六日目
今日は一段と早く目が覚めた。
身体が早く旅行へ行けと言っているみたいだ。
ピ……ピ……
「おっと、そういえば目覚まし切るの忘れてた」
歯ブラシをくわえたまま布団を敷いていた場所へと戻る。
「なんか鳴り方変だし、音も小さくなってきたな……そろそろ電池切れ?」
今日は時間に余裕もあるし、先に車で電気屋でも行ってこようかな。
「……まあ、明日で良いかな」
少しでも長く旅行を楽しんでいたいという気持ちが勝っていた。
今日の行き先は遊園地だ。
……が、アニメや漫画でデートスポットとして描かれているときのような、賑やかなものではない。
驚くほどに静まりかえっており、聞こえるのは誰も並んでいないアトラクションの稼働音と、私の靴が鳴らす音だけ。
テーマパークの本来あるべき姿とはかけ離れていた。
私がここを行き先に選んだ理由……それはこの遊園地が今日で閉園してしまうから。
原因は、来園客の減少と、アトラクションの劣化。覆ることなどない、決定事項だ。
せっかく来たからには楽しまなければと思い、ジェットコースターやメリーゴーランド、観覧車と、制覇する勢いで乗っては回って……を繰り返した。
栄えあるものもいずれは廃れ、廃れたものはやがて消えていく。
どうしようもない運命なのだ。
この場所だってかつては、毎日数えきれないほどの人を楽しませて、人と人とを繋ぐ場になっていたはずだ。それなのに、終わりはこんなにも静かなのか。
これまでこの場所の名前すら知らなかった自分を、ひどく責めたくなった。
何事にも終わりは来るし、それが予想だにしない瞬間にやってくることだって珍しくない。
だから、無理だとは分かっていても、何もかも覚えていたい。せめて記憶からは消したくない。
もし自らの意志とは関係なく記憶を失ってしまう病気なんかがあったら、私は怖くてたまらないだろう。
「さよなら。今日一日の付き合いだったけど、楽しかったよ。ありがとう」
静かに、静かに、シャッターを押した。
決して煌びやかではないが、月明かりに照らされ、優しく輝く観覧車を写真に収めることができた。
一枚だけ。今日も約束……守ったよ。
フォルダにも、私の心にも、鮮明に保存された。
今日の帰り、お手洗いに立ち寄った100円ショップで面白そうなものを見つけた。
写真やイラストを使って、映画のように続いたフィルムを作ることができるという商品。枠は七つある。
ただ写真をアルバムに入れていくよりも、特別感がある。まるで場面が目まぐるしく転換していく映画みたいに。
「……よし、できた」
私がこれまでに巡ってきた場所を写真に撮り、繋げたもの。スカイブルーフィルムとでも名付けようか。
「ふぁ……そろそろ寝よ」
ひとまず六つ分埋めたフィルムをそのまま机に置いて、倒れ込むように布団へダイブする。
明日はどこへ行こうかな……
――明日は、どこへ行くんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます