7-5

「どーんと行きましたわね」

「いったなあ」

「えっと・・・この調子でどーんと参りましょうか?」

「そうだなあ」


 突然のことに、私とロルフは思わず呆然としていまいましたが、竜巻で削るよりも広範囲で早くできそうですので、このままこれを続けることにいたしましょう。

 ドーンドーンという音がダンジョンの通路に響き渡りますが、私は背後を気にせず魔法で削るというか、魔法を叩きつけていきます。

 仮に空気球圧とでも呼びましょう。正式な名前は後ほど考えるとして、これは中々に便利でございますね。

 面攻撃というのでしょうか?それが出来るとモンスター退治にも便利だろ思いますの。

 空気球圧を行うこと数十回、ついに壁がガラガラと音を立てて崩れ、中の空間が出てまいりました。


「ありましたわ!」

「おおっ!・・・・・・お、おお?」


 私は中の空間にあった調度品に驚きましたが、ロルフは驚いたように目を見開いて首をかしげました。

 空いた空間の中は、大きなベッドを中心に毛足の長い絨毯が敷かれておりました。そのほかに調度品と呼べるようなものはなく、まるで誰かが眠るためだけにあるような空間となっておりました。

 ベッドは豪奢な天蓋が付いており、一目で質の良いものなのだとわかります。


「なんだこれ」

「どなたかの寝室でしょうか?・・・あら、本がありますわね」


 ベッドの上に本があることに気が付き部屋の中に入るとそれを手に取って中を見てみると、それは手記でございました。

 パラパラとめくっていくと十数年前の日付が最初で、少し疲れたのでここで眠るという文字がございましたので、もしかしたらと思いつつその日記を大事に胸に抱えてベッドの上に座ってかかっていた羽毛の布団を撫でつけました。


「誰がいたのでしょうか」

「んー、お嬢様以外にもここを住処にしてたやつがいたんだなあ」

「十数年前の手記がありましたので、今いないということは場所を移したのかもしれませんわね」

「寝るだけって感じの部屋だしなあ」

「お食事もとれませんものね」


 これは寝室で、別の空間に他の使用用途の部屋があるのかもしれませんわ。

 そう考えてロルフに伝えてみると、その可能性はあるということですので後日別のところを探ってみることで話が決まりました。

 ベッドと絨毯は私の空間魔法に入れさせていただきました。

 そろそろサーヴが戻ってまいりますし、小部屋に戻って日記を読むことにいたしましょう。

 戻った時に私たちがいないとサーヴが心配してしまいますものね。こっそりと探索をしていたたとばれてしまっては怒られてしまいますわ。

 小部屋に戻ってしばらくすると、食料品などを抱えてサーヴが戻ってまいりました。ギリギリでしたわね。

 私は夕食が出来る間、さっそく手記を読むことにいたしました。


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 死のダンジョン、真祖の作った永久迷宮であるあのダンジョンは、私たち魔王ですらいまだ全容を明らかにすることが出来ていない。

 なんといっても真祖の居住なのだから。仕方がないとはいえ、あの引きこもりの真祖には困ったものだ。

 今回はそのダンジョンで私をはめて殺そうとした愚かな部下どもがいたが、最近働きすぎたと思っていたとおころだったのでこの機会に少し休むことにした。


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 死のダンジョンは世界中のダンジョンとつながっている。そのことを知っているのは真祖と魔王と神々ぐらいなものだろう。

 それを利用して、私は適当なダンジョンにとんで眠るための空間を作りこうして眠りにつき目覚めた時に、食事を狩りに近場に遊びに行って戻ってくる。


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 長年の疑問、真祖は我々を作ったが、神は人間を作った。

 なぜ作ったのか?真祖に聞いてもその答えは教えてもらえたことはない。寂しかったということはないだろう、神々がいたのだ。

 人間は真祖や魔族は神々と敵対していると思っているらしいがそんなことはない。勝手にそう思い込んでいるだけだ。

 神々と真祖だけの暮らしが暇だったから観察する対象が欲しかったのだろうか?その気持ちはわからないでもない、ロルフは私にとって良い観察対象だ。


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 今日美しい少女に出会った。喰うこともできたが、それ以上に心が締め付けられるような感覚に喰うことはできなかった。

 銀の髪に銀の瞳、蒼白い肌に紅い唇。真祖と契約した人間の末裔なのだということがわかる。しかしあそこまで真祖に似ているというのは珍しい。

 そのせいか、とても気になる。

 この感覚は何だろう。


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 長い時間、と言っても永久の時間を生きる私にとっては短い時間だが、考えた末にわかった。あの少女は私の魂の番なのだ。

 人間の命は儚く短い、私の血を与え眷属にしてしまえば私と同じ時間を生きることが出来るだろう。

 そのためにはここを出て、城に戻らなくてはならない。このような穴倉にあの少女を招くわけにはいかないからな。


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 手記の内容を読みましたが、めぼしい情報はこのようなところでしょうか。

 日付から察するに、この手記を書いたのは私にスミレをくださった方、そしてロルフのお父様でいらっしゃるようでございますね。

 なんという数奇なめぐりあわせでございましょうか。

 それにしても、私が魂の番というのはどういう意味でしょうか?それに、まだ6歳なのですがこの状態で永遠の長い時間を生きるようにされてしまうのでしょうか?

 それでもよろしいのですけれど、お会いできたときに尋ねてみましょう。

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