第3話 minolta

この瞬間を残してみたい!!



今までこんな感情になったことはあっただろうか?

そう思ったのは、たくさんのカメラが目の前に並んでいるから?

それが写真を撮ってみる気になったのかな?

逆光で祖父が幻想的に見えたから?


ただ普段とは違う雰囲気の部屋なのは解る。


そして不思議とドキドキした。


ドキドキした瞬間にスマホのレンズ向けてシャッターボタンを押していた。


スマホを見ると今見ていた景色が切り抜かれたようにスマホに写っていた。


床に沢山のカメラを並べられ祖父を取り囲むように並べられ、西側にある窓から差し込む光を受け、祖父の輪郭がうっすら光っているようにも見える。


懐かしそうにカメラを構えファインダーを覗く祖父の横顔は、少し口元が笑っていらようでもあり寂しそうにも見えた。


自分の意志で残しておきたい一瞬を切り取れた。

グッとくる不思議な感情と、手元にある自分で撮った写真を見てうかつにも感動してしまった。


シャッター音でコチラに気づいた祖父はカメラを構えたままファインダー越しにコチラをみる。


「おぉ?なんや写真撮るなんて珍しいな。どんな写真撮ったんか見せてよ」


カメラ片手に近づく祖父は私の少し後ろに回り込みスマホを覗き込む。


「おぉ!空気感があっていい写真やな!!美幸ちゃん才能あるんちゃうか?ちょいと貸してよ」


そのまま写真を見たいのか、持っていたカメラをホイっと私に渡しスマホをスッと手から抜きとってしまった。


祖父はそのままスマホの画面をピンチアウトしたりしながら先ほどの写真を隅々まで見ている。なんだこの老人!!スマホ使いこなしてやがる…。


「ええ写真や〜後でワエのスマホに送ってよな。クラウドに永久保存や!!」

そんな祖父の姿を横目に今、私の手には使い込まれたカメラがある。

細かい傷が付いているがよく手入れがされていた。

正面を見てみると『minolta』と書いてある。

ミノルタ?聞いた事ないな?と思いながらカメラを眺めながら裏表を見てみる。


「おじいちゃん、このカメラって聞いたことないけど、どこの国のカメラなの?」


「お〜知らんのか?まぁ知らんやろな…。

日本のメーカーでな、創始者の田嶋さんって方がな、ちょうどここ海南市の日方の出身でな。

地元贔屓って言うか、何というか、そやな!誇らしかったんや!ワエらとおんなじ和歌山で地元の海南市や。

そんな人が作ったカメラを使いたかったんや!色々買ったわな〜。今渡したそれはXEってヤツやで」


嬉しそうに話する祖父がまるで子供のように見えた。


「で、そんなすごい人が作ったカメラがコレ?他には?いっぱいあるの?」


私まで嬉しくなって祖父に色々聞いてみようと思った。

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