第36話「絶対に見ないで下さい」

 

父「戦争中、潜水艦に乗っていた人達は魚雷で敵艦を沈めたら大喜びして、その日は潜水艦の中で宴会を開いて大盛り上がりだったらしい」


娘「それは、そうじゃない? なにか変?」


父「だって、船を沈めたんだから大勢の人が死んだんだよ、敵とはいえ、人を殺したんだ……」

娘「あ〜〜っ、そう言う事か……でも戦争中はしかたないんじゃない?」

父「そうなんだよ、そこなんだよ!」

娘「どこなのよ、話が見えない」

父「戦争中は敵ならば殺してもいい、むしろ殺せば褒められる」

娘「そうね、勲章とかもらえるんでしょう?」


父「人を殺してはいけないというのは絶対に正しいということではないということだよ」


娘「まだ、なにが言いたいか見えないな……」

父「人前でお尻を触るのは、はしたない。人前でお尻の話しをするのは下品だ。しかし、自分の家やトイレの中なら触ってもいいんだよ」

娘「それは自分のだからね……」

父「人によっては自分のお尻なのに触るのは汚いと思っているんだ。水でお尻を拭く国の人達は左手を不浄の手と言うだろ」

娘「そうだね、そう言ってるね」

父「俺のやる、お尻の導引は人前ではできないが、大切なもので人のいない所でならやってもいいんだ。むしろやらなければいけない儀式のようなものなんだ」


娘「それ、今、気づいたんでしょう!?」

父「うっ……よく気づいたな。心が読めるのか?」

娘「なんとなくわかるよ」

父「鉄砲を撃って敵を殺したら一生罪悪感は消えないかもしれないけど、潜水艦でみんなで協力して魚雷を敵の船に当てたら喜びしかないような気がしたんだ」


娘「なんとなく、言いたい事はわかる」


父「せっかく、お尻の押し方を開発したのにみんなに知らせられないのが残念だ。教育○員会で小学生の授業でお尻の押し方を教えるようにしてくれないかな?」

娘「それは無理だろうね……」

父「では、中学生」

娘「もっと無理だね」

父「高校生?」

娘「絶対に無理だ!」


父「やっぱり、お尻が痛くならないとやらないかな? 痛くなってもどこにいけばいいかわからないんじゃないかな? 冬子ならどこに行く?」

娘「ええ〜〜っ、お尻が痛くなったら? そんな恥ずかし……やっぱり病院だね。お父さんに見せるわけにはいけないでしょ」

父「俺も見せられたら困るよ! “鶴の恩返し”だ」

娘「なにそれ……?」


父「鶴の恩返し、知らないか? 絶対に見ないで下さいってやつ」

娘「話は知ってるけど、それと、あたしのお尻が関係するの?」

父「それは、鶴の恩返しは『人には見てはいけない物がある』っていう事を言ってる昔ばなしだと思うんだ」

娘「あれは、そういう話しだったの」

父「幸せな生活が続いたはずだ。1番見たい物とか聞きたい事は見ないで聞かないほうがいいと思う」

娘「それは、深いね。お父さんの言葉とは思えないよ」


父「俺はいつも謙虚だ……神社でも真ん中は歩いてはいけないって言うだろ」

娘「あ〜〜っ、あれは神様が通る道だからでしょう?」

父「登山でも、ヒマラヤだったかな、荷物を運ぶシェルパと呼ばれる人達は絶対に頂上には立たないらしい」

娘「それは、やっぱり、そこは神様の場所だから」

父「冴えてるな。その通りなんだ、頂上は神様のいる所だから、そこに立ってはいけないと信じているんだ」


娘「あたしも、神様を信じるのはいいと思うよ、山の神とか」

父「俺もパチンコを打つ時は神様に祈るんだ」

娘「それは何の神様なの金運の神様かな?」

父「大黒天様。玄関にいるじゃないか」


娘「えっ! あれ! 木彫りのやつ」

父「そう、あれは、俺が若い時に買ったやつで、ずっとあるな。買った時は何なのかわからなかった。だいたい、なんで買ったのかもわからないんだ」

娘「自分で買ったんじゃないの?」

父「自分で買ったんだけど、普段、そういうのは見ても買わないんだ。でも、それは買ったね」


娘「それって、パチスロで××万円負ける前の話し?」

父「あ〜〜っ、そうか、あの後だ……それから大負けは無くなった。そういう事だったのか!?」

娘「その大黒天様が、お父さんのギャンブル依存症を治してくれたの?」

父「そうかもしれない。それまで俺は適当に打っていたんだ。自分なりの考えはあったけどね」


娘「何か必勝法を見つけたの?」

父「そうだ、あの木彫りの像を買ってからは打ち方が変わった。法則のようなものをいくつか見つけた」

娘「それはどんなもの?」

父「簡単なものだよ。データランプを見て昨日打っていた回転数が多ければ、この台は今日も回る確率が高いとかね」

娘「大当たり回数じゃないの?」

父「そう、回転数。千円あたり何回転回るかだね、回らない台ならみんな回さないよ。だから当たらなくても昨日打っていた時間の長い台は、今日も回る確率は高いんだ」

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