【3-2】 お友達になっていい?




 数日が過ぎて、あたしもクラス内の人間関係構図が徐々に見えてきた。


 この年頃は、往々にして女子の方が男子よりも強い。女子の方が成長が早いから、そのクラスで一番権力というか発言権を持つのが女子だなんてことも珍しいことじゃない。


 先日、結花ちゃんにチョークを持ってくるように命令した女子グループと、休み時間ともなれば外に出てサッカーに飛び出していく男子グループがそれぞれのトップにいる。


 次に多数派なのが、それぞれの塾や家が近い、ずっとクラスが一緒だったなどの「何となく」グループ。それが複数あって、お互いに何となく繋がっているようなそうでないような。数はいるけど、だからといって何かの力になっているわけではない、いわゆる浮動組。


 そして、驚いたことに結花ちゃんはそのどれにも属していないことだった。


 他にも数人いる一匹狼派。こう書けばかっこいいけれど、彼女の場合は違った。


 あたしと同じように昨年の転校生で、性格は非常におとなしい。同時に誰かに転嫁したり相談して協力を求めることが苦手……というより、自分で抱え込んでしまう。


 あっという間に便利屋扱いになってしまい、クラス委員も立候補ではなく、押しつけられてしまったというのが数日間で見えてきた実情のようだった。


「いいんだよ。最後に私がOKしたんだし」


「でも……」


「千佳ちゃん、ありがとうね。優しいんだね」


 放課後、宿題で提出した授業のノートを職員室に一人で運んでいく結花ちゃん。


 教室から出るときもドアを自分で開けて出て行く。誰も手伝おうという気はないのか。


「結花ちゃん待って!」


 慌てて追いかけ、途中から半分ずつに分けて一緒に職員室へ持って行った。


「千佳ちゃん……、私と一緒にいると目を付けられちゃうし、お友達も出来なくなっちゃうよ?」


 職員室からの帰り。教室のある4階まで階段をゆっくりと登りながら、彼女は伏せ目がちに忠告してくれた。


 ちがう、それは結花ちゃんの本心じゃない。これまでの経験から、自分に近寄らない方がいいと言ってくれているのだろう。


「結花ちゃん、あたしが結花ちゃんの友達になってもいい?」


「えっ?」


 彼女の手を持って、階段の踊り場に立ち止まる。


「で、でも。きっと大変だよ……?」


「あたし、小学校では一人だって覚悟してた。結花ちゃんが嫌ならやめておくけど」


「ううん、ありがとう……」


 教室ではあんなに何を言われても顔色ひとつ変えなかった結花ちゃんが、ポロポロと涙を流したんだ。


 そうだったんだよね。一人でいつも我慢していたんだよ。


「結花ちゃん、一緒に帰ろうよ」


「……うん」


 この日、一緒に手をつないで帰った時から、なにを言われても彼女と二人三脚で歩いていこうと思った。


 小学生のうちはあくまで入り口。中学、高校と進んでいっても交友関係が続くのが本物の友達だといえると思っている。


 結花ちゃんとはずっと友達……。いや、それ以上の関係になれそうだって思ったそのときの直感はあとで正しいことが証明されている。


 あの日の夕焼けは今でもあたしは忘れていない……。


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