第3話新人虐め

 多数あるダイソンスフィア上の平面世界で、魔法あり、魔族あり、冒険者ギルドあり、レベル制度ジョブスキルありで開始される場合、個体戦力が高い魔族や竜族や巨人族は少数で開始され、人間世界では魔力持ちが貴族階級になって国家を形成して支配階級になる。


 隣のSSの平面世界みたいに、BL世界で乙女ゲー世界が五分前世界創造で住人ごと作られることもあるが、大抵は原始世界から始められる。


 その後、魔族が繁殖し増え始め、動物が変化した魔物も増加すると、人間の政府や国家では、魔物の群れと魔族に抗いきれずに敗北し続け、最終局面では魔族や魔王が平面世界全土を配下に収める。


 魔族の中にエルフやドワーフや獣人も含まれ、ドライアドなどの精霊も少数存在する。


 竜族や巨人族には支配欲求が少なく、生活場所も食料も人類とはバッティングせず、魔物を従える力が無いので世界支配をすることはないが、もし人類がどちらかを味方に付ければ魔族に対抗出来る戦力配分に設定されている。


 両方を味方に付けると必ず勝利して、魔国の王を倒して魔族を支配下に置くことさえできる。


 しかし、通常の人類は愚かすぎる上に縄張り意識が強すぎて、寿命が短く老化すると自分の懐に金を入れるか権力を増やすことしか考えられないので、人間国同士でも協力することは無く、殺し合って上げ足を取り合い陥れ合って自ら滅びる。


 腐った人間社会への強い恨みから、魔族に人間世界を売り渡して人類が亡ぶか、永遠に支配されて惨めな暮らしをするのを見て喜ぶ者も沢山いる。


 人間も魔族も支配することはできても、どの種族でも絶滅するまで虐げるとその世界は終わりで、不寛容過ぎる平面世界には巨大な上級天使と人間大の下級天使の軍団が出現し、問答無用で一人残らず焼き払われる。


 ダイソンスフィアの建設に参加している機械化された旧人類は、魔王や王として両陣営の支配を楽しんだり、上級天使や邪神として支配の進捗を楽しんだり、どちらが勝つかの賭けに参加して楽しむこともできる。



 魔国


 魔物を使役して人類が住んでいる近隣諸国を踏みにじり、魔物の数が増える度に領土を増やして支配する魔族。


 魔族が繁栄すると人類が支配される当然の結果が起こり続け、カーチャが住む小国近くまで魔の手が伸び始めていた。


 国と言っても、いつものなろう型コピー城塞都市数個と小規模な街が数十個、その周辺の畑や牧草地を含めた小規模な集団である。


 ドとかバとかガとか濁点が多くついている国名で、戦争や労役に耐える若者をすべて集めても数千人から一万人で、巨大な魔獣が多く含まれる魔国軍数万の侵攻には到底耐えられない。


 既に山向こうの国々が滅ぼされ、川を超えて来られると周辺国が順番に切り分けられて、調略や降伏勧告に従う国も出始めていた。


 その魔国軍の指揮所で、高齢の魔王と家臣が数名いた。


「次には山脈を超えて大河を渡り次の領域へと侵攻する。しかし人間の国にも私と同じ血戦存在を感じる。竜と共にある者だ」


 この魔王もプレイヤーキャラで、魔王自身は自分が機械化人のアバターだとは知らないが、ダイソンスフィア建設中の暇つぶしでゲームとして、盛大に課金して魔王職を楽しんでいる。


「竜に御座いますか?」

「侵攻経路の近く、山深い場所に竜の住処がございます、そこの住人でしょうか?」


 魔王軍幹部はNPCで量産型の亜人だが、たまに安く課金もせず、雑魚の人生を楽しむ者もいるので、追い詰められて死にそうな時、急遽課金して凄まじい力を発揮する場合もあるので注意が必要。


