第43話「肛門が笑った」

父「ある日、直ちゃんとパチンコをしていると『この店の椅子は硬いからケツが痛くなるんだよ』って直ちゃんが言ったんだ。その瞬間に俺はひらめいた。恐竜時代の人間の祖先の尻尾と、以前スロットをしてオシッコが出なくなった体験が合わさり、俺の頭の中で痔が治らない原因にある仮説ができた」


娘「とうとう閃いたのね。直ちゃんさんとパチンコをしてたの?」

父「ああ、よくしていた。直ちゃんの趣味は釣りとパチンコで、パチンコ屋に行くと、よく直ちゃんがいたよ」

娘「それが、お尻を治すヒントだったの?」


父「そうだ。お尻の出口が痛くて一生懸命に指圧でうっ血を取っていたが、いっこうに良くならなかった。悪くもならなかったが、痛い状態が5年も続いたんだ」


娘「それは聞いた」


父「お尻につながる部分が悪くて良くならなかったんだよ。例えるなら、一生懸命に働いているのに生活が苦しい。毎月の生活費がギリギリで、何かあると借金だ。そんな生活が5年続き、ある時、給料を渡す人が実は半分しか渡してなかったことがわかる。給料を渡す人が入れ替わって、全額もらえるようになると生活は一気に楽になるんだ」


娘「それは、給料を渡す人が半分取っていた? お尻に本来流れるはずの血液が半分しか流れていないから、いつまでたっても良くならなかったってこと?」


父「そうだ! よくわかったな」

娘「それだけ言えばわかるよ。それで、その流れを止めていたっていうのはどこなの?」

父「それは、なんてことない所だよ。お尻の出口のすぐそば、肛門から尾骨びこつの間にある骨、坐骨ざこつの内側だった」


娘「それは、動物で言えば尻尾の生えている部分かな?」


父「そうだ、俺は、尻尾というのは肛門の血流を良くする為にあるのではないかと思っているんだ」

娘「尻尾を動かすことで肛門に血液を送るの?」

父「そう、心臓が血液を送るポンプだろ、第二のポンプがふくらはぎで足に来た血液を心臓に戻す。手もそうだろ、手まで来た血液を手を動かすことで血液を心臓に戻す。尻尾も動かすことで肛門まで来た血液を心臓に戻すポンプだと思う」


娘「それは、あるかもね。尻尾を持つ生き物は多いものね」


父「肛門は急所だから尻尾で守るってこともあると思うけどな……」

娘「なるほどね、それで、その坐骨の内側に何があったの?」


父「坐骨の内側を触ると血管を感じた。左側だけだったけどな」


娘「それは、押すと痛いの?」

父「それが、痛くないんだ、肛門のそばの坐骨の内側にもコリがいっぱいあって、これは痛かった。しかし尾骨のそばは痛くもなんともなかった。だから5年も気が付かなかったんだ」


娘「そこをほぐしたの?」

父「そう、尻尾の部分には今だに太い血管が有り、椅子に長時間座って、この尻尾の部分の血管を圧迫したことで肛門に流れる血液がうっ血を起こして、何年も治らないんじゃないかと思ったんだ」


娘「そこが効いたの?」

父「そうなんだ、いまでもハッキリ覚えているよ。その頃は、いつも便を出す時に肛門が嫌がるんだ、駄々っ子のように。しかし尾骨の内側をもんだ翌朝は違った。肛門が笑ったんだ。こんなこと、ここ5年間で1度もなかった」


娘「なんか、よくわからない表現だけど肛門が笑うの?」


父「そう感じた。肛門を閉める弁は2つあるんだ、ひとつは自分でギュッと閉めることができる外肛門括約筋、そして、もうひとつは自分の意思では動かせない内肛門括約筋だ。おそらく、この内肛門括約筋の動きが悪くなって便を出す時なのに上手く開かなかったんだと思う」


娘「へ〜〜っ、2つあるんだ……それで、その後は順調に回復したの?」


父「あぁ、尾骨の内側のコリをほぐしてからは順調に良くなるのが分かった。3ヶ月くらいでかなり回復した。いつもは恐る恐る出していたのに、その日は、調子に乗って思いっきり出したら便器の中が真っ赤になってあせったよ。まだ早かった」


娘「3ヶ月で良くなるの……」


父「実際には、気にならなくなるまでは1年半かかった」

娘「1年半か、長いね」

父「けっこう長いが、自分で治っていくのが分かるから楽しいぞ」

娘「そっか、徐々に治るから楽しいのか」


父「いまは出血することもないし快適に出せるがメンテナンスは必要だ。排便のたびにトイレットペーパーで肛門周りを押してチェックしている。もう、痛くなるのは御免だからな……」


娘「その尾骨の内側のコリが血液を送るのを邪魔して半分にしていたわけ?」


父「それが、ハッキリはわからないんだ。たぶん肛門から心臓に戻る血管ではないかと思う。上から下に落とすのは簡単だからな。そして、そこは椅子に座ると圧迫される部分だから、圧迫と、あと、汗なんかで冷えて流れが悪くなったのだと思う」

娘「足も心臓に戻る静脈にコブができるもんね」


父「仙骨をなでる導引があるだろ。あれの延長みたいなものだな。そうだ、仙骨からは腸や膀胱に繋がる副交感神経が出ているから椅子の圧迫で働きが悪くならないように、なでてやるんだが、尾骨や坐骨もなでてやるほうがいいんだ。直ちゃんがケツが痛くなると言っていたのも尻尾にあたる尾骨の部分だった」


娘「そこの流れが悪くなると肛門はなかなか治らなくなるの?」


父「そうだと思う。そこだけじゃないけどな、肛門につながる血管や神経が上手く循環しないと、なかなか治らないだんだろう。これは、別に肛門にかぎったことではないんだ。俺は五十肩も治らなくて苦労したことがあるんだ」


娘「あ〜〜っ、あったね。パソコンをやり過ぎた時でしょ」


父「そうだ、五十肩は肩関節を広げる導引で良くなると伝わっていて、実際に腕を伸ばして肩関節を広げるイメージでやると痛みが減るんだ。四十歳代に肩関節が痛くなった時は、このやり方で1週間もしないで治った。しかし五十歳代の後半の肩関節の痛みは、これでは治らなくて痛みは続いた」


娘「お尻の時と似てるね。その五十肩も、どこか違う所の血管が詰まっていたの?」


父「たぶんな。最初に疑ったのは肩甲骨なんだ、肩甲骨の裏にいくつかコリがあって、これをほぐせば良くなると思った」

娘「良くならなかったの?」

父「良くはなった。しかし、痛みは無くならなかったんだ、それで次は鎖骨さこつをもんだ」


娘「それで、良くなった?」


父「じょじょに回復した。おそらく鎖骨の下を通る血管が詰まっていて肩や腕に痛みが出て、筋肉や神経も傷んだようだ。これも治るのに1年以上かかった」

娘「そうなんだ、五十肩もなかなか治らないって言うものね」

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