第27話新しい仲間

 愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。

 サラの弱点を解決するために、二人で森に出かけることに。

 そんな時、巨大な魔物に襲われていたクラスメイト、エルザ姫を助け出すのであった。


 従者も付けずに、危険な魔の森に普通は一人で来ない。

 サラと二人で、お姫さんの事情を聞いていくのであった。


「ハリト様……実は私……“強く”なりたかったんです!」


「強くだと?」


「はい。そのために誰にも内緒で、この森に武者修行に来たのです……」


 魔物退治の実戦は、どんな鍛錬よりもレベルアップの近道。

 エルザは言っていることに、理にかなっている。


「でも、エルザさんは、クラスの中でも凄く強いの……どうして」


 サラの不思議がるのも無理はない。

 転校してきたばかりだが、エルザの実力はクラスの中でも断トツ。


 万能型だが魔法、剣技そのどちらおいても、トップクラス。

 間違いなくウラヌス学園の生徒の中でも、最上位の強さであろう。


(そんな彼女が“もっと強くなりたい”と願う……か)


 オレは勘付く。

 つまり“過去”にエルザ姫は“何か”があったのだ。


「前にいた学園で……何かあったのか?」


「はい、ハリト様の仰るとおりです。私は前の学園……王都学園で“あるクラスメイト”に決闘で負けてしまったのです……」


「えっ……あんなに強いエルザさんが⁉」


 サラが声を上げてしまうのも無理はない。

 転校してきてから、エルザはクラス内での模擬戦でも負け知らず。


 おそらくウラヌス学園の教師でも、彼女に敵う者は少ないであろう。

 それほどエルザの総合力は高いのだ。


「決闘に負けたか……それが転校してきた原因か?」


「はい、ハリト様。決闘での敗北条件は、『学園を去る』ことでした。敗北後、私はウラヌス学園に強制転校となりました。でも、あの悔しさは、決して忘れることが出来ず……」


「それでお忍びで、武者修行に来たのか、ここに?」


「はい。私は早く強く……もっと強くなりたかったのです!」


 なるほど。

 大体の事情は分かった。


 エルザ姫は決闘で負けた相手に、いつかリベンジしたいのであろう。

 だが学園の授業だけでは、自分のレベルアップには限界がある。


 それに相手は同じ候補生であり、現時点ではエルザよりもかなり強い。

 同じような授業を受け続けても、両者の差は開いていくばかり。


 だから危険を承知で、単身で魔の森に修行に来ていたのだ。


「でも、エルザ。単独での魔物狩りは、まだ止めておいた方がいいぞ。リスクが高すぎる」


「ですが、ハリト様! 私は強くなりたいのです! “あの者”の勝つために……」


 エルザ姫はかなり頑固な性格のようだ。

 決意の意思は固く、説得に応じてくれない。


 ここまで頑固なら、もはや放っておくしかない。

 貴族絡みの問題に、頭を突っ込んでも面倒なことしかないのだ。


「うっうっう……」


 そんな時である。

 少女の泣き声が聞こえてきた。


「エルザさん、可愛そう……」


 泣いていたのはサラだった。

 大粒の涙を流しながら、エルザの想いに共感している。


「ハリト君……」


 そしてオレのことを、じっと見つめてくる。

 涙に濡れた瞳は、静かに物語っていた。


 ――――『ハリト君。エルザさんのこと、助けてあげられないかな?』という意志が。


 もしかしたらオレの一方的な勘違いかもしれない。

 だが、大事な娘に、こんな悲しく純粋な瞳で見つめられたら、オレはどうにもならない。


 でも、エルザの願いを叶えるためには、いったいどうすれば?


(ん……あっ、そうか!)


 その時、一つアイデアが浮かんできた。


(うん、これは悪くないかもしれない)


 このアイデアが上手くいけば、ちょうどオレの抱えていた別の悩みも解決できる。

 よし、エルザに聞いてみよう。


「なぁ、エルザに提案があるんだけど?」


「えっ……提案ですか?」


「そう。エルザは強くなりたいだよな?」


「はい、そうです」


「それなら、今後はオレたちと……オレとサラと一緒に、武者修行していかない?」


「えっ、ハリト様たちと⁉」


「そう。修行といっても、特に難しいことはないから。魔物を狩りながら実戦稽古的な感じかな?」


 この提案には、オレにもメリットがある。

 どうしても今後サラと二人きりで修行するのは、正体がバレてしまう危険性が高い。

 常に二人で会話する必要があり、いつかボロが出てしまいそうで怖いのだ。


(エルザが入ってくれたら、危険が大幅に下がるはずだ……)


 エルザはサラと女同士の同性。

 修行中や移動中も、女子同士で会話が盛り上がるであろう。


 そうなったオレも気兼ねなく、サラに修行をつけることが出来るのだ。


 あっ。エルザの返事を聞く前に、サラにも大丈夫か聞いてみないと。


「サラ、事後報告みたいだけど、大丈夫?」


「うん、ハリト君! 私は大賛成! エルザさんとも仲良く出来るし!」


 サラは心が広く優しい子。

 満面の笑みで、エルザの返事を待っている。


「サラさん……それにハリト様……本当にありがとうございます」


「ということは?」


「はい、ハリト様! 私はもちろん大丈夫でございます。むしろ私の方からお願いいたします!」


 エルザは頭を深く下げてくる。


「これからご教授よろしくお願いします!」


 上げた顔は一変していた。

 清々しいほどの表情。

 先ほどまで……転入してから、ずっと靄(もや)がかかっていた顔が、一気に明るくなったのだ。


(おっ、良い表情だな。もしかしたら、これがエルザの本当の素顔なのかもな)