「いや、人の街に住んでおる、竜騎兵かも知れぬな、斥候を出して一当たりして参れ」

「はっ」


 人に紛れられる魔族と、制圧地の人間から集められた部隊が偵察に出され、異様な戦力を持つ者がいれば優先して討伐暗殺される。


 乱破(ラッパ)、素破(スッパ)と呼ばれる忍者もどきが多数放たれ、周辺国に探りを入れ始めた。


 竜騎士団


 カーチャは若い騎士数人に囲まれ、その中で最高位の貴族に壁ドンされ迫られていた。


 皮の作業ズボンなのはそのままだが、一番小さいサイズの上着を着せてもらい、ブカブカなので袖を折り返しているが、一応騎士団員だと識別できるよう処置してある。


 残念ながら、貴族たちはまだ15歳の子供に本気で迫っているロリコンでは無く、採用まで何の試練も試験も受けず簡単に竜からも認められ、筋力も剣の才能もないくせに名誉ある竜騎士に仮採用されたメスガキが気に食わない騎士達である。


「私はお前のような者を認めないっ、誇り高い竜と共に育ったのかも知れないが、お前には竜への尊敬も憧れも存在しないっ、我ら竜騎士はもっと竜に対して敬意を払うべきだっ」


 お約束の、子供の頃に騎士物語を読んで、それもこの国の開祖である竜騎士と竜の物語を読んで感動して、子供の頃から師匠に師事して日々鍛錬を重ね、魔法学校と騎士学校にも通って魔法も剣も修得し、あらゆる艱難辛苦を超えて竜騎士見習いとなった貴族。


 卒業時には領地を継ぐまでのお飾りで腰かけの魔法士隊に行く奴らにまで蔑まれ笑われ、魔法の能力も無く力と健康体だけで騎士隊にコネ入社した無能にまで笑われ、入団後も騎乗しようにも竜には何度も拒絶され、獣臭い竜舎に詰めているのを家族にまで諫められて、もっと結婚にも有利で名誉がある魔法士隊に転属願を出すよう再三言われている竜騎士には、カーチャの存在が許せなかったらしい。


「はあ…… そうですか」


 大柄で若い貴族に鬼のような顔をされて詰められているのに、何の驚きも無く、いつものお貴族様の勝手放題が始まったと思っているカーチャ。


 普通の人間などもちろんワンパンで倒せるし、一声鳴けば訓練中の大型の火竜や、兄として扱っている子竜が駆け付けてくれるので心配していなかったが、その態度が気に食わない貴族をさらに怒らせた。


「このっ、謝罪するなり、採用を辞退して飼育係にでもなれば許してやったものをっ、教育してやるっ」


 平然としている娘に右手の平手打ちを放った貴族だったが、いつも通り絶対防御呪文が展開され、肘を逆方向に折り曲げられ、肩を脱臼して体全体は竜舎の壁にまで飛ばされ、板を割って竜のケツに頭から突っ込まされて「俺のケツを舐めろ(キッスマイアス)」させられた。


「おいっ、大丈夫かっ?」

「一体何をしたっ?」

「ああ、言うの忘れてましたけんど、おら達は竜の加護も貰ってて、防御呪文もかけて貰ってますんで、剣で切りかかられても全部弾き返すんでさあ」


 忠告もすでに手遅れで、貴族は上半身まで板に突っ込んで気絶しているようだが、今後も残りの貴族から切りかかられないように注意してから去った。


 その後、直接の上司である小隊長に報告し、小隊長から騎士団長にも報告され、貴族の騎士に「教育」されそうになったが、防御呪文が発動してしまい、騎士は壁まで飛ばされて壁に突き刺さっていると報告を済ませた。


「ああ、あんなデッカイ大人に囲まれて、もう少しでぶん殴られそうになっただ、もう怖くて怖くて」


 全然怖くも無く、何の脅威にもならなかったが、盛大にマヤって泣き真似もした。


 以後何のお叱りも無かったが、貴族達は厳重注意と謹慎と言う名の休暇を貰って怪我を治した。


 しかしカーチャから竜達にも、報告と言うか日常会話と言うか告げ口もされたのと、防御呪文に攻撃を仕掛けた連中には「竜の敵」と言うマーキングがされていたので、苦労して子供の頃から餌付けして、やっと乗せてもらえるようになった火竜にまで搭乗を拒否される。


