ボッチとの覗きタイム
「また面倒な偶然が起きたものだな……」
この辺りでの告白場面は今までにも何度か遭遇したことがあるのは確かだが。
まさかこうも立て続けに当事者が俺のとも……いや、知り合いになるとはな。
まあ河南が告白されるのはもうそういう宿命だと言えるだろう。
俺のクラスではマドンナと揶揄されるくらいなんだから当然他クラスの男子にもモテてモテてしょうがないだろう。
学年の垣根を飛び越えて彼女へ告白しに来る男子生徒も少なく無いようだしな。
男の声を聞いてみたところうちにある音質じゃ無いから、他クラスか他学年か。
まあぶっちゃけると他人の色恋沙汰にはつゆ程も興味が無いからな。
良くメディアでもどこどこの芸能人が結婚だの不倫だの心底どうでも良い情報を見て、良くも盛り上げられるものだなとクラスに居るときに思ったりするものだ。
まあラノベやアニオタには主人公とのヒロインレースの結末で議論を白熱させたやり取りを見たから分からなくもないが、やはり現実との区別はできてるから違うな。
「……さて2個目のツナマヨ食うか」
そう意識を目の前のおにぎりに向けてガブリとかぶりつく。
やっぱうめえ。
まあ先週のは相手が藤村だったこそ興味を抱いたが、本来こういったプライベートごとは他人に見られて嬉しいものじゃないだろうから引っ込んでおくか。
俺が他人の色恋を追いかけるのはきっとこれからも先は2次元で完結する趣味になると思うし、いくら偶然の産物でも相手にとって不快に違いないだろうからな。
俺は今日も呑気に絶景を独り占めしながら優雅なランチタイムを過ごしていた。
そういうシナリオに固定しておこう。
「……どうしてなんだ?青春といえば恋愛だろ?」
「うーん、確かにそうかもしれないね」
「じゃあ実は好きな人でも居るのか?」
「ぁ……うん、居るよ」
聳え立つ山々に意識を向けてても勝手に2人の会話が耳に入って来てしまう。
まあ俺に盗み聞きを罪悪に思う純粋な良心はとっくの昔に廃れて砂のように消えてしまったので、ただ何となく会話を分析してしまうのだが。
河南がヤツの質問に対して『実は好きな人が居ます』って答えたのも何とも思わないしな。相手の男を諦めさせるための有効手段とさえ褒められるしな。
半年前までの俺が聞けば俺に話しかける頻度が増えた気がするし『実は俺のことかな?』なんて変にソワソワしながら血圧も上昇させていたかも知れないが。
そうやって勝手に期待して勝手に失望するサイクルにはもう飽きたからな。そもそも最初から他人へ期待することを辞めれば幻滅することも無くなるってものだ。
「……捨てるか」
おにぎり4つとも食べ終えたので角を曲がったゴミ箱へと捨てに行こうか。そして雑音をBGMにしながらもネット小説の続きを読もうか──と思ったところで、
「ひゃっ!?」
「っ……」
そこを曲がろうとしたところで人影とぶつかってしまった。
不幸中の幸いかお互いに軽く腕をぶつけるだけで済んだので、ラッキースケベが起きて俺が引っ叩かれたり、告白場面の2人に気づかれることは無かったが。
──よりにもよってこんな人とぶつかるとはな。
「一体誰なのよこんなところで……って、あっ、荒牧くん!?」
「っ……上岡か……ども」
「あっきーったら先走っちゃうから。ニシシシ……アタシも居るよ〜」
「前田もか……」
角の奥から現れたのは河南と仲が良い上岡と前田の2人だった。
こんな人気ない場所へ何しに来たんだ物好きな奴らだな、と普段なら思うところだったが声を若干抑えめに話してる時点で既にお察しの通りだな。
「どしたん荒牧くんこんなところで……あ、なるほど〜荒牧くんもアリサの告白現場を見に来たと?えへへへ、イケない子だね〜」
イケナイのはお前のその体とそのスタイルを浮き彫りにするような私服だろうが!
