ボッチの昼休みでの一幕 その2



 翌日になってまたとしても昼休みを迎えた。


 今日も朝8時半からの眠たい授業の数々を乗り越えられてクラスの皆も安堵の表情を浮かべた。


 友達と一緒に購買や学食へ行くか、一緒に食べるメンバーで固まって机を寄せ合う人たちで別れる。


 だがボッチには当然そんな相手が居ないから今日もいつもの絶景スポットへと足を運びに行くのだ。


 その前に勧誘できないかと思ってると意識が河南の方に向かったようだ。


「アサリ〜、一緒にご飯食べよっ」


 確かあの子は上岡明子うえおかあきこで河南と最も仲が良い女子の1人だな。仲が良い子たちからはと呼ばれたりしている。


 噂によればダンス部2年女子の中でも最も上手いコンビの片割れでもあり、藤村や河南に一歩劣るが個人的にも物凄く美人で清楚な女優ってイメージがしっくり来る。


 で全身がスラリとしてるから華奢な美人ギャルがパッとした印象だ。うちの私服制をフル活用しているもお洒落な服装で登校してるのだ。


「アタシも一緒に食べるっ!」


 同じく河南と最も仲が良い女子の1人である前田美祐だ。名前を呼ぶときに最後の「う」を省略したと呼ばれることもしばしば。


 ただ邪魔だからという理由で桃のようなを後ろにポニーテールで括ってるのが印象的で、華奢なモデルのようだが上岡のCカップとは違って、低身長故にその存在感を放つDカップがかなり凶悪だ。


