第11話 前もやってた

「ねえ、聞くだけきいて…、シロスタゾールのODの50ミリってメーカー問わないからさ、どっかないかな…」


 薬品の卸さん、あまりご存知ないかもしれませんが、ア〇フレッサさんとかメディ〇オさんとか東〇さんとかスズ〇ンさんとかね、そこに毎日のように今問い合わせています。

 電話かけまくってます。


 薬の不足が深刻なので。


 今、僕は薬局に勤めていますが、

「こんなこと前もやってたな…」

 と思いました。


********


 5年くらい前までですね。

 私があるベビー用品メーカーの物流部にいたころです。


 一応みなさんが知っているメーカーでしたので、出荷する量も半端なかったです。

 特に月末。

 そして年度末、年末です。


 社内にというか、営業部には事前に通達しておきます。


「月末、そして何度末は荷量が膨大になるので、できるだけ分散しての出荷をお願いします。大口出荷はトラックの確保が不可の場合もあるので事前に必ずご連絡ください」


 毎回掲示します。


 でも営業さんだって立場があるので、できるだけのことしかできません。

 こんなことはしょっちゅうでしたが、ある時のことです。

 年度末ギリギリまで先方様と交渉して、あと何台、あと何十万円、

「堀ちゃん! 神戸、ベビーカー300台、1日納品! なんとかして! 」

 と言われました。

 年末だか年度末の出荷に間に合うギリギリでした。


 FAXしてもらいます、明細を。

 そこには容積が入っています。

 才数といいます。

 これは物流の専門用語ですね。


 1尺立方=1才です。


 尺なんて…と思われるかもしれませんが、物流現場では現役の単位です。


 ベビーカー300台。


 10tトラック2台か、4tトラック3台が必要です。

 無理すれば、10t車1台と4t車1台で入ります。


 なぜトラックの台数がわかるのか…。


 ベビーカー1台が約6才の容積、大きさになります。

 

