第21話 再会

 休憩所、つまりはヤン達が孤立状態にある場所から村へ続く道へは大人の背丈三人分の距離があった。もちろん飛び越えることもできない。ペトロ先生は考えた。私が向こうまで一人ずつ抱えて行くしかない、と。ペトロ先生が急ぐ理由は二つあった。一つはヤン達の体力と精神が限界を向かえようとしていること。二つ目は休憩所が土砂で徐々に侵食されているからだった。このままではここの時期土砂の泥に埋もれてしまう。今も泥人形が息を吐くように、分厚い泡銭あぶくが生み出されては割れる。その音もヤン達の周りに囲うようにして近付いているのが分った。


「時が迫っている。急ごう」


ペトロ先生は比較的小柄なタムを抱えて土砂の泥の上にかんじきを穿いて立った。少し沈んだだけで歩くことはできる。


「よし!いけるぞ!」


 ペトロ先生はバランスを崩さないように慎重に進んでいった。バランスを崩して転んでしまっては沈んでいったキツネの二の舞になるのだ。


 タムを村道側へ運んだ頃、リリが休憩所に着いた。ペトロ先生はリリに向かって叫んだ。「そのままこちらまで来てくれ。その橇を使う」


 アメリアはリリと抱き合った。一番リリを心配してくれていたであろう彼女は涙をながしながら再会を喜んだ。アメリアの頬に流れるものを拭いてリリは言った。


「今度はみんな一緒に村へかえろう」


アメリアもヤン達も黙って頷いた。リリは村道の方へすぐさま向かった。村道側へ着くとすぐに橇を外し、ペトロ先生に渡した。


「ありがとう。これで二人同時に渡れる」


ペトロ先生はそのままリリが付けていた橇を抱えて休憩所へ戻った。休憩所はより土砂が侵食して土砂が流れてきた時と比べると、人が立てる面積は半分になっていた。


「サラ、これを付けられるかい」


そう言ってペトロ先生はサラに橇を手渡した。運動神経の良いサラの方が橇を付けて渡るのに適していると感じたからだ。サラは橇を付けた足でゆっくりと土砂の上に立った。サラが土砂の上に立ったのを見てペトロ先生はアメリアを抱えた。


「とにかくじっとしていれば落ちなくて済む」ペトロ先生はアメリアに言った。


サラはペトロ先生と同時に出発し、同じ歩のリズムをとりながら着実に進んだ。抱えられたアメリアは恐怖と緊張で目を瞑っていた。


二人が村道に着いた時にはペトロ先生はかなり息を切らしていた。しかし、休む暇は無い。こうしている間にも休憩所は沈みかかっている。すぐさま休憩所の方へ向かっていった。


「あとは君だけだ。ヤン!」


土砂のながれは徐々に早くなっていた。休憩所の地面のだいぶぶんを覆い隠し、ヤンも座っていられなくなっていた。ヤンの靴に土砂の泥がかかり始めた時にペトロ先生が彼らも見たことがないような必死の形相でヤンを抱えた。村道からは応援の声が聞こえ、ペトロ先生はリズムをとりながら転ばないように一歩ずつ進んでいった。そして、なんとか皆を村へ続く道の方へ連れてくることができた。

ヤン達は口々に感謝の言葉をペトロ先生に浴びせた。


「すまないが、少し休憩させてくれないか」


ペトロ先生はそう言って。大木の側に座り、水筒の水を飲んだ。


 休憩所は石造りの屋根が顔を出すに留まり、あとは土砂の流れに飲まれた。後にこの場所は、土砂が乾ききりそのまま道が作られた。石造りの屋根が顔を出した旧休憩所跡はその場所にベンチが設けられ、新たな休憩所としてここを歩く者達に親しまれることとなる。

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