第29話 スープ ①―④

 昼下がりのコロシアム。

 空には雲がすこし浮かんでおり、そのため影になっている場所が散見できる。


『皆の衆、よくぞ集まってくれた。今日はスープン王国に新しい住人が加わるよき日となるであろう!』


 国王が念話の魔法で高らかに宣言する。

 国王のいる場所はコロシアム最上段の特等席だ。そのすぐ下の段に囚われの使者が座らされている。


 ノブユキとバイスは、コロシアム中心部で料理の準備に取りかかっていた。


 ――バイスさん、ごめん。また正面からの対決はできそうもない……。

 そんなことを思いながら、ノブユキは頭の中でレシピに間違いがないか整理する。万が一でも失敗することは許されないのだ。慎重に、慎重に……脳を活性化させつつ心を静めていく。


 コロシアム最下段の観客席を見回してみる。

 ドランがいる。アデルドがいる。ミッフィがいる。そして……、リーネもいる。

 全身にほんのり熱を感じ、ノブユキは胸を張った。


 ――きっと、きっとうまくいく。

 ノブユキは『自分の希望』を強く信じた。本人は気づいていないが、両手がわずかだが、黄金色に発光していた。


『今回、新たな民をもてなす料理人を紹介しよう。王都100店舗のうち、第一位を4期にわたり守り抜いた鬼才、バイス』


 うおおおおおお!!

 コロシアムを埋め尽くす観客から、歓声が上がる。

 建物をびりびりと揺らすかのような声量だ。


『続いて、惜しくも第一位には届かなかったものの、大躍進を遂げた謎の多き店舗の料理人、ノブユキ』


 ざわざわ、ざわざわ……。

 あれが例の? 失われた魔法を操るという? いや、単なるウワサだろ。

 ノブユキはあまり歓迎されていないようだ。きっと観客たちには、不気味な存在に映っているのだろう。ノブユキはこの世界だとヒューマンに属するはずだが、異邦人であることを否定はできず。敬遠されたとしても文句は言えない。


『二人の若き料理人にまずは拍手を』


 ぱちぱちぱち。

 ノブユキというイレギュラーが混じっていることもあって、拍手はまばらだった。

ノブユキは内心でバイスに再び謝る。本来であれば、バイスひとりがこの場を任されることになり、賞賛されていただろう。しかし、ノブユキの存在を世間に知られすぎてしまい、このざまである。

 改めて、このおおらかなスープン王国であっても、己の異端さが国民に恐れられていると実感する。


『では、調理を開始せよ!』


 国王が合図すると同時に、バイスは作業に入り始めた。

 素早く、無駄なく、なめらかな動き。それだけで「できるやつだ」とノブユキにはわかった。

 上体が滑るように動いている。いったいどんな足運びをしたら、あんな残像のごとき真似ができるのか。見当もつかない。そこから生み出される運動性。なにからなにまで料理人とはこうあるべきとでも言うべき理想を、身体で表現する。

 観客たちが見ているのは、バイスのみ。ノブユキにとっては完全な敵地での対戦となっている。


 そんななかにあっても。

 視線でわかる。


 ――ノブユキさん、頑張ってください。(ミッフィさんだ)

 ――ノブユキ、我を失望させるでない。(アデルド王子もか)

 ――ノブユキよ、己を信じ、希望を持つのじゃ。(ドランさん希望はあるさ)


 そして。


「ノブユキくーん!! がーんばれー!!」


 場の空気など読まず、声を張り上げて、ひとりノブユキに声援を送る女性。

 リーネだ。


 みんなの応援がノブユキにさらなる力……希望を与える。

 両手の輝きはさらに増し、本人も気づくほどになった。


「なんだ……これ……」


 と、そんなことをしているうちに。


「できあがりました。お二方ともご賞味あれ」


 バイスがいつの間にか調理を終え、完成品を台の上に乗せた。シチューだろうか。

シンプルだが、それだけに実力差がはっきりとわかる。それに、ノブユキが大衆食堂『りぃ~ね』で最初に流行らせたメニューでもある。バイスらしい、正々堂々とした勝負といったところか。

 遠目からだとそのくらいしかわからない。スープに浮かぶ油の量や、具の種類などが見えればもっと詳しく料理の味が想像できそうなものだが。


 バイスは満足したと言わんばかりの表情で、ノブユキに視線を送ってくる。


 ――どうしたノブユキ! まさか貴君、臆したのではあるまいな?


