第33話 役者が揃って


花恋かれん……」


「久しぶり、蓮司れんじ


 きまりが悪そうにそう言って、花恋かれんが笑った。





 突然訪れた再会。蓮司れんじは混乱した。

 どうして花恋かれんがここにいるのか。

 そんな蓮司れんじに苦笑し、花恋かれんが伏し目がちにつぶやいた。


「さっきまで大橋くんといたんだ。そして別れてしばらくして、ここに来て欲しいってメールが来たの。蓮司れんじと一緒だからって」


「そうなんだ……とにかく久しぶりだね。元気だったかい?」


「うん……」


 腕を搔きながら照れくさそうにうつむく花恋かれん。草むらで虫にやられたようだった。


「ま、まあ座りなよ、そんなところで立ってないで」


「ありがと。でもね、その前に」


 そう言うと花恋かれんは辺りを見回し、声を上げた。


れんちゃん、れんくん。あなたたちもいるんでしょ。出てきたら?」


「え?」


 再び蓮司れんじが困惑した表情を浮かべる。

 しばらくして、橋脚の陰から「えへへへっ、ばれてました?」とれんれんが現れた。


「やっぱ私ですね、いい勘してます」


「全く……こんなことだと思ったわよ。どうせ私の後をつけてきたんでしょ」


「おっしゃる通りです、はい……ごめんなさい」


「私のことだからね。その無鉄砲さ、予想は出来たわ。そしてれんくんはあなたの暴走に付き合わされた。違う?」


「いえ、全くもってその通りです」


「それと……ほら、涙拭きなさい」


 そう言って、花恋かれんがハンカチをれんの瞳に当てる。そしてその後で自分も涙を拭った。


「あははっ……分かりますか」


「当然。同じ赤澤花恋あかざわかれんなんだから」


「……大橋くんには本当、辛い思いをさせちゃいました」


「そうね……でも、本当にいい人だった」


「はい」


 そう言ってうなずき合う。


「二度も失恋させちゃった。しかもそれを、高校時代の私にまで見られちゃって。今度会ったらちゃんと謝らないとね」


「はいです……そんなつもりはなかったんですけど、でも悪いことをしちゃいました。その……蓮司れんじさんや花恋かれんさんにも」


「よね。でもまあ……れんくんと一緒だから許してあげる!」


 そう言った花恋かれんが、嬉しそうにれんを抱き締めた。


「あーっ! ちょっとちょっと花恋かれんさん、私のれんくんに何するんですか」


「だってー、高校時代のれんくんだよ? 私の幼馴染、れんくんなんだよ? こんなこと二度とないんだし、こうしないでどうするのよ」


「でもでも、駄目ですって花恋かれんさん、このれんくんは私のれんくんなんですから」


「ちょっとぐらい、いいじゃない。私だって今日は大変だったんだしさ。充電よ充電」


「だから駄目ですってば。どうしてもって言うんなら、隣に蓮司れんじさんがいるじゃないですか。そっちと仲良くして下さいよ」


「私はこっちのれんくんとハグしたいの。いいじゃない、どっちにしても私なんだし」


「だーかーらー。と言うかれんくん、鼻の下伸ばして喜ばないの。何よ、私の時はいっつもぎこちない癖に」


「いや、その……とんだとばっちりなんだけど」


「……れんくん、お互い大変だね」


「はい、本当に色々と」


 蓮司れんじの言葉にれんが苦笑する。


「はいはい、そっちも当人同士で勝手に盛り上がらないの。何よ、私一人のけ者みたいじゃない」


 そう言って花恋かれんれんから離れる。

 れんが赤面して息を吐くと、花恋かれんれんも顔を見合わせて笑った。


「さて……そういうことで、精霊ミウちゃんの思惑通り、当事者の4人が顔を突き合わせた訳なんだけど。これからどうする?」


 腕を組み、この場を仕切りだした花恋かれん

 この強引さ、やっぱ私だ。

 そう思いながら、れんが右手を上げた。


「場所、変えませんか」


