気がついた見知らぬ駅にいた

金峯蓮華

気がついたら見知らぬ駅にいた



 見知らぬ駅にいた。

始発駅なのだろう。

 改札の向こうに見えるホームには沢山の列車が並んでいる。



〈切符をお持ちでない方は窓口でお名前と生年月日を告げ、お受け取り下さい〉

アナウンスが聞こえた。


 切符は名前と生年月日で引き換え?

お金はいらないの?

いったい私はどこに行くためにこの駅にいるんだろう?

まったくわからない。

そうだ、これはきっと夢だ。

夢なら何でもありだし、どんな展開になるのか楽しみにしよう。


「ここで切符を受け取ればいいんですか?」

 駅員に声をかけた。

「はい。こちらです。順番にお渡ししておりますのでお並び下さい」

 列に並ぶように促され、いちばんすいている右端に並ぶ事にした。

切符をもらうまで時間がかかりそうだが、どうせ夢なんだしそれでもいいか。


「どこに行くんですか? 」

退屈しのぎに前いるおじさんに話しかけてみた。

「知らんねん。窓口で切符をもらえとアナウンスしてたんで並んでんねんけどな」

 私と同じか。

「お嬢ちゃんはどこに行くん? 」

「私も知らないんですよ。気がついたらここにいたんで夢かなと思ってるんですけど」

「夢?」

 おじさんは驚いた顔で私を見た。

「夢か。そうやな。夢ならこんなこともあるな」

「そうですよ。きっと夢ですよ」

 ミステリーツアーでもあるまいし、行き先もわからない。

お金もいらない。

そんなのあるわけない。

これは夢でしかない。


 窓口の人は早いペースでどんどんお客さんを捌いていく。おじさんの番がきた。

「お名前と生年月日をどうぞ」

「山本一男です。昭和28年8月7日生まれです」

「山本一男さん、6番乗り場の琥珀号にお乗り下さい。お席はこの切符に書いてあります」

 おじさんは切符を受け取り行ってしまった。


 琥珀号ってなんやねん。観光列車みたいなネーミングやな。


 他の人達もどんどん切符をもらい、改札を通り自分の乗る列車に向かっている。

「次の方どうぞ」

 私も呼ばれた。

「大城結衣です。平成19年4月3日生まれです」

「大城結衣さんですね。切符がまだ届いてないので、この入場券で改札を通り待合室でお待ち下さい」

 中に入って待てってことか。

「待合室は1番乗り場の横にあります。切符が届き次第、係の者が列車までご案内しますので、そこでしばらくお待ち下さい」

 私は入場券をもらい、改札を通った。


夢はまだ続くらしい。

待合室は窓口とは反対側の端っこにある。ホームの天井はガラスばりになっていて、シャンデリアのような光が入りキラキラしている。

さっきのおじさんの乗る琥珀号の前を通った。

テレビで見たオリエント急行に似ている。名前通り琥珀色だ。

おじさんはもう席に座って出発を待っているんだろうな。5番線、4番線と順に列車を見ながら通り過ぎ、待合室にたどり着いた。


「大城結衣さんですか?」

「はい」

「切符が届いたらお呼びしますのでしばらく中でお待ち下さい」

 係の人に案内され中に入った。


 待合室には母と同じ年くらいのおばさんと金髪でいかつい顔をしたヤンキー風のお兄さんが座っている。

「おふたりも切符がなかったんですか?」

 ヤンキー風のお兄さんは鬱陶しそうな顔をして私の方を向いた。

「そや。長い時間ちゃんと並んだのに切符がまだ来てへんて言われたんや」

 私と同じか。

「まぁ、夢やしええんちゃいますか?」

「夢? そうか夢か。それやったら早よ覚めてほしいわ。もう待つの鬱陶しい」

 こんな変な状況なのに、誰も夢だと思わないのか。


 夢だから、次はどうなるのかワクワクしながら待っていられる。


 係の人が入ってきておばさんに声をかけた。

「北原和子さん、切符が発行されました。ご案内しますので3番乗り場の翡翠号にお乗り下さい」

 切符をもらうとおばさんはゆっくり立ち上がり“お先に”と言って待合室から出て行った。

「俺はまだなんか!」

 お兄さんが表にいる係の人に怒鳴っている。

「そんな怒らんといて、夢やのにイライラしたらあかんよ」

 私はお兄さんの腕を掴んで座るように促した。

「どの列車になるかワクワクしながら待ちましょ。どうせ夢なんやしね」

「せやな、夢やしな」

 自分に言い聞かせるようにお兄さんは何度も夢やと呟きながら座った。

「佐野健三さん、こちらにどうぞ」

 お兄さんが呼ばれた。

「ほんならな。気ぃつけて行けよ」

 にこやかに笑いながら待合室を出て行った。


 さっきのおばさんは列車名を言っていたのにお兄さんは言われなかった。なんでやろ? まぁ夢やし細かい事は気にしなくてもいいか。

「大城結衣さん、こちらにどうぞ」

 あれ、私も列車名無しか。

「今回は切符は発券されませんでしたので、そちらの非常口からお帰りくださいませ」

 帰るのか。

列車には乗られへんのやな、残念。


 係の人に言われ待合室を出ると、すぐ横にある非常口の扉を開けた。



「結衣ちゃん! 結衣ちゃん!」

 母の呼ぶ声が聞こえる。ここはどこ?


 さっきの駅やないなぁ。非常口の扉を開けたらここ?


「結衣ちゃんの意識が戻った!先生呼んできて!」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気がついた見知らぬ駅にいた 金峯蓮華 @lehua327

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