 視線だけで伝わってくるのだから、ひょっとしたらこいつとは仲良くできるのかもしれない。だが、今は戦う。絶望に苦しんでいるのは……、おそらく使者の女性だけではないのだ。

 料理魔法の秘めたる力とやらが、なんなのか……。それは未だにわからない。が、料理で苦しむ人を見て見ぬ振りなんて、『今の』ノブユキはしない。


「こっちはもうすこし時間がかかる」


 己の至らなさに歯がみしつつ、ノブユキは集中力を高める。


『バイスの料理が先に出来たようだな。では、冷めぬうちに、そちらからいただくとしよう』


 国王が念話で発すると、調理台の上に置かれていた二人分のシチューが、消えた。


『うむ。たいへん美味である!』


 ――転移魔法か?

 さすがにノブユキもこの世界の常識に慣れてきた。予想にすぎないのだが、魔法でバイス作のシチューは瞬間移動させられたのだろう。

 国王はすぐに食したようで、バイスにねぎらいの言葉をかけた。


 ぱちぱちぱちぱち!!

 コロシアム全体から拍手が湧き起こる。


 一方で。


『い、いや……やめてくださいまし……っ!』


 悲痛な声も脳に響いてきた。

 使者のお姉さんが、スプーン料理を拒んでいるのだ。


『どうした。なぜ食わぬのだ。王も満足された逸品であるぞ』

『い、いやっ!』


 ノブユキがコロシアムの上部に目をやると、近衛兵らしき人物と使者のお姉さんの姿が見えた。近衛兵はスプーンを彼女の口まで運び、無理やりに食べさせようとしている。


『出された料理は必ず食べるのが習わしだ。そなたの国もそうだろう。大人しく食べなさい』

『っっっ!』

『よしよし、よく食べた。どうだ、美味しかろう?』

『……郷土料理が恋しくなりましてよ』

『強情な!』


 使者のお姉さんは食べてしまったものの、どうにか耐えたようだ。だが、バイスの作る極上のシチューを何杯も食べさせられては、いつか『堕ちて』しまう。

 料理から希望が失われ、絶望に生まれ変わることを強制される……。そう、かつてこの異世界に転移する前のノブユキがそうだったように。


 ――そんなこと……。

 ――させて……。


「たまるかあああああああ!!」


 ノブユキの両手の輝きが一瞬だけコロシアム全体を照らした。あたかも太陽が出現したかのようだった。人々の心には温かなやすらぎを、己の全身には燃え盛る炎を。ノブユキは無意識に『希望』の魔法を使いこなした。


「《レシピ》しょうゆスープ!!」


 高らかに宣言する。


 調理台の上にどんぶりが4杯、召喚された。

 どんぶりの底から、透き通った茶色のスープが、湧き上がってくる。

 油分をたっぷりと含んだ証拠に、スープの表面には、いくつもの小さな膜が浮いている。

 ちょうど雲の影に差し掛かっていたスープに日が当たると……きらきら光を放つ。まるで小箱に隠されていた宝石が、明るみにでたようだった。

 色も艶もいい。あとは味だけだ。


 ノブユキは自分用の一杯をスプーンですくって口に含んだ。

 濃い。が、これは想定内。



「負けるなああああ!! ノブユキくううううん!!」



 臨時休業中にリーネの手伝いで作ったスープの味そのものだ。彼女の舌をノブユキは信じる。リーネにもノブユキは幾度となく料理を振る舞ってきたのだ。舌が肥えていても、なんら不思議ではない。