 6×300=1800で、全部で1800才の荷物です。


 10tトラック1台には1000才から1200才積めこめます。


 4tトラック1台には500才から800才の荷物が入ります。


 よって余裕を持つなら10t車2台、4t車3台が必要となります。


 通常月なら、月末前ならそうは苦労しません。

 弊社専門の運送会社にお願いして手配してもらいます。


 ですが、年度末になるとそうはいきません。


 電話をかけまくります。


 そう今薬不足で卸さんにかけまくるように…。


「○○の堀です!」

 関西で有名な運送会社に電話します。

「なに? どこ? いつ? 」

 もうツーカーなので…。荷主と取引先という関係ではなく、とにかくうまく流そうという仲間ですね、もう。


「1日着、神戸のト〇ザラス…、1800才…、10t2か、4t3か10t、4t各1台か…」


「きついね…、探してみるけれどね…」


 物流のベテランの野沢さんが小型荷物の会社に電話している。赤〇という運送会社。

 つぎに引っ越し会社、さらに世界の日通。


 僕もとにかく知り合いの各運送会社に電話する。


「神戸、1800才… 10t車か4t車が欲しい、1日着」


 電話をかけまくってね。

 名〇、トナ〇、札幌通運はないとして、あとどこだったかな…。


 あの…

 荷物、繁忙期はこれだけではないです。

 〇マゾン、赤ちゃん〇舗、西〇屋、オートバッ〇ス…。


 とにかく運送会社さんとの日ごろのお付き合いが重要です。

「荷物傷つけました…」

 と報告があればだまって代替品を出します。


「名古屋行きの車があまってて…」

 と言われれば、なんとか荷物をまわします。


 持ちつ持たれつですね。


 ベビー用品メーカーとしては名前が知れてはいますが、この繁忙期には、やはり家電、資材関係の大手もトラックを必要とします。


 雑貨のベビー用品に車をまわしてもらうのはかなり大変なんです。


 冷凍車が来ることもありました。冷凍機能を使わないで運んでもらいます。

 引っ越しセンター、0120とロゴの入ったトラックも来ました。

 〇〇新聞というのもあったな。


「野沢さん、なんか『高原キャベツ』って入ってますよ、あのトラック」


「ああ、生もののトラックは毎回荷台を消毒しているから大丈夫だよ、でも玉ねぎはダメだ」

 玉ねぎは荷物ににおいがうつるからダメだそうです。

「新聞社のトラックは昼は時間がとれるそうだ…」


 野沢さん、砂漠にいてもトラック手配できるんじゃないかな…。

 ありとあらゆる“つて”を使ってトラックを確保してくる。

「なんとかして欲しいときになんとかする」

 プロでしたね。


「堀ちゃん、福岡どうしようか…」


 福岡にも10t車一台分の荷物がありました。

 とにかくいろいろと運ぶ先があります。


 東京というか、ここは筑波ですが、ここから一日、ようは翌日に配送できる範囲はどこまででしょうか…。


 正解は神戸より東までです。

 神戸は本当にギリギリですが、行ってもらってました。

 広島は翌々日配送になりましたね。


 なので福岡も翌々日です。


「福岡…、なんとかして…」

 営業さんにそういわれてもね。


 僕も野沢さんもいろいろと考えます。


 まだ配送まで一週間ほどあればこんな手が使えます。


「コンテナ2台、28日積み込みの1日着…」


 トラックではなくコンテナを使う方法です。

 JRコンテナです。

 ひとつのコンテナに500才入ります。

 10t車相当の荷物なら、コンテナ2つとればいけます。


 ただ、JRさん、旅客が優先ですので、事故とかあると日数がかかります。

 なのでトラックより不確実ですが、3日、余裕があれば4日前に出荷すればなんとかなります。


 とにかくチャンネルというか、いろいろと手段は持っていましたし使っていました。


 トラックがとれなくて売り上げ機会を逃した…とは営業に言われたくなかったので。


 さて…

 神戸行き、300台のベビーカー。

 トラックがとれなくてついに週末となりました。

 月曜日には荷積みしないといけないのに、まだ1台もトラックとれていません。


 土曜日、休日だけれど個人の携帯で運送会社に問い合わせをしていました。


 日曜日。


「トラックとれたかな…」

 同じく連絡をとっていました。


「とれないね…、申し訳ない…」

 野沢さんにも電話しました。

「とれねえよ、明日の当日に懸けるしかねえな。もしダメならセンター長から営業に謝ってもらおうぜ」


 嫌な気分の週末でしたね。


 月曜日、沈んだ気持ちで出社しました。

「営業にうだうだ言われるよな…」

 とれないものはとれないんだけれどね。


 朝一番で電話がきました。


 日曜に連絡した業者から、

「4t車、2台とれたよ!」

 続いて他の運送会社から野沢さんに、

「やっととれたよ!」

 さらにもう一社からも、

「ちょっと高いけれどさ…とれたよ!」


 みなさんがんばってくれました。


 かなり空きがでるけれど、4t車4台で運んでもらいます。

 こうゆうときに経費考えて1台断ったらダメです。

 これこそ日ごろのお付き合いです。


 いいんです。

 でもね、センター長の上司には報告しないと。

「やっととれました。今日のトラック…」

「ごくろうさん、よかったね!」

「でも1台多くとれちゃいまして…」

「いいんじゃないか…、とれないよりさ…」

 もちろんそうなんですけれどね。


「営業部長に俺が電話しておくよ…、ト〇ザラス分だよな。金曜日までとれなかったやつだよな…。急な依頼だったけれどトラックとったぞ! ってな」

「そうです、お願いします」


 センター長、内線で電話しています。

「ああ、みんなでやっととったぞ…」

「そうだよ、当日になってやっとだよ…」


「これで目標行くよな! 念のためあと1台4tとっておいたからな」


 センター長、それは言わなくていいことです。

 本当にさ、やっととれたんだから…。


「追加、いくか? 」

 笑顔で内線電話をするセンター長の席に僕と野沢さんが詰め寄ったのは言うまでもないことです。

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