「別にいいけど、どこかいい場所でもあるのかな。あ、でもね、私や蓮司れんじの家とかはなしだよ。こうして会うのも久しぶりなんだし」


 動揺を隠しきれず、早口でまくし立てる花恋かれん。相変わらず可愛いなと、蓮司れんじが笑顔を向ける。


「大丈夫、今の私たちに一番ふさわしい場所がありますから」





「……で、そのふさわしい場所と言うのが、ここな訳ね」


 れんが連れて来た場所。

 それは二人が初めてキスをした、あの神社だった。


「はい。ここ以上にないと思うんですけど、違いましたか?」


 そう言って意地悪な笑みを浮かべるれんの頭を、花恋かれんが軽く小突いた。


「はいはいそうですね、参りましたよ全く……蓮司れんじとまたここに来るなんて、思いもしなかったわよ」


 コンビニ袋から缶ジュースを取り出し、二人に渡す。

 蓮司れんじと自分にはビールを買っていた。


「はい蓮司れんじ


「ああ、ありがとう」


 相変わらず優しい笑顔だな。そんなことを思いながら、花恋かれんがビールを口にする。


れんちゃんはこの世界に、自分とれんくんが幸せになってる未来を夢見てやってきた。でも残念ながら、私たちは3年前に別れていて、それぞれ違う道を歩んでた」


 少し真面目な面持ちで花恋かれんが語り出すと、その場の空気が少し張りつめた気がした。


「そんな私たちを見て、あなたはどうにかしたいと思った。何よりれんちゃん、あなたの中で引っ掛かっていたのは、私たちが幸せそうにしてないことだった」


「はい。勿論、二人が仲良くしてることが一番でした。でもそれ以上に花恋かれんさん、そして蓮司れんじさんも、全然幸せそうじゃなかった。お互い幸せになる為に別れた筈なのに、二人共辛そうです。別れたばかりだったら、それも仕方ないと思います。でももう3年、3年ですよ? なのに二人共、全然幸せになってません。こんな未来、私には受け入れられません」


「それでもう一度、私たちを引っ付けよう、そう思った」


「お節介なのは分かってます。その上れんくんまで巻き込んで、この世界に呼んでしまいました。でもれんくん、言ってくれたんです。済んだことは仕方ない、それより今どうするべきか、一緒に考えようって」


「ぷっ……」


 れんの言葉に花恋かれんが思わず吹き出した。


「えー、花恋かれんさん、なんでそこで笑うんですかー」


「ごめんごめん、でも……ふふっ、ほんと、私ってば迷惑娘よね。ごめんねれんくん、こんな私に付き合わせちゃって」


「あ、いえ、その……大丈夫です」


「ちょっとれんくんまで、何だか酷くない? そこはフォローするところじゃないの?」


「あ、その……ごめん」


「あははははっ」


 二人のやり取りに、花恋かれんは手を叩いて笑った。


「ほんと楽しいわ、あなたたちを見ていると。と言うか、昔の私たちね。懐かしいなあ、ほんと……もしもミウちゃんに願いを言えるとしたら、きっと私はこう願うだろうな。『時間を10年戻してください』って」


花恋かれんさん?」


 笑顔で星空を見上げる花恋かれん。その横顔に、れんは寂しさが混じっていると感じた。


「普通に生きていたら、絶対に起こらなかったイベント。いいわ、こうなったら私も覚悟を決めます。あなたたちにとって満足のいく結果になるか、それは分からない。でも私はここに宣言します。れんくんとれんちゃんの為、今から嘘はつきません。あなたたちの疑問に、全て正直に答えます」


 そう言って蓮司れんじを見つめた。


蓮司れんじはどう?」


「ああ、分かった。僕も誓うよ」


 優しく微笑み、蓮司れんじもうなずいた。


「ありがとうございます、花恋かれんさん、蓮司れんじさん」


「じゃあ……始めましょうか。本音のぶつけ合いを」



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