「こちらもできました」


 ノブユキは深淵から呼び出すかのような声で、完成を伝えた。こんな声がでるとは自分でも驚いている。


「バイスさん! 料理勝負でしたね! あなたのぶんもありますよ!!」

「本当かい!? すぐにいただいても!?」


 ノブユキはすこし距離のあるバイスへと声をかけた。

 バイスはすぐにやってきて、ひとくち。


『余にも早く食させるがいい』


 国王もひとくち。


『の、ノブユキさんの品でしたら……』


 使者のお姉さんも、ためらいながらひとくち。


「……これが本当に貴君の持てるすべてか?」


 最初に言葉を発したのはバイスだった。

 どうやらお気に召さなかったらしい。


『余も同感である。美味いことは美味い。が、ただの濃厚なスープではないか』


 国王も同感のようだ。

 だが、ただひとり。


『これは……まさか。ま、まさか! 駄目ですノブユキさま! いけません!』


 使者のお姉さんだけが、ノブユキの料理に気づいた。

 構わずにノブユキは続ける。


「王様、確か出された料理はぜんぶ食べる。これは守らなければいけませんよね?」

『うむ。それがどうした。余に飲み干せと申すか?』

「いえ、そのままで結構です」

『なに? どういうことじゃ』

「俺の出したスープは単体で完成品でもあり、また未完成品でもあるのです」


 ――今ならできる。

 最初は調理が済んだものを召喚する魔法だと思っていた。

 次に考えたのが人々に希望を与える魔法。

 希望とはなんだ。

 それは……満たされない心を救う魔法。そして、絶望に打ちひしがれた世界に訴えかける、おそらく《救世》の魔法。

 ノブユキがこの世界に転移したのは偶然かもしれない。が、彼はリーネの手助けもあったものの、自力で絶望から立ち直り、希望を見いだすまでに至ったのだ。両手の輝きはいっそう強くなり、ノブユキもそのことに気づいた。


 念話が届く。ドランの声だった。


『ようやく気づきおったか、このたわけが』


 返答しようにもノブユキには伝える手段はない。


『さあ、今こそ真価を発揮するのじゃ!』


 そう、今ならできるんだ。

 この国そのものを救ってみせるんだ!