 どうにかして大人しい飛竜に乗っても、急減速で池の中に放り込まれるか、背面飛行で紅葉おろし寸前にまで追い込まれたので、治療後に魔法士団に転属願を出して、低級術者で「出戻り」として笑われてから消えた。


 苦労して竜騎士になった者は、カーチャに対して貴族と同じ感情を抱く者もいたが、恐ろしすぎて子竜の母親で姉で妹には手出しできなくなった。


 さらに幼竜舎でも。


 幼竜を虐げて餌を地面に撒いて、寝藁も交換せず糞尿も掃除せず、カーチャを殴ろうとした年長の少女他5,6名に取り囲まれ、メスガキ分からせをしようと集まっている一同。


「アンタ何様? 竜をけしかけてアタシらに怪我させて、詫びも何もないのっ? 頭おかしいんじゃないのっ?」

「さあ、地面に手をついて頭を床に擦り付けて謝りなさい、竜の糞でも食べて小便舐めたらたら許してあげるわ」

「今日からアンタの仕事はここの掃除よ、竜に気に入られてるんだからそのぐらい簡単よね?」


 元から許す気など一切なく、これからも事あるごとに虐めて暴力を振るい、自分から辞めるまで虐めてやろうと思っている少女達。


 一人では無理でも、6人いれば勝つると思い込んだようで、カーチャ一人の戦力は知らず、下手をすれば第六階梯以上の魔法で爆破されるとは思っていない。


 その相手が竜騎士団の制服の上着を着ているのも、どういう意味なのか低能過ぎて認識できない。


「頭おかしいのはお前らの方じゃねえか? おら、これでも竜騎士見習いだぞ、お前らみたいな幼竜舎の世話係も外された、小間使いの女中じゃねえぞ」


 この程度の人数なら、軽いグーパン一発で全員沈められるので、何の心配もしていない。


 薄ら笑いを浮かべ、数人の少女を恐れもせず言い切った新入りに激怒し、全員が箒やブラシで殴りかかった。


「いやああっ」

「きゃああ」


 前回と同じく、絶対防御呪文が発動して跳ね返され、ローマンコンクリート製の地面を滑って、前と同じく擦過傷だらけになった数人。


 この世界の加護も無くし、竜の敵だとマーキングされたので、床の糞尿から細菌やウィルスが入り、敗血漿になって地獄の苦しみを味わうのが決定した。


「お前らが仕事もしないで竜を虐めたから、仕返しに蹴られて踏まれたんだろうが、おらが止めなかったら全員殺されてたのに頭悪いなあ?」

「このっ!」


 知能が低すぎて学習能力も無いので、もう一度デッキブラシを持って襲い掛かり、同じように跳ね飛ばされて地面を滑走した少女。


「あのなあ、この防御呪文見えねえのか? おら達は竜の加護貰ってて、長老からも防御呪文賭けて貰ってるから、さっきの貴族みたいに殴り掛かっても、剣で切りかかっても、全部跳ね返されて倍以上の力で跳ね飛ばされるんだ」


