第43話 やはり里を……

 アンジェリークのエルフの森への挑戦はたかしの登場によりぐだぐだに終わりました。ただ、あれで全てだそうなのでぐだらなくても結局は終わりでしたが。あんな仕掛けでよく不可侵を守りつづけてきたなとアンジェリークは疑問に思いましたが、幻影程度で終わらせるのは帝国と友好関係を結べているからで、不仲であった時代は軍隊相手でも戦えるような仕掛けを用意していたのだとたかしが答えました。


「昔の方が良かった?」

「いえ、人間には思いつかない面白い仕掛けを楽しみにしていたんです。殴り合いなら人間同士でできますし」

「スラムに人を斬りに行ってた子とは思えないほどに落ち着いたね」


 落ち着いたと言われアンジェリークは首を捻りました。捻りつつも思い返せばそういえばよく人を斬っていたなと思いました。ローザの治癒術を鍛えるという目的がありましたが、アンジェリークも自身の剣術を試せるからと喜んで斬っていました。前世では剣術を学んでも実際に人を斬るわけにもいかず、本当に実戦で使えるのかどうかと悶々とした日々を過ごしていたので今世ではその反動が思い切り出たのです。実際に人を斬って自身の剣術に自信を付け、騎士団で副団長のような本当に強い騎士と試合をするうちに無闇に剣を振るうことが無意味に思えてきたのです。理由があれば遠慮なく斬りますが。


 エルフ達の前にたかしが姿を現した以上、連れてきた仲間達にもたかしの事を紹介することになりました。事前に知っていたローザは特に反応せず、ミコト、マリアンネは驚く素振りをし、他は全員驚愕していました。特にアレクサンドラの驚きは激しいものでした。


「なんでローザが知っていて私が知らないんだ! 家族だぞ!?」

「安心してください、御兄様も多分知りません」

「何が安心できるんだよ!」


 激しくブチギレましたが軽々に妖精のことを晒すわけにはいかないということでなんとか納得しました。

 妖精という伝説の存在を初めて目の当たりにした者達はどう接するべきか困っていました。アンジェリークやローザが普通に接していますが二人に関しては常識が通用しないというのが仲間達の共通認識です。ローザが知ったらマジギレする認識でしょう。ただの伝説ならともかく、エルフの間で特別な存在として扱われているという事で他国の王族として扱うのか貴族扱いが妥当なのか判断が付かなかったのです。


「まあ、妖精と言ったところで所詮は賊に捕まるような存在ですからあんまり考えすぎなくて良いですよ」

「その通りなんだけど腹が立つなその言い方」


 エルフのように崇められるよりもアンジェリークのように気軽にしてくれた方が良いとたかしが望んだので皆できる限り気楽に接するということになりました。


「ところでなんでエルフに崇められているんですか?」

「本人達に聞いて」


 翌日、早速エルフの森に向かおうとするアンジェリークにアポイトメントを取れとアレクサンドラが説教をしていると、護衛を二人引き連れた好々爺といった風体のエルフが宿に現れました。エルフが見慣れない礼をすると皇子が帝国式で返礼をします。


「エルフの里の長衆の一人、エフゲニーでございます。お迎えに上がりました」

「聖カロリング帝国皇太子のルーファス・カロリングです。お出迎えありがとうございます」


 今回の場合はアンジェリークが主客で他はその付き添いなのですが、皇子が地位が上なので皇子が代表で受けたのです。


「長衆ってなに?」

「簡単に言えば国会議員」

「へぇ……」


 ミコトがマリアンネにこっそりと聞いていました。もう少し詳しく言えばエルフは各集落の長による合議制で動いており、その長の一人がエフゲニーになります。


「まさか昨日の今日で迎えに来るなんて。妖精が目的ですか」


 明け透けに問いかけたアンジェリークの頭をアレクサンドラが平手で叩きました。それを見ていたローザは肩の荷が下りたとばかりに優雅にお茶を飲み、今の状況での堂々としたその態度を見たリヒャルトとオリバーはコイツ本当に平民かとドン引きしていました。

 エフゲニーは愉快そうに笑って答えます。


「全くないとは申しませんが、孫娘を助けて頂いたことに礼を述べたいというのが理由ですな」


 エフゲニーは深々と頭を下げます。


「ニーナを助けて頂き大変ありがとうございます」

「気にしなくて大丈夫ですよ。気持ちよく貴族をぶん殴るついででしたから」


 アンジェリークの頭をアレクサンドラが再度叩きました。平手ではなく拳なあたり本気で怒っています。


「あれは我が国の落ち度です。こちらこそお孫さんを危険な目に遭わせてしまい大変申し訳ありませんでした」

「我々は帝国に責任があるとは思っておりません。どれだけ善政をしいても悪を完全に摘むことなどできませんからな」


 大国の皇太子とは思えぬほどに皇子は低い腰で謝り、エフゲニーはそれを笑みで受け入れました。帝国はエルフとの関係を重視しており次世代でもそれは変わらない、それを皇子は示したのです。それを受けてエフゲニーは友好を受け入れました。その辺りの政治的な内容をしっかり理解しているのは貴族組で、商人ですが根本が技術者であるミコトはなんか友好関係を確かめたんだなとギリギリ理解し、ローザは皇子も敬語が喋れるんだと感心していました。


「たかしを呼びましょうか?」

「……精霊様ですかな? 精霊様を呼び出すなどとてもとても……我々に用件があるのであればお顔を見せて頂けるでしょう」


 恐縮するようにエフゲニーは顔を振ります。その様子は本当に妖精のことを信奉しているように見えます。


「なんで妖精を信仰しているんですか?」

「そうですな……今の世界の土台を作ったのは七柱の神々であることは皆様も御存じかとおもいます」


 その場の全員が頷きます。特にローザはエルフから語られる神話に興味を持ったようでエフゲニーの方を見て姿勢を正し、真剣な表情をしています。


「神々の作った世界は大変良くできていますが、完璧ではありません。所々にゆがみができます。ゆがみはいずれ大きくなり、最終的には世界が許容しきれない矛盾が発生し、世界が崩れると言われております。そのゆがみを修正しているのが精霊様なのです」

「……バグの修正作業?」


 誰にも聞こえないような声でマリアンネが呟きました。妖精というのはゲームでもアイテムという形で出てきましたが、それ以外でもホームページや説明書、SNSなどでスタッフのアバターとして使用されていたのを思い出したのです。


「実際のところどうなの?」

「彼の言う通りだよ」


 アンジェリークの肩の上にたかしが姿を現して答えました。するとエフゲニーと護衛が拝むように手を合わせました。たかしは「だからエルフの前に出たくないんだよなぁ」と面倒くさそうに溜息をつきました。


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配信しながら執筆してます。生配信に来ていただけでは質問等に答えます。



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