「カモネギは本人の前で言うと角が立つかと」……「褒めても割引はしないわよ」……「どんな拷問だ」……「貧乏なのに王様」

「ケーシーは武具を探してるの? それを早く言ってよ! 武器のご用命なら、王都で一番ミリタル商会へ! ルミ! 馬車を二台用意して。店に早馬を飛ばして、カモがネギをしょって行くと伝えてちょうだい!」

「かしこまりました。あの、その、姫様、カモネギは本人の前で言うと角が立つかと……」

「カモでもカドでもいいけど、カネのためよ! とにかくすぐ!」

「は、はい」


 ルミがあわててすっ飛んで行く。


「ミリタル商会ってのは?」


 ケーシーが尋ねると、アリーテは胸を張って答える。


「ミリタル商会は、ロ=ミルアの上質な武具を一手に取り扱うお店よ。ティルト王国の王都リンブラ支店は海外一号店。私は、ここでエヴァン様との愛を育みながら、ミリタル商会の宣伝広報も担っているの」

「私も最近噂を聞いています」

「やだ、私とエヴァン様の愛はそんなに噂になってる?」

「いえ、ミリタル商会の方です。特に剣や斧、鎧などの鉄製品がいいとか」

「な、何よ、褒めても割引はしないわよ!」


 惚気のろけは照れないのに店を誉められると照れるんだね。


「ロ=ミルア王国は上質な鉄の産地として有名なの。まあ……少なくとも、これから有名にしようと思ってるのよ。それで、王家が出資して商会を設立したわけ」

「何せうちの王国の財政は火の車ですから……とにかく馬車のご用意ができました」


 ルミが戻って来てぼやくと、アリーテは顔をしかめた。


「ルミ、余計なこと言わないで」

「火の観覧車?」

「どんな拷問だ」

「火の車ってのは、つまり、貧乏ってことスね」

「えっ! 王様なのに貧乏なの!? 貧乏なのに王様なの!?」


 アリーテはバツの悪い顔でモゴモゴと言い訳した。


「まあね。前王が無能だったおかげで国内の経済は疲弊しているし、今、私の父が即位して立て直しをしているところ」

「王様なのに貧乏……」

「ジャックはショックを受けたようだな」

「王様はお金持ち、と心の底から信じてたんスね」

「だいたい、前王だった大伯父様が観覧車作ったり、必要ないものわんさか買ったり、無駄づかいし過ぎだったのよ」

「無駄づかい……?」

「いかん。単語に反応した」

「無駄づかい……そうだよね!? やっぱ無駄づかいは悪だよね!」

「ヤバイ」

「え、あ、まあ……そりゃ無駄づかいはよくないわね……」

「あんたわかってる! わかってるよ! 仲良くできそう!」

「え? ええ……?」

「さすがの姫さんも若干ヒいてる」

「これはジャック様に主導権イニシアチブがありますね」

「行こう! アリーテの勧めるミリタル商会とやらへ! さあ、皆!」

「盛り上がっちゃったッスね」

「まあミリタル商会へ行く理由は、俺が無駄づかいするためなんだけどな」

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