 倒れたままの少女に屈んで言い渡しているカーチャに、上からなら大丈夫だろうと思って箒で殴り掛かる少女達。


「いやああああっ」


 今度は天井まで跳ね飛ばされ、子竜の檻の中に飛ばされた者もいて、中の竜に蹴られ噛まれ踏み潰され、血を吐いて苦しんでいた。


「たっ、助けてーっ!」

「あ~あ、助けて欲しいか?」


 象サイズの子竜に踏まれたので、「象が踏んでも壊れない」カーチャと違い、まず助かりそうにないが、一応頭目らしき少女に問いかけてみた。


「何か言う事はあるか?」

「やめさせてっ、アンタならできるでしょ?」

「まずはゴメンナサイだろうが、クィー、クカカカ」


 竜語で「やめてやれ」と告げると踏むのが止まり、他の少女達が泣き叫びながら檻の下側から手を入れて引き摺り出していた。


「うううっ」

「いやあっ、死なないでっ」


 クズたちにも友情はあるのか、サディストで不良同士の連帯でズッ友だったのか、踏み潰されて黒い血を吐いて、手足も折れている少女を抱いて揺さぶっていた。


「誰か引き込まれた時だけ檻に近付けるんだなあ、普段からそうしてやれや」


 今回「竜の敵」には世界の治療機能が働かないので、最低限の治療すら始まらない。


「何で治らないのっ? ねえ? アンタ確か治療呪文使えたでしょ? 助けてやってよっ」


 カーチャは馬鹿を見る目で蔑み、見降ろしながらこう言った。


「何で?」


 つい先ほどまで多人数で暴力で屈服させようとして、学習能力が存在しない馬鹿が二度も三度も同じ失敗を繰り返し、子竜の檻に自分で自分を放り込んで自滅して、今までの仕返しに踏み潰された。


 もちろんカーチャが治療する必要も無く、自滅した馬鹿を嘲笑いながら死ぬのを待つだけで良い。


 もし治療して助けてやっても、必ず仕返しされて後悔することになり、無い事無い事告げ口されて自分が追い出されるまでずっと嫌がらせが続いて、助けても感謝されることなどあり得ない。


 この世にも平面世界にも、救いの手を差し伸べてはならない人物が大量に存在する。


「何でって、アンタに弾き飛ばされて竜に踏まれたんでしょうがっ、アンタの責任なのよっ? 何とかしなさいよっ」


 発達障害で立場認識ができないほど知能が低いようで、自爆自滅自殺したのを敵のせいにして罵り始めたバカ。


「世話係のくせして掃除もしないで、餌は床に撒く、散歩もさせない、見習いとは言え竜騎士様に暴力を振るう、子竜の兄妹で母親を竜の目の前で叩きのめそうとして、ねえちゃんが妹を守ろうとしてクズを踏み潰した。はい報告終わり」


「ちくしょうっ!」

「覚えてやがれっ、この仕返しは必ずしてやるからなっ」


 お約束の捨て台詞を吐いて、残りの数人で瀕死の少女の服を掴んで、どうにかして抱えて逃げて行った少女達。


 女中頭にあること無い事言いつけるのは予想できたのと、竜を毒殺しようとするのも予想できたので、カーチャも上司に報告しに行った。


「あの~、幼竜舎の方でも女中5,6人に囲まれまして、態度が悪いって箒とかブラシで袋叩きにされそうになりまして~」


 上司である小隊長と、中隊長や騎士団長の前で報告すると、「またか」といった顔をされたが報告を続けた。


「土下座して竜の糞食べて小便舐めたら許してやるって言われたんですけど、一回殴られて女中が吹っ飛ばされて「竜の加護があるから無駄だ」って教えても、上から殴って踏み潰したら大丈夫だと思ったのか、全員で殴り掛かられましたら今度は上に吹っ飛びましてね、一人子竜の檻の中に飛び込んで、今までの仕返しに踏み潰されたのか、おらが虐められてるのを見たから姉ちゃんが怒ったのか、手足も折られて腹も踏み潰されて血吐いてて「やめてやれ」って言ったら、他の連中が檻から引き摺りだして担いで逃げたとこなんでさあ」


 カーチャの存在自体が許せない奴らが、またも事件を起こして自滅したようで、頭を抱えている一同。


 先程の貴族のように板に突き刺さって手が折れた程度では済まず、象の大きさがある子竜に踏み潰され、手足や肋骨までへし折れて虫の息であろう見習いの女中を思い、クソデカため息で返した騎士団長。


「またか、君は騎士団員なのだから、女中が暴力を振るうなど許されんのだが、上着に気付かなかったのか?」

「はあ、ただの新入りだと言ってました。それと「覚えてろ、必ず仕返ししてやる」って言ってましたから、竜に毒でも盛って皆殺しにする気じゃないかと?」

「「「「何だとっ!」」」」


 騎士団長以下全員が幼竜舎に向かい、子竜や幼竜の安否を確かめに行った。

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