 エルザは転校して日から、自分で作った表情をしていた。

 他のクラスメイトたちは誰も気がついていなかったが、オレだけ違和感があった。


 原因は今回の想い。

 今まで思いつめて毎日過ごしてきたのであろう。


「良かったね、エルザさん! これから、よろしくね……」


「はい、サラさん。こちらこそよろしくお願いします……って、サラさん、また泣いているのですか?」


「ご、ごめんね、エルザさん! なんか、嬉しくなった、急に涙が止まらなくて……」


「そんな……私のために……」


「あっ、エルザさんも涙が溢れてきちゃったね……」


「こ、これは違いますわ! あ、汗が目に入って……ですわ!」


「えっへへ……そうだね」


 少女二人はハグし合う。

 二人とも泣きながら、笑っていた。


 不思議が光景。

 そして眩しすぎる光景。


 男子であるオレは、どうすることも出来ない。

 少し離れて、静かに見守っていくことにした。


(それにともかく三人で修行か……でも、お姫さんは大丈夫かな?)


 エルザは何といっても王家のお姫様の一人。

 それを毎週の休みの日に、危険な魔物退治に連れ出す。


 ウラヌスに帯同している彼女の従者や関係者は、黙っていないだろう。

 何とかしないと。


(とりあえず後で、レイチェル先生にも相談しておくか……)


 ああ見えて、二代目様の影響力は大きい。

 先生に責任者になってもらい、関係者の許可を取ってもらおう。


(うん。いけそうな感じだ!)


 とりあえず、この作戦で進めていくことにする。


「さて、そろそろ戻るとするか?」


 とりあえず今日は時間も遅い。

 門限もあるので、そろそろ学生寮に戻らないといけない。


「よし、サラ、エルザ、修行は来週から、今日は寮に戻るよ!」


 まだ二人とも談笑している。

 改めて見ると、不思議な光景だ。


 昨日まではクラス内で、口もきいていなかった二人。

 でも今は往年の親友のように、愛称で談笑している。


 年頃の女の子同士は、こういったものなんだろう。


「うん、そうだね。ハリト君」


「そうね、ハリト様」


 二人とも気持ちを切り替えて、帰り支度をする。

 とりあえず落ちていた赤大蛇の魔石は、オレが代表して管理しておくことにした。


 今後、修行で倒した魔物の魔石は、三人で山分けがいいだろう。

 後でパーティーの簡単なルールとかも、決めておこう。


「あっ、そうだ、ハリト君。せっかくだから、この三人のパーティー名を決めようよ!」


「えっ、パーティー名?」


 いきなりのサラの提案に、思わず疑問で返してしまう。

 そうかパーティー名をつけたいか。


 それならオレにも何個か候補がある。


 ・第一候補:深淵の探求者団


 ・第二候補:黄昏(たそがれ)の三本柱


 ・第三候補:ウラヌスの紅蓮花


 どうだ、サラ?

 かなりカッコイイだろう⁉


「えっ……それはちょっと恥ずかしいかも、ハリト君……」


「そうね……私もサラに同感。いくらハリト様の提案でも、そんな厨二的な名前は……」


 二人の少女は白い目で見つめてきた。

 同時に断固たる拒否の、強い意思も込められている。


(な、なんだと……オレが今でも厨二病だと……)


 これには脳天にショック。

 見た目は十歳の少年だが、中身は五十近い大人なのに。


「ねぇ、ハリト君。それなら私たちのアイデアはどうかな? さっきエルザちゃんと考えてみたの!」


「えっ、えっ、二人で? ちなみに、どんな感じなの?」


 大事なサラの提案なら、受けない訳にはいけない。

 どんな可愛い名前になったのであろうか?


「いくよ、エルザちゃん?」


「はいですわ、サラ。せーの!」


 二人で声を揃えて、三人のパーティー名を発表だ。


「「パーティー名は、“ハリト団”!」」


 えっ……ハリト団……?


「そう、素敵だよね、ハリト君!」


「これを聞いたとき私も感動しました。サラには、ネーミングセンスがありますわ!」


 ちょ、ちょっと、待って二人とも……。


「ありがとう、エルザちゃん!」


「ハリト団……大陸に名を刻む伝説のパーティー名になりそうな予感がしますわ!」


 二人の興奮は止まらない。


「じゃ、これからもよろしくね、団長ハリト君!」


「よろしくですわ、ハリト様!」


 ここまで盛り上がっていたら、変更は不可能。

 オレが諦めるしかない。


(ハリト団か……とほほほ……前途多難なパーティーになりそうだな……)


 こうしてオレたち三人は、新たなパーティーを結成するのであった。

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