 そのカラッとした性格から真っ直ぐに意見を言うことも多い。ダンス部2年女子で最も上手いコンビのもう片割れでもあり、ダンス部の部長を務めてるのだ。


 うむ改めて俺のクラスの女子レベル高い奴らが多いな。


 いやまあそれはこの学校全体の女子生徒にも言えることなんだが。


 ともかくも、2人はそう声をかけると河南の机に集まる。


 普段はあの3人だったり、他の女子と大きな輪を作って昼休みを過ごすのだが、


「あ〜ごめんね。私はひとまず購買に寄るから皆で先に食べてて」


 珍しいな、河南があんな風に話の中から1人外れるように行動するなんて。


「あれ?でもアサリ今日もママの手作り弁当だよね?まだ何か食べるの?」


「あっきー何言ってるのさ、アサリも成長期なんだからむしろもっと食べるべきよ」


「いやいや改めて一日に4食も食べられるような食生活を平気で送れるJKなんてミユだけでしょ。並みの女子にはそんな習慣怖くて手が出せないっつのー」


「あはは、別に飲み物とか買うだけなんだけどね」


「おっし、じゃあアタシも──」


「あー、ごめんね。今日は1人で行かせて」


 共にジュースを買いに行く気満々の前田の誘いをなぜか遮る形で拒否する河南。


 学校では特にこの3人は普段からベッタリだから何だか珍しい光景だな。ヴェットリとまでは表現しないが3人が一緒でセットの認識が浸透してるからな。


 河南は別にダンス部でもなく帰宅部だからどちらかといえば前田と上岡がくっつき虫な側面もあるんだが、祝日でもよく3人で遊んでたりするらしいからな。


 まあ俺にはあまり関係が無いし、ちゃっちゃと絶景スポットへ移動しますか。


「──オッケー、了解っ。でも早く帰ってきたほうがいいよ?じゃないとここのたかがアサリのご飯にちょっかい出しちゃうから」


「誰が鷹だコラアァァッ!!」


「あっはは、まあちょっとくらいなら許してあげる。それじゃあ行ってきますっ!」


 皆に手を振る形で河南が教室を出ようとしたところで、俺と鉢合わせたようだ。


「…………んっ」


「……ん?」


 目線だけを寄越してきたかと思うと少しだけ残念そうな顔をして俺を追い越して行ったんだが、一体何事だろうか。


 彼女の半径3メートル以内へと足を踏み入れさえすればいつも「ラップ!」って呼んでくるものが、今回の対応はいつもの河南と違ってて意外に思えたな。


 終始スマホの画面と睨めっこしてたのもそうだが、詮索をするのは野暮だろう。


 まあ急ぎの用事でもあるだろうから、部活勧誘はまた今度にするか。


 先ずは食堂の前の自動販売機へ向かって100円玉も装填する。


 お小遣いは毎週の月曜日に4000円も渡してくれるから有難く使おう。


 これは親が残業で遅く帰ってきても先に夜ご飯を済ませられるための配慮だ。まあ1週間分のお小遣いと言う認識だからこうしてジュースを買うことも出来るのだが。


 とはいえ俺も高校生になって料理も家事も一通りは出来る様になったものだから、ほとんどが書籍の購入やらお菓子だったりと、こうしたプチ贅沢に消えたりする。


「ふ……よし」


 当然買ったのは日々の摂取が習慣になってるバナナ&ミルクジュースだ。


 こればかりは冷えた状態の新鮮な味で堪能するに限るからな。


 今日みたいに日光が気持ち良い日には効果抜群、もはや魔力の装填と言えよう。


 授業やら何やらで消耗したMPの全回復は学生の命だからな。


 よし、行くか。


 絶景スポットへ向かいながら改めてこのルーティンの馴れ初めを振り返る。


 俺がこうして人気のない場所に向かうのは教室に居残るのが不快だからだ。


 半分以上がただの被害妄想だと自覚していても、皆が一緒に過ごしてる中で1人だけポツンと1人で過ごしてると、見下されたような視線を感じてしまうからだ。


 外食する時は周囲の人間が俺の人生と何の関わりもない人たちだから全く意に返さないのだが、同じコミュニティの人間と来たら可哀想な奴認定されそうな気がする。


 まあ真に悟りを開いたボッチなら周囲からの評価を本当の意味でどうでも良いと思えるから堂々と1人教室で飯食えるだろうが、生憎と俺はまだそこまで至ってない。


 よし到着。さてさて本日のお楽しみも存分に噛み締めていこうか。


「やっと食えるぞ……ツナマヨにシーチキンおにぎりゼットがっ!」


 コンビニに寄れば先ずはおにぎりコーナーへ寄るほどに好きだからなぁ。


 とは言っても小学校の給食の如くパンとご飯の日とで分けてたりするんだが。


「美味い……」


 やはりマヨネーズをかけた具とおにぎりの相性も格別だな!


 コンビニおにぎりのこの特徴的な食べ応えも個人的に凄くお気に入りだ。


 この食感と味には惹きつけられる何かしらの魅力があるのだ。


 そして空も快晴で奥に佇む山々が綺麗に見えるから、絶景かな絶景かなっ!


「……す!……僕と……って下さいっ!」


 景色を堪能してるとまた奥の方で男子生徒の緊迫した声が聞こえてきた。


 おいおいまたかよ。ありゃ絶対告白だろ。


 まあ場所が場所だし藤村の件と同様に告白スポットに適してるのは分かるが。


 だからって月に何回もこうして誰かが誰かに思いを告げてたりするのか?


「ほんっと……みんなリア充してんなぁ……」


 そんな青春を切り取ったかのような場面を鼻で笑いながらジュースを飲む。


 今日も今日とてバナナ&ミルクジュースだ。


 俺の大好物だからな。この冷たくて味の濃い果物ジュースは至高だ。


 告白の成功も失敗も興味はないが、盗み聞きがバレるのは忍びないからな。


 もう先週ので胸一杯だから積極的に覗こうと言う気概も起きないし、大人しくベンチの背にもたれて足を組みながら優雅に食事タイムと洒落込もうじゃないか。


「ゴクゴク、ぷはっ」


 今度2つ目のシーチキンおにぎりの袋も開封したところで、


「あ〜……っと……、ごめんなさいっ!」


 と、教室で良く聞き取るような女子生徒のハキハキした声が聞こえて来た。


「今のところ恋人を作る気が無いのでお断りします」


 まあどうせそうだろうなとは思っていたが、告白されていたのは河南だった。

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