフや腹巻きなんかしていたら白癬菌だらけになってしまう」


娘「お父さんも白癬菌だらけになったの?」

父「そうなんだ……蒸し暑い日が続き痒いなと思っていたら、体のあちこちの皮膚が赤くなっていたんだ」

娘「病院に行ったの?」

父「いや、行かなかった。薬局で水虫の薬を買って塗りまくったら治ったよ。最近の水虫の薬はよく効くな!」


娘「お父さん、本当に病院が嫌いだね」

父「いや、嫌いではないんだぞ。ヘルメットをして仕事をしていた時、ひたいがヘルメットにかぶれて赤くなったので皮膚科に行ったことがあるんだ。医者にもらった薬を塗っていたら、かぶれは治ったが皮膚が黒ずんでしまった。今でも、よく見るとわかるぞ」

 勘蔵は額の髪をかきあげて、額の生えぎわを冬子に見せた。


娘「これかな、うっすらだけどシミのようなのがあるね」

父「これは、塗った薬が強すぎたんだ。薬をよく見たら『劇薬』と書いてあった」

娘「それで、こうなったの……それから病院に行かなくなったの?」

父「アトピーで薬を塗っている人も薬焼けで皮膚が黒ずんでいる人を何人か見た。皮膚の薬は弱いのから強いのまでいろいろあるらしいから、医者の腕しだいなんだろうな……いきなり劇薬って、やぶ医者じゃないのか?」


娘「それは、そうだね。それで、お尻はどうなったの?」


父「お尻? ああ、お尻ね。お尻は温めるようにした。パンツは暖かい素材にして、家では湯たんぽでお尻を温めた」

娘「それで治ったの?」


父「いや、温かくて気持ちがよかったが治らなかった。それからも出血は続き悩まされた。出血も最初は面白がっていたが、何年も続くとうんざりだな。あの閃きがなければ、今も出血が続いていたと思うとゾッとする」

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