「《追加レシピ》ちぢれ麺」


 透き通った茶色のスープが注がれているどんぶりに、沸騰させたお湯でやわらかくなった麺が一瞬で出現した。4杯すべてが同様だ。


『な、なんだこれは。余は見たことがないぞ……いったいどうやって食べるのだ』


 国王は動揺している様子。

 無理もない。これはスープ料理であっても、スプーンだけでは食べられないのだ。


『この細長いふよふよした物はどう食せばよいのだ?』


 スプーンで悪戦苦闘しながら食べようとしているところは、ノブユキから見ることができない。


『ノブユキさん……。やはり…………』


 使者のお姉さんは、心配そうに念話を通してくる。

 ひょっとしたら、今までお世話になった人たちを、悲しませることになるかもしれない。

 ミッフィさん、ドランさん、アデルド王子、常連客のみんな。そして……、リーネさん。ごめん。


 ノブユキはさらに魔法を唱えた。


「《食器》レンゲ! 《食器》お箸!」


 4つのどんぶりの傍に、2種類の食器が出現する。

 ノブユキは、今まで考えたこともなかった『遠隔召喚』すら、たやすく成功させてしまった。


『むう、この形はスプーンの変種か? しかし……余に他国の食器を見せつけるとはノブユキよ。どういう意味かわかっておるのか?』

「知っています。牢屋に送られてしまうのでしょう?」

『わかっていて出したと申すか!』

「はい」


 ノブユキにとって2つの賭けがある。

 ひとつは国王がお箸を使って食べてくれるか。

 もうひとつは、そもそもお箸を使えるかどうかだ。

 元いた世界でも、外国人がお箸の使い方で苦戦しているところを、ノブユキは見ている。この世界でも同じことが起こる危険はある。


『む、むう……、余がお箸を使う、だと……』

『王よ』

『おお、ドランか。余は……余はどうすればよいと言うのだ』

『習わしのままに』

『確かに王族は、あり得ぬ話ではあるが、他国からの侵略に備えるため、食器の扱いを心得ておるが……。しかし、公衆の面前であるぞ!』

『老体めの進言など聞き入れてはもらえないじゃろうか?』

『ぬう。いにしえより王家に仕えてきた、ぬしに言われては……余としても無下にはできぬ……』


 国王とドランの念話は、観客にも聞こえていたようで、ざわつきだす。


「王様がお箸を使うだと?」「いやいやあり得ねえだろ」

「なにかの間違いですわ」「いったいなにが起こってるの?」

「異界からきたっつー小僧のいたずらじゃね?」「しらけるね」


 散々な言われようだった。

 だがしかし。


『出された料理は残さず食べる。これはスープン王国にとって絶対である。よって、余はこの得たいの知れぬ料理を……、食す!』


 うおおおおおおおお!!

 歓声とはまた違う。絶叫や悲鳴にも似た声が、コロシアムの空気を揺らした。


『ドランよ。どう食べればよいのだ?』

『すするのですじゃ』

『すする、とは?』

『細長い物体の中心部をお箸で挟み込んで持ち上げ、口に運び……そのまま勢いよく吸引してしまうのですじゃ』

『う、うむ。ず、ず。ずずずず……』


 なんとも形容しがたい音が、ノブユキの脳内に響く。この念話の魔法だが、使い手の感じ取る音までも伝わってしまうようだ。あるいは、ドランから手ほどきを受けたらしいので、国王も声を出しながら食べてしまうのかもしれない。


『こ、これは!』

「どうですか、王様? お味の方は?」


 ノブユキが聞いた。


『細長い物体に濃厚な汁が染みこんでおるのか。この甘みはでんぷんか? 手が……手が……手が止まらぬ……っ!』


 ずずずずずずず!!

 勢いよく麺をすする音が観客の脳に伝わっていく。

 あれだけ騒いでいたのがウソのように静かだ。みな、国王の動向を観察している。


『わたくしもいただきますわ』


 使者のお姉さんもそう言って、スープに浸かった麺をすすりはじめた。

 食べながら、器用に会話を入れる。


『わたくしの故郷にも同じ料理がありましてよ。ただし、レンゲ……いえ、この国でしたらスプーンでごさいますね。それは使用を禁じられておりますが』


 王様が他国の料理を食べたって!?

 コロシアムが再び、ざわつきだす。


『美味である……。余は……余は、くっ。余はスープン王国を背負う者であるぞ! 断じて屈したりはせぬ!』

「そこまでうまかったですか?」

『ぬう、び、美味で、あった。してノブユキよ。この面妖な料理はなんなのだ……』

「そうですね。この世界っぽく言うなら、『醤油をベースとするスープに湯がいた麺を投入して染み込ませたひと品』といったところです」

『聞いたこともないぞ! ドランよ、ぬしは知っておるか?』


 国王はドランに助け船を求めたようだ。

 体裁をつくろったのだろう。異邦人のノブユキから聞くよりも、王家とのつながりが深いドランから教えてもらう。その方が、この場にいる国民たちが国王に抱く印象も変わらない。


『王よ。これは、いにしえの戦禍によって我が国より失われていた《らーめん》ですじゃ』

『らー……めん……』


 国王は放心してしまったようだ。

 それほど衝撃的だったのだろうか。トッピングをすると味が崩れそうだったから、ただの醤油ベースのスープと、スープに馴染むちぢれ麺だけにしたのに。ノブユキが元いた世界の本格的ならーめんを食べたら、この老人はどんなリアクションをとってくれるか。気になるところではある。


 ノブユキは国王をたたみかける。


「王様。王様がお箸を使った場合、この国ではどうなるんですか?」

『余は……余は、このような美味の品で、もてなそうとしてくれていた使者を、監禁してしまっていたのか』

「王様? 王様にも色々あるんですよね?」

『っ! 黙れこわっぱ! 余の苦しみが、そちにわかると申すか!』

「はい。それは……食べたい物が食べられない、絶望」


 ノブユキはきっぱりと言い切った。

 そう……絶望の淵に立たされていたのは、密偵と勘違いされていた使者のお姉さんだけではないのだ。

 密偵だと早期に決めつけて捕らえにかかった王家そのものに絶望の根源があった。アデルドはわからないが、彼の兄たちも国王と同様に「せっかくスプーン以外の料理も食べることができるかもしれないのに、許されない立場」に絶望していた。

