第37話「詰まって出せません」


父「神様といえば、前に『トイレの○様』っていう歌が流行ったじゃないか」

娘「あったね。あたし、あの歌好きよ」


父「人はトイレで祈らないか?」


娘「どうかな? 出ない時に祈るかな……」

父「あれってさ、自分の意識で作っているわけじゃないだろ、作ろうと思っても自分ではとても作れないぞ」

娘「それはそうよ、全部自動で作っているんでしょ」

父「そう、そういう自動で動く事は神様や仏様を感じないか? 食べ物を食べて栄養にして出すまで」

娘「そうね、気持ちよく出た時は神様を感じるかな」


父「俺は出せない時は祈っていたよ。なんの神様かわからないが、あれがトイレの神様なのか?」

娘「それは便秘ってこと?」

父「う〜んっ、怖くて出せないのかな?」

娘「出すのが怖いの?」

父「柔らかければいいけど、硬かったら切れてしまうかもしれないとかね。病院にいったら柔らかくする薬があるんだってジロウ君が飲んでいたよ」


娘「便を柔らかくする薬ね、聞いた事あるよ、高齢のお客さんが飲んでるって」

父「高齢の人は便秘が多いたみたいだな、認知症なんかになったら、自分の物を壁や便器に塗りたくったりするらしいぞ。自分の物は汚くないと思っているらしい」


娘「お父さんも、そんなふうにならないでよ」

父「冬子にオシメ変えてもらうのも悪くないが、あんまり長く寝込んだらもうしわけないな」

娘「お父さんは、そこは“見ないでください”じゃないの?」

父「どうかな? 相手によるな……冬子やお母さんなら、見られてもいいんじゃないかな?」


娘「そうなの? お母さん怒り出すんじゃない?」

父「いゃ、あれは、そういうのは怒らないんだ、たぶん献身的に介護するよ。でも、浮気したら鬼のように怒るだろうな……」

娘「わかる! あたしもそう思う。浮気したら刺すかもね!?」


父「恐ろしいことを言わないでくれ、あいつはすごく優しい女だ、たぶん……そういえば、“刺す”で思いだしたが、1度出せなかったことがあった……」

娘「なにが、あれかな?」

父「そう、あれだ。高齢者が出せなくて指を突っ込むっていうけど、指を入れても出ないだろうな……」

娘「お父さんも指を入れているの?」

父「出口の前で詰まってしまったことがあったんだ。便意もあるし、出したいのに大きな固まりになってて出すことができないんだ」


娘「イメージ的には出産みたいな感じかな?」

父「大きさがぜんぜん違うけど、気分的にはそうかな……それで、何か“刺す”物が欲しかった」

娘「そこで刺すになるのか……お母さんに刺してもらったら?」

父「それも考えた。四つんばいになって後から何かで刺して引っ張り出してもらおうかと……」


娘「あたしはやらないからね、それは“見てはいけない物”でしょう!?」

父「俺もそんな姿を娘には見せたくない。しかし、あの時はどうにもならなかった、もう出口まで来ているのに出せないんだ。固まりを何とかして崩して出したかった」

娘「何か変な物を食べたの?」


父「あれなんだ、あれ……ホタテの耳」


娘「珍味のやつ?」

父「そう、安く売ってたんだ。カラカラに乾いた物じゃなくて、ボイルして半生で柔らかい物。1番大きな袋の物を買って、テレビで映画を見ながらひとりで全部食べたんだ」


娘「それが詰ったの?」

父「そう、柔らかいので、噛み切らないで食べたから、中でからまったようだ。噛んでもなかなか噛み切るというのは難しいんだ。しかもホタテの耳は消化されにくいようだね」

娘「あれ、丈夫にできてるんじゃない? 生でもホタテの耳を手でちぎるのは難しいよ」


父「料理で使うかき混ぜるやつがあるだろう、あの小さいのを突っ込んで中で回そうかと思ったんだ」

娘「えっ、やったの?」

父「いゃ、やってない。心配するな」


娘「病院で浣腸してもらえばよかったんじゃない?」

父「そうだよな、病院にいったら何とかしてくれるだろうけど、それも恥ずかしい話しだ。救急車を呼んだらあとでご近所さんに聞かれるしな……」

娘「それも嫌ね……あたしも話したくない」

父「救急車を使えば病院でも恥ずかしいし、帰って来ても恥ずかしい。しかも出かかっている。出産でも子供が大きすぎると産むことができないもんな……」


娘「でも、どうにもならなかったらしかたないわよ」

父「便が腸で詰まったら○ぬこともあるらしくて、最悪の場合は手術らしい」

娘「ホタテの耳食べて手術!? 高くつくわね」

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