第4話「エジ○トは砂」

父「今日は時間があるから、俺の半生を痔に関することで話してやろうか?」


娘「お〜っ、半生、いいね。やって、やって、話して。お母さんが帰って来るまでまだだいぶ時間があるし」


父「そうか……それじゃ〜。初めて痔になったとこからいくか。俺は、昔だけど、自動車を作る工場で働いた事があるんだ。その時、初めて痔になった」

娘「へ〜〜っ、いつ頃?」

父「20歳の頃だ、失業して職業安定所で『給料の高い仕事はありませんか?』と聞いたら、『自動車を作る工場の募集があって給料は高いです』って言われたので行ったんだ」


娘「けっこう簡単に決めたのね」

父「半年の契約だからな、ちょっと行ってみようかって感じだった。それでも、誰も知り合いのいない土地だから不安で、直ちゃんに一緒にいかないか? と誘ったが断られた」


娘「直ちゃんさんも失業してたの?」

父「そう。ちょうど仕事を辞めた時だった。今思えば、郵便局員の試験を受ける辺りだったのかもしれないな」


娘「みんな、いろいろ大変なのね。あたしも会社が倒産した時はどうしょうかと思ったわ」

父「最初に良い会社に就職できた人は幸せだ。高校を卒業する前に就職先を決めるったって、働いた経験もないし、求人票の見方もわからないような状態で、何がいいのかなんてわからんよ」


娘「それは、そうよね。自分のやりたい仕事がわかる人なんて少ないと思う」

父「直ちゃんは、料理漫画にはまって料理人になると決めたようだが、現実は上手くいかなかったようだ」

娘「お父さんは高校を卒業して就職したの?」


父「俺か? 就職したよ。でも、あんまり良い会社ではなくて辞めたんだ」

娘「どんな会社?」

父「それは、また今度だ。酒でも入らないと、とても話せない……自動車の工場は大きくて2分で1台、車ができるんだぞ」

娘「あっ、ごまかした。まっ、いいか。お酒のさかなに取って置くか。2分でできるのは早いね!」


父「いゃ、1台が2分で出来るわけじゃないぞ、それじゃ〜、レトルトカレーより早いじゃないか。長〜〜いコンベアに車が乗っかっていて、少しづつ組み立てて、最終工程が2分で終わるんだ。わかるか?」

娘「わかるわよ、車が2分で出来るわけないじゃない。それで、お父さんは何をしていたの?」


父「俺か、何だっけ……ドアのフレームを付けたり車のマークを付けてたな」

娘「ふ〜〜ん、大変だった?」

父「大変、大変! 自分の持ち場があるんだけど、ここからここまでって床に線が書いてあるんだ。その線の範囲内で自分の仕事を終わらせなければならないんだけど、前の工程の人が作業が遅くて、お父さんの線を越えても作業するから、俺の作業する時間が短くなるんだ!」


娘「それは、困ったもんだね」


父「いゃ〜〜困ったよ、ひどい時は線を超えて真ん中くらいまで来たからね、2分でやる仕事を1分でやらなければならなかったりね」

娘「それは、担当の人に言ったほうがいいんじゃない?」

父「う〜〜ん、そうなんだけど、インドネシアの人なんだ」


娘「インドネシア人!?」


父「そう、インドネシア人だ。その工場には外国人がいっぱいいてさ、俺の後ろの工程の人はタイ人で、部品を運んで来るおばさんはブラジル人だった」

娘「凄い所で働いてたのね!」

父「他にもいろんな国の人がいたみたいで、休憩時間に床に毛布をひいて四つんばいになってお祈りしている人もいたよ」


娘「イス○ム教!?」


父「たぶん、そうだろうね、1日に何回もお祈りするみたいだよ……ちょっとコーヒーが欲しいな」

娘「あっ、入れようか?」

父「うん」

娘「お父さん、よくコーヒー飲むよね」

父「そうかい?」

娘「紅茶のまないでしょ」

父「飲まないことはないよ……」

娘「見たことないよ」


父「そうだね、そのメーカーのインスタントコーヒーがいいね」


娘「これ、なにか違うの?」

父「微妙に違うね、食後は、それじゃなくてもいいんだ。もう少しきついやつでもいい」

娘「ふ〜〜ん、レギュラーコーヒーもダメなの?」

父「いゃ、別にレギュラーコーヒーでもいいよ」

娘「そうなの?」

父「そうだよ」


娘「それで、イス○ム教の人はどうしたの?」


父「別にどうもしないよ。遠くから見ていた。お祈りの前を横切ったらダメだって言われたね」

娘「それは、何となくわかる」


 冬子が勘蔵にコーヒーを渡す。

父「ありがとう。そういえば、あの工場のトイレには『砂』が置いてあった!」

娘「砂? 砂糖じゃなくて」

父「トイレだから、砂糖じゃないよ。そう、砂、細かいサラサラしたやつ」


娘「トイレに砂? 床が滑るの?」


父「いや、そうじゃないんだ、噂なんだけどエジ○ト人も工場にいたらしいんだ」


娘「エジ○ト? ピラ○ッドの?」

父「そう、ピラ○ッドの、見たことないけど」

娘「お祈りに砂を使うとか?」

父「違うと思う、トイレだから……」

娘「まさか……あれ?!」

父「たぶん、そうだろう、和式の水洗トイレにあったから……」


娘「砂でお尻を拭くの!?」


父「たぶんね、どうやって使うのか知らない けど、エジ○トでは砂を使っている人がいるみたいだね。砂で拭いてゴミ箱に捨てるようだ」

娘「信じられない! トイレットペーパーの方がいいじゃない!」


父「世界には、まだトイレットペーパーを使ってない国は多いのかもしれないよ。エジ○トは気温が高そうだから、砂も太陽に焼かれて殺菌され、案外綺麗なのかもしれないしね」


娘「えぇ〜〜っ、あたしトイレットペーパー以外って考えられない」

父「お前は、生まれた時からトイレットペーパーがあったからな……」

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