 一般人ならば旅行として他国を訪れてその国の料理を食べても、愛国心が強ければ問題ないだろう。だが、王族が他国の料理を食べたとなると、話は変わってくる。民にどう説明すればよいのか。ひょっとしたら、王国が併呑されるのでは、と危機感をあおることにもなりかねない。

 この世界は料理がすべてなのだ。もっとも、ノブユキはこのことをリーネをはじめミッフィやドラン、アデルドから聞いたに過ぎないのだが。


『余の……絶望が……わかるだと? 国を背負う苦しみがわかるだと?』

「もちろん」


 絶望を希望に変える魔法。そしてそれは、時にこの世を救うことにもつながる。

 まさしくノブユキが自身の力を認識した瞬間だった。


「俺もかつては自分の無力さに絶望していました。でもこの世界にきて、大切な人々に出会って、変われることを知ったんです」

『余も……変われると……申すか?』

「変われます。と、俺が言ったところで説得力はないでしょうけど」

『なるほど……の。ドランの言う通りであったか…………』

「はい?」

『ノブユキよ。クライヴ=ディップ=スープン三世の名において! そちを〝勇者〟と認める!』

「……え、なんですって?」

『勇者よ、こたびの活躍あっぱれなり。ゆえに、余が許す範囲で願いをひとつ叶えてやろう!』

「…………」


 ――いやいや、勇者とかガラじゃないですし、冒険の旅にでも送り出されるようなフラグを立てるのやめましょうよ。


『よくぞ目覚めたな、小僧よ。もしやと思っておったが、本当にいにしえの大戦から消え去った勇者にまた出会えるとはのお。儂も飯を食ってぐーたらしておるだけではおられなくなりそうじゃな』

「おいこら、じじい」


 ドランに向けて言ったのに、なぜか国王が反応する。


『ほう。余をじじい呼ばわりするのが、そちの願いか?』

「違います」


 そのくらい察しろよ。

 ほんとにこの国、大丈夫かよ。


『では、願いを申してみよ』

「そんなの決まっているでしょう……」



 こうして。

 密偵と勘違いされて捕まったお姉さんは無事に解放されて、ハシィ連合国の使者として迎え入れられることになった。


 ――ああああああ、疲れたああああああ。

 ノブユキが腰を抜かして倒れ込んだところ、がしっと手をつかまれて無理やり立たされた。相手は言うまでもない。


「僕の負けだね、ノブユキ。だが、なんだか、すがすがしいよ」

「バイスさんお疲れっした。すみません、そちらの料理は食べられなくて」

「いや、いいさ。どちらにせよ貴君の料理に敵う要素はなかった」

「そうですか? 遠目でしたけど、うまそうなシチューでしたよ」

「貴君に言ってもらえるとなんだか照れるね」

「ははっ。ライバルの関係なんてそんなもんでしょう」

「貴君の微笑みは人を幸せにする魔法かなにかがあるのかな? 僕は貴君のライバルを名乗っていてもいいのだろうか? ふさわしい料理人だろうか?」

「自信を持ってくださいよ、第一位」

「それを言うなら、僕の勝負に応えてくれてありがとう、勇者」


 ノブユキは片手を振って、その呼び方やめやめ、とジェスチャーした。そういえば両手の光はいつの間にか消えている……。

 バイスも冗談だったらしく、「ではノブユキ、今後もよろしく」と言い直した。

 彼に気を取られていると。


「のっぶゆっきくーん!」

「ノブユキさん」

「ノブユキよ」

「小僧」


 リーネ、ミッフィ、アデルド、ドランが観客席から降りたのか、いつの間にか近くにいた。もみくちゃにされた。ま、悪い気はしない。


『親愛なる民たちよ。前途有望な若者に祝福を!』


 国王が呼びかけると。

 うおおおおおおおおおおおおおお!!

 コロシアムに来ていた観客たちは総立ちになり、気持ちのこもった拍手を送ったのだった。

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