「いや、そんなんじゃないし……」
「アハハっミユったら荒牧くん困ってるでしょ?ごめんね……ミユったら人にちょっかい出すの好きでさ。荒牧くんは偶然ここに居合わせたようなものだもんね?」
とはいえ唐突な美女2人との会話イベント発生で戸惑ってしまう。
2人とも可愛さを引き立たせながら大人の女性の魅力も漂わせてる印象だし。
前田に関しては童貞をぶっ殺す気満々かのような私服姿で目のやり場に困るし。
でも意外とクラスの陰キャの通り名がある俺に対しても、冷めた目で見下ろしてキモがったりせずに真面に話したり受け答えもしてくれるもんなんだな。
白い歯をにかっと見せて笑う2人もやはり可愛くてまさに姫達のようにも見える。
「それはともかく、ミユ、ほらこっちおいで。ここならばっちり様子見られるから」
「ナイスあっきー!……あ、折角だし荒牧くんも見ていきなよ」
「へ?……いや、俺は……」
何で前田がこんな陰キャな童貞と近距離を保つような提案をしてくれるのかと混乱してると、前田の後ろに居た上岡が俺の二の腕を掴んでグッと引き寄せたんだが!?
「荒牧くんシーっ!動いたらバレるし声聞きたいから大人しくしててっ」
「いや、あのな……」
「良いから。とりあえず隣に居るだけで良いからっ」
なぜか上岡に二の腕をガッチリホールドされながら彼女の真横を並び立たされる。
これおもっくそスキンシップしてるし良い匂いもするから少しパニックなんだが。
そう思ってる間にも前田がひょっこり右隣に来て美女美女サンドイッチ状態に。
「あはは、ごめんね荒牧くん。あっきーったらこういうのが趣味だからさ。……まあぶっちゃけアタシも気になってたってのが本音だけど」
ドキドキしてるのがバレないように無難に返事するか。
「前田もか?」
「うん、だってアリサと仲良いからさ」
そう言うものなのだろうか。
まあ仮に河南に恋人ができたらこれから一緒に遊べる頻度が減ったりするもんな。
人間が使える時間は誰しも平等だから当然その手から溢れそうになってる荷物があれば例え望まずとも、もう抱え切れなくなったそれは溢れ落ちていくからな。
「そっかぁ……でも俺は河南を幸せにしてやれる自信があるんだ。きっとその男よりも河南のことを幸せにしてくれるから、先ずはお試しだけでも!」
「いや、それは本気で勘弁して欲しいんだけど……」
もはや不可能だと突きつけられても随分と粘るんだな、相手の男は。
素直に大した胆力だと思うが、もうすでに河南に振られてるし……例え相手に好きな人が居ようと居なかろうと相手を不用意に困らせても不利になると思うぞ。
──ていうか良くも俺こんな美女達に挟まれながら呑気に人間観察やれてるな。
自分でも驚いてるが、こうして2人と関わってても謎の嫌悪感が募らない。
普段の俺なら即行で敬遠するのに不思議と彼女達を受け入れてる自分がいる。
何というか、喋っていても俺を忌避してる感じが一切感じられないのだ。
「ふ〜ん、今回の男子かなり粘ってるじゃん。今までなら『好きな人が居ます』って言われただけで諦めてくれたのに、流石のアサリも手間取ってるっぽい」
確かに興味深いな。
それじゃあ興味本位でちょっと探りを入れてみるか。
「河南ってモテモテなんだな」
「そりゃあもうモテまくりよ!2年生に入ってからも株は上がる一方だし、たぶんウチのクラスで告ってないのほぼ居ないレベル、だったよね?」
「もう告ってないの荒牧くんだけでしょ、あっきー」
「らしいよ〜?」
「いや俺に聞かれてもな……」
あと肘でお腹突っつくの辞めろよ俺まだこういうのに慣れてないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます