第12話 監査

 9月と3月、半期決算と本決算のさい、棚卸作業を内部監査室、財務部そして外部の監査法人から派遣されてくる監査人が立ち合います。


 月次棚卸はしているのでまず棚差はないのです。

 ですが、この半期と本決算ではわざわざ休日にみなさんを集めて決算棚卸を行います。


 何百とある品目のリストの中から、監査法人の監査人が実際に物を数え、我々が数えた数字と合っているか、もしくは、倉庫全体で数え洩れがないか棚卸方法は適格かをチェックします。


 以前は超大手の中央〇山監査法人でしたがご存知のように解散してしまったので、僕が物流にいた時には別のこれも大手監査法人になっていました。


 当日朝、タクシーに乗って監査法人の監査人がやってきます。

 別に車に乗って役員、内部監査室長、財務部長もやってきます。


 緊張して迎える物流部員と現場の担当者…、なんてことはありません。


「9時からなんで…、ラウンジで待っていてください。お茶はこの給湯器て勝手に入れて飲んで下さいね…」

 案内しながら僕は言いました。

「倉庫は3か所にありますから、車で別れますので、どこに誰って決めておいてください、これ毎回のことですからね」


 現場の担当者から監査人まで含めての全体朝礼があり、そして散っていきます。

 僕はいつも第二倉庫と外部の倉庫二つが担当で、監査法人の一人と財務か内部監査室の社員を車に乗せて回ります。

 品目のリスト、計算機、暗いところを見るペンライトなどを持っていきます。


「何個くらい抽出して数えるの…?」

 監査法人の若い男性に訊きます。

「30種くらいいきたいです」

「うちの会社ははじめて…?」

「はい、こちらというか棚卸に立ち会うのも初めてです」


 やっぱりね。


 去年来た若いお嬢さんは今回は野沢さんについて他の倉庫に行ってたもんな…、初めてじゃちょっと時間かかるな…。


 最初の倉庫に着く。

 現場ではすでに棚卸を始めている。

 事前に連絡をしており、我々が到着するまで

「終わらせないで」

 とお願いしている。

 

「すいません、今日は朝早くから…」

「半年に一回だもん、大丈夫だよ」

「ちょっと見せてくださいね」

「あいよ…」


 次々と数え手元のハンディスキャナーに入力する現場の担当者。


「これいくよ…、5パレットに1パレット3個欠けて137ね」

「こいつね、3掛け7の21パレットと5個だから…383」


 テキトーではないんです。


 最初のほう、1パレットに28個載るので、それ掛ける5だけど最後の1パレットには3個欠けているので25個。よって137個。

 次は18個1パレットに載るので、18掛ける21パレットとプラス5個なので、383個。


 ベビーカーやチャイルドシート、その他商品もそれぞれ大きさが違うので、ひとつのパレットにいくつのるかは異なります。

 現場の人はこのベビーカーはいくつ、これはいくつと知っているので、おそろしく棚卸は早く終わるのです。

 事前に言っておかないと、我々が着くころには終わってしまうのです。


「ねえ、もう数え終わったのとかあるから棚卸票と合っているか数えたら…」

 茫然としている立ち合いの二人に言う僕。

「あ…、はい…」

 リストからあわてて品を選ぶ監査人の彼。


「これいきたいです…」

「いいよ…、ねえ、これどこにあるかな…」

 現場の担当者に訊く。

「あっちですよ…」

 倉庫の中央を指さしている。


 1パレットごと数える監査法人と内部監査室の人。

 これじゃあ終わらない。


「いいかい、このパレットに載っている数をさぐるんだ。右側7個、左側も7個で14個。これを2段積みだから28個。それが何パレットあるか…、そうゆうふうに数えてね」

ペンライトで指しながら僕は言った。


「堀さん、計算機持ってますか…?」

 内部監査室の社員からいきなり言われた。

「棚卸来るのに計算機忘れるか!」

 携帯電話のでは使いにくいのであろう。

 手持ちの計算機を貸してあげる。


「すいません…」

 あとの講評でなんか言ってきたら、これをネタに言い返そう。


「この品目いきたいんですけれど…」

 監査法人の彼がおそるおそる僕に尋ねた。

「これはね、そこの一角だね。1パレット18個の…、1,2、3…、全部で9パレットだから…」


 誰が棚卸して誰が数えているんだか…。


「次、これいいですか…」

 僕にリストを見せる彼。

「これやりたいって…、どうする…」

 現場の人に訊く。


「ああ、あっちの壁のほうですけれど…」

 向かいの壁を指す。


 それを見て

「あ…」

 という立ち合いの二人。


 やれるものなら…。


 監査で後ろめたいものもないし、指摘されるものもないからね。


 壁一面に商品がそれこそ壁になっている。

 2000はゆうに超す数だ。

 そんなに在庫を抱えるほうもいけないけれど…。


 やれるものなら…。


「他のいきましょうか…ね…」

 申し訳なさそうに小さい声で言う監査人さん。


 僕は適当にリストをながめ

「ベビーカーやチャイルドシートだけだと偏るからさ…、このおもちゃにしたら…」

 数えやすいものを教えてあげる。


「はい…」

「そうですね、そうしましょう」

 ほっとしたように応える二人。

 

 あと二つの倉庫もまわり、30種ほど彼らに数えてもらい事務所に戻ります。


 全体での講評があり終了です。

 特に指摘されることはありませんでした。


 みなさんをお送りします。


 外部監査法人のリーダーが僕が呼んだタクシーを待っていました。


「ねえ、うちの会社の棚卸さ…」

「はいなんでしょう」

「新人の研修がわりに使ってない?」

「そんなことはないです」

 そう言うよね、そうだとしても。


「いつも新人さんが来るし、若いお姉さんだとうれしいけれどさ…」

「こちらは資料も整ってますし、こうやって午前中で終わりますし、本当に助かります」


 目の前に役員と財務部長の車が停まっている。

 黒と白の色ちがいだけど同じ種類の車だ。

 隣には内部監査室室長の車もある。

 これは真っ赤だ。


「ねえ、こうゆうの監査したら…」

「え…?」


「メーカーの役員と財務部長がどうしてベンツ乗ってるの…」


 最初に役員の白いベンツが停まっていたが、その後わざわざ財務部長がその隣に黒ベンツを停め、さらに何を考えたか他にスペースがいくらでもいくらでもあるのに内部監査室の室長が真っ赤なスカイラインGTーRをその横に並べて停めた。

「どこのなんの“集会”だかね…」


 3台の車は昼のまぶしい陽光を反射して輝いていた。

「個人の持ち物は…僕らの仕事外で…」


 そうだよね。

       

 


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