第4話移動開始

 勇者候補に選ばれた愛娘サラが、家出をしてしまった。

 娘を近くで見守るために、オレは作戦を実行。


 “時空の魔神エギド”の禁呪で、オレ自身が十歳に逆行転生。

 娘と同じ勇者学園に通う大作戦だ。


「さて、あと、旅に必要なものは……」


 若返り転生を終えて、自室で旅立ちの準備をしていた。

 これから向かうのは、ウラヌスの街にあるという勇者学園だ。


 サラの置き手紙によると、学園では一年くらい寮生活らしい。

 使いそうな生活用品を、リュックに詰め込んでいく。


「さて、荷造りは、こんな感じでいいかな?」


 一通りの準備を終えて、荷物の最終確認。

 少しだけ不安がある。


 何しろ大きな街に出かけるのは久しぶり。

 約十数年ぶりに旅に出るのだ。


 よし、特に忘れ物はないな。

 何かあっても街で買い足せばいい。

 金にも不十分していないし、問題はないであろう。


というか【収納魔法】があるから、荷物はいつでもとりだせる。

 リュックサックはあくまでも怪しまれないようするための偽装なのだ。


 さて、準備は終わった。

リュックサックを背負って、我が家の玄関を出ていく。


「よし、あとは結界を起動させておけば、留守の間の大丈夫だな」


 我が家のパッと見は、辺境にある古びた塔。

 だが中や地下に数々の魔道具や宝物がある。

 そのため賊対策として、結界装置を用意してあった。


 他にも不可視の結界や、魔力探知妨害など、何重にも魔方陣を展開。

 かなり厳重な結界なので、たとえ魔族や魔神族でも破ることは不可能であろう。


 さて、これで心置きなく出発できるぞ。


「マハリト様、お気をつけて」


「ああ。留守は頼んだぞ、クレハ」


 玄関先で見送ってくれたメイドに挨拶する。

 彼女の名はクレハ。

 乙女なメイドに見えるが、実は人ではない。


 クレハは魔道人形……オレの作り出した人型の人造人形(ゴーレム)だ。

 我が家の家事の代行者。

 昔からサラの育児も、担ってくれている大事な存在だ。


「結界システムは完璧だと思うけど、何か有事があったら対処を頼むよ」


「かしこまりました。適宜(てきぎ)に対処しておきます」


 クレハは家事能力だけではなく、戦闘能力も高く魔改造してある。

 たとえ賊が百人襲ってこようが、こいつを負かすことは出来ない。

 大賢者マハリトが作りだした自慢の作品なのだ。


 留守のことはクレハと結界システムがあれば、問題はない。

 これで心置きなく出発できる。


「よし、それじゃ出発だな!」


「いってらっしゃいませ、ご主人様」


 クレハが見送ってくれる中、オレは我が家を後にする。


 いよいよ十数年ぶりの旅がスタート。

 向かう先はウラヌスの街だ。


「さぁ、急がないとな!」


 こうして十歳に転生したオレは、久しぶりの外の世界に。


 まずは【転移魔法】で、一瞬でウラヌスの街に向かうぞ!


