山追

新年参賀へ

 屋根の付いた輿こしに乗り、運んでもらって移動中。担ぎ手は4人いる。

 私が歩くと休憩を多くとらないといけなくなるからだ。


 新年参賀という新年会にお呼ばれされて、年末から三日もかけて移動することになった。

 また九一郎さんと一緒に馬に乗るのかと思ったら、二人乗りでの長距離移動はできないんだって。馬に負担がかかるらしい。

 だったら、私も馬を習いたいな。九一郎さん達と一緒に、城の外まで馬の遠駆けにもついていってみたいし。


 それにしても道のりは長い。休憩時間を利用して、九一郎さんにある試みや訓練をお願いしてる。彼を守ることにもなるはずだから。


 それは何かというと──


 サキガケナイトと同じように、私の特殊能力で恋人たちのカードを使い、九一郎さんを変化へんかさせることができたんだ。

 彼の場合は、部分的にだけ。その力の扱い方を自身で試してもらいつつ、習得に努めてもらってる。

 というのも、サキガケとは全然違うものになったから。


 はじめに、何のカードを組み合わせたらいいか思いつかず、彼に聞いてみた。


『九一郎さん自身は、戦いで何に気を付けているのか』


 彼の話を聞いていて、閃いたことがあった。

 たぶん、戦いは長時間だし状況もまちまち。彼自身が状況に合わせて扱えた方がいい。それなら、いっそのこと……。

 私は恋人たちのカードに、思い切って4枚のカードを重ねてみた。

 すると、彼の一部が変化。

 少々慌てたものの、私からカードの意味などを聞いた九一郎さんは「人の戦では使いたくないな。そなたまで戦場に呼ぶことになる」と複雑そうな顔をする。


「だが、物の怪討伐や山追では存分に腕をふるえよう」


 彼は不敵な笑みを浮かべた。

 





 船に乗って、また陸路を進み、町で一泊。新年会は明日。国主様を中心に斉野平家の人や家臣たちが集まり、お話しの後にある食事会で私も合流する流れ。


 占術は奥高山城を出る前日に五日分済ませた。あとは、解呪を調べるのに行うのみ。九一郎さんは宿で私の部屋に寄ってくれた。

さくさんは気を利かせて、部屋の外に出てくれる。


「おそらく、国主様はそなたに占術を所望する。この領地──千寿佐ちずさでの災害予知だが、かなり広い。身体に負担が出るようなら、直ちにやめよ。俺が国主様に話す」


「広いって、どれくらいでしょうか」


「俺たちの領地である燦佐さんさの、倍以上じゃな」


 明日の打ち合わせだった。

 一通り明日の流れを確認し終えると、九一郎さんはじっと私の目を見つめた。


「明日は国主様と初対面となる。緊張するか?」


「いえ……その場の雰囲気もまったくわからないので」


 女性が同席することがほぼ無い場なので、居心地が悪いかもしれないけど、料理を楽しんでくれと言う。


「婚約への回答も頂けるはず」


「はい……きっと、許可をもらえますよね」


 彼の手が伸びてきて、肩を抱き寄せた。

 そう信じたい。そんな声が聞こえた気がした。

 





 翌日、国主様の待つ内扇山城うちおうぎやまじょうに到着。私とさくさんだけ別室で待機。

 お正月なので、少しだけ豪華な模様の入った着物を用意してもらっていた。

 

 女中さんに呼ばれ、会場となる大広間に向かう途中、廊下で何人かすれ違う。

 九一郎さんからは、とりあえず脇に立って道を譲り、頭と目線を下げていれば無礼にはならないと教わった。


 札巫女の身分はあってないようなもの。

 出自がわからず得体が知れない、火ノ巫女に準ずる傲慢で恐ろしい女ではと疑う人もいるし、占術で領民を救う神託の巫女と見る人もいる、らしい。15年前の先代が優秀な巫女だったのもあって、そんなに悪く思う人はいないと聞いている。


 刺繍がびっしり入って綺麗な着物の女の子に道を譲った。胸をくすぐられる様な良い香りまでふわっとただよう。

 お姫様ってこういう感じなんだろうなぁと思った。

 

「─────」


 え。

 呼び止められたような気がして、私は後ろを向く。


 お姫様と思われる女の子と思いっきり目が合う。私よりは年下……13、4歳程度に見える。温和そうだけど、人を見透かすような目をしてる。ひ、ひとクセありそう。でも、子リスのように目がぱちりとして、とてもかわいらしい顔立ち。

 そんな彼女から話しかけられた。


 後ろに控えているさくさんが、お付きの女性に話をしてくれている。そのお付きの女性経由で、お姫様の耳に私が札巫女であることが説明されるんだろう。


 と、思ったんだけど。


「─────。─────。──────……」


 お付きの女性の言葉の後も、いっこうにお姫様からのおしゃべりが止まない。表情からは好意も敵意も感じないけど、何だろう。

 でも、気は引ける。


「お話の途中で申し訳ございません。私は札巫女。言葉を理解できないのです。御用につきましては、のちほど九一郎より伺います。急いでおりますので、どうかご容赦くださいませ」


 少々話をさえぎりつつも用意していた言葉を伝え、私は頭を下げた。

 立ち去ろうとすると、視界の端に満足そうな表情のお姫様が映った気がする。


 女中さんがひかえる広間の入口。お正月だからか、白い幕のようなものが両サイドに斜めに垂らされ固定されている。

 そこをくぐるように入って、とりあえず一礼。

 たくさんの男性が板間に敷かれた畳に座り、お膳を前にくつろいでいた。それほど堅苦しくはないみたい。部屋の最奥の中央に座っているのが、たぶん国主様だと思う。


 九一郎さんを探すと、比較的部屋の奥の方にいた。数人に囲まれてお酒を飲んでいるようだった。元服したことと、正式に巫女守人となったことで挨拶にまわると言っていた。終わったのかな? 逆に囲まれている。


 女性と言えば、給仕をする人しかいない。

 部屋の端のほうから、九一郎さんのもとに向かうと、だんだん場の視線を多く感じるようになる。

 

「迎えにいけず、すまんな」と、気づいた九一郎さんが立ち上がった。烏帽子をつけて、控えめに模様の入った着物と袴を身に付けている。

「いえ、場所はすぐわかりました」と私が言ったころには、部屋中の視線が突き刺さるように感じられた。

 さすがに、居心地悪い。


 ──いよいよ、国主様にご挨拶する。

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