 ◇


 と思ったのも束の間。

 ウラヌスの街にはまだ到着していなかった。


 何故なら当てにしていた【転移魔法】が、上手く発動できなかったのだ。


「あれ、やっぱり上手くいかないな? 【転移魔法】が発動できないのは、やっぱり転生の影響かな? ステータス減少があっても、理論上は発動可能なんだけどな?」


 歩きながら調べてみるが、原因は不明。

 禁呪で十歳に若返ったので、何やら体内の魔力操作がズレている。

 基本的な魔法は使えるが、転移魔法など特殊な術が上手く発動できないのだ。


「まっいっか。飛んでいくか……【飛翔】!」


 仕方がないので風魔法で空を飛んでいくことにした。

 転移魔法に比べて、ウラヌスにまで時間は少しかかるであろう。

 だが徒歩で辺境を歩いていくよりは、何倍も時間が短縮できる。


「さて、ウラヌスは……たしか、あっちの方角だっはず」


 昔の記憶を思い起こしながら、辺境の荒野の上空を高速で飛行。

 目的地であるウラヌスを目指す。


 飛行しながら、他の魔法の幾つかを試していく。


「うーん。やっぱり使えない魔法が何個かあるな……」


 使えない方があるのは、【逆行転生】のデメリットなのであろう。

 しばらく特殊な魔法は控えながら、生活をしていくしない。


「特に問題もないし。まっ、いっか。」


 ちなみに魔法の平行発動は大丈夫だった。

 お蔭で飛行しながら、別の魔法も発動可能だ。


「とりあえず守りや探索系の魔法は、常時発動しておこう」


 いくつかの発動。

 何しろ今の肉体は、全盛期に比べて十分の一しかない。

 魔力も弱体化している。

 万が一、魔王クラスでも強襲されたら、流石のオレでも危ない。


 まぁ、魔王は復活するのは当分先だから、別に脅威はないのだが。

 とにかく“転ばぬ先の杖”は大事。

 油断せずに飛行移動していこう。


「ん?」


 大空を移動していた時だった。

 探知の魔法が“何か”を見つけた。


「これは……何だ?」


 少し先の方で、集団が争っている気配を感知。

 街道沿いだが人里離れた地域だ。


「とりあえず向かってみるか」


 ウラヌスへの経路上から少し外れるが、何か気になる予感。

 飛行魔法の速度を上げて、近辺まで飛んでいくことにした。


「あそこか……?」


 しばらくして目的地の上空に到着する。

 まずは【遠目】の魔法で上から状況を確認だ。


「あれは……馬車が襲われているのか?」


 人里離れた街道沿い。

 豪華な馬車の一行が、大きな獣に襲われていた。


「あれは魔獣……“岩大熊”か?」


 一行を襲っているのは、熊型の巨大な獣。

 “魔獣”は普通の獣とは違い、魔の悪影響を受けた邪悪な存在。


 その中でも“岩大熊”の戦闘能力は、恐ろしいほど高く、性格も凶暴だ。


「“岩大熊”の魔獣か。普段はこんな街道沿いまで、出てこないはずだが」


  “岩大熊”は普通、深い森の中に生息している。

 もしかしたら魔王復活の前兆の悪影響なのかもしれない。


「運が悪かったな、アイツ等は」


 状況的に荒野に出てきた“岩大熊”と、馬車の一行が遭遇したのであろう。

 馬車の護衛隊は、巨大な“岩大熊”を必死で追い払おうと戦っている。


「馬車から見て、中には貴族が乗っているんだろうな……」


 馬車はかなり豪華な装飾が施されている。

 おそらく地位の高い人物が乗っているのであろう。


「護衛もいるし……見なかったことにするか、今回は」


 あんな貴族の馬車を助けて、今まで何度も面倒に巻き込まれた嫌な経験がある。。

 今回も介入したら、間違いなく同様になる予感が満載だ。


「さてと、先を急ぐか……」


 見て見ぬふりをすることにした。

 何しろオレは他人の面倒に巻き込まれるのが、何よりも大嫌い。

 伊達に十数年間、人里から離れて暮らしてきてない。


「早くウラヌスに行かないとな……」


 それに今は急いでいる。

 早くサラに追いつかないといけないのだ。


「キャー!」


 そんな時であった。

 馬車の中から、少女の悲鳴が上がる。


 どうやら“岩大熊”が突進攻撃で、護衛隊を突破。

 馬車が破壊されようとしていたのだ。


「あれは……マズイな」


 今の突進で、一気に馬車側が劣勢に陥った。

 護衛隊は必死で追い払おうとしている。

 だが“岩大熊”の攻撃力は強大。

 護衛たちが次々と倒れていく。


「皆の者、大丈夫ですか⁉ 私も戦います!」


 そんな時、馬車の中から一人の金髪少女が、飛び出してきた。

 歳はサラと同じくらいだろうか。

 まだ少女だが勇敢にも剣を構え、“岩大熊”に立ち向かおうとする。


「でも、あれじゃダメだ」


 “岩大熊”の防御力は尋常ではない。

 あの少女の攻撃は通じないであろう。

 このままでは少女は、“岩大熊”によって殺されてしまう。


「サラと同じくらいの歳の少女か……」


 愛娘の明るい笑顔が脳裏に浮かぶ。


「ふう……少しだけ“寄り道”をしていくか!」


 ため息をしながら、進路を急変更。

 こうして金髪の少女の一行を助けるため、オレは寄り道をするのであった。

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