ボッチは自己紹介する



「私は河南杏里沙です!アリサってあだ名で呼んでくれる人もいるから、初めましての人も遠慮なくどっちかで呼んでくれると嬉しい!改めて皆とも仲良くなりたいので、授業が終わったら是非私と連絡先交換してね!」


 大抵の生徒が一言で終える中、言葉を続けていく河南。


 表面の言葉だけじゃない。


 この子とは間違いなく打ち解けられると、そう感じさせられてしまう。


 実際にクラス全員に話しかけるなりして有言実行してるのが凄いところだ。


 クラスのほぼ全員のメッセージ兼通話アプリの垢を網羅してる程だからな。


「授業の一環でもこの英語の時間を楽しくしていきたいのでよろしくね!一緒に学校生活を楽しくしていきましょう!これで自己紹介を終わりますっ!」


 流石うちのクラスの天使様だと言ったところか。


 まあ今は4組と合同だしもう大半の男子がその派手な外見や、明るい性格にメロメロになってるだろうことはわざわざ周りを見なくとも分かる。


 まあ恐らく皆の連絡先を集めてこのあと英語特進クラス用のグループチャットを作るつもりなんだろう。まさにクラスの中心の人間がやる事だな。


 次に手を挙げたのは白銀のグループに入ってた男だ。


 噂ではとにもかく女の子を取っ替え引っ替えしている正真正銘のヤリチンクソ野郎で、特に可愛い女子が集まってるうちの花園高校は楽園だと喜んでいた。


 2年生になった今先輩後輩も区別せずにアタックしまくってるようだ。


「俺の名は栗原雄也くりはらゆうや。好きなものは女の子だ。俺以外のイケメンは禿げろ。ブレイクダンス部に入ってるけど遊び優先だから、彼女募集中ーっす。クラスの可愛い女性諸君よ、勉強が辛くなったらいつでも優しく教えてあげるから、いつでも俺の胸に抱きついてきても良いんだぜ?歓迎するからよろしく〜っ!」


 思わず顔を顰めてしまったので、窓へと顔を逸らしてしまう。


 そう言うと大胆に笑いながら座っていく栗原で、当然そんな性欲丸出しの自己紹介に女子たちも顔を顰めたが、俺は真実を知っている。


 いくら外向きでは取り繕っていても、女がヤリチンに惹かれていることに。


 ──女の子を姫扱いすればモテるなんて、メディアに刷り込まれた嘘の価値観だ。


 俺はボッチだから教室で静かに過ごしてると勝手に情報収集ができてしまう。


 栗原は固定のグループ以外にもカーストが低いが自分の女遊びに興味を持ってくれている男子たちともたまに話すから、その会話がたまに聞こえてくるのだ。


 俺が今まで聞いてきたそんな会話のほんの一部を紹介しよう。



 ※



「それでさー、陸上部のユミコの奴がどうしてもって言うからカラオケ行ったんよ」


「おーマジかー!でどうだったんだよ?どうせ歌っただけじゃないだろ?」


「当然っしょ。さすが運動部だわ、キッツキツだったせいですぐイっちゃったわ〜」


 しかも意識を少し割いてみた結果、避妊具無しでその子にピルを飲ませたらしい。


 理由が単純で「その方が気持ち良いぞ?ゴム装着なんてめんどーだろ一々やってられっかよ〜」という清々しい程にクズ男っぽい言い訳だった。


 まあ、もう俺に悪影響は無いから今では「良かったな」くらいとしか思ってない。


「ちょっと待てよ?栗原、おまえダンス部の先輩のミキコさんって人と付き合ってたんじゃないの?」


「いやいやこの前別れたって聞いてたぞ?今は確かその親友のマナカさんだろ?」


「いやどっちとも付き合ってねーよ。あの程度の女にガチになるわけないから」


「え?それは流石に違うんじゃねーの?だって両方ともおっぱいも顔も偏差値が高いぞ?この前『流石レゲエのダンサーだぜ、腰の振り方やらし過ぎて燃えたわ』って言ってたじゃん?」


「俺も認めるよ、外見はな。けどカップルには釣り合いってものがあるじゃん?この俺との。こっちは毎日学校中からの女から連絡が入ってきて忙しいのにさ、たかが2、3回だけヤッただけでもう彼氏認定とかマジで重過ぎて無理だわー」



 ※



 前言撤回。やっぱりで滅多刺しにされて蜂の巣の如く逝った方が良いかも。


 こんな風にな……。


 携帯を開くと、『メッセージが一件届いています。』の通知が。


 名前:ミキコ

 件名:


 ごめんなさい」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 サヨナランランル〜♪


 と疑心暗鬼に思って後ろを振り向くと同時に、狂気な笑みを浮かべた女の子が立っていた!と気がついた時には人生終わってたを経験した方が良いと思うぞ?


 いくら女が世の敵であったとしても、やはりこういう輩が世に跋扈してることが原因が俺の敵を、俺の敵たらしめてる原因の一部だと思うからな。


 うむうむ我ながらなかなかの良いアイデアだと思う。


「……それじゃあ、次の人──荒牧くん、お願いできるかな?」


「お、俺?」


 完全にやらかした……!


 ついつい馬鹿な妄想に耽ってる間に俺の番が来てしまった。


 今クラスの全員が俺に注目しており、特に初めましての人が俺の自己紹介を楽しみに待ってる。


 そんな期待した目で俺を見つめないでくれよ余計に緊張するだろ。


 だが俺は男だ。


 ここは一発だけお笑いのネタをぶち込んでやるぜ!


 ガタッと姿勢をピンと張った状態で立ち上がって口を開いた。


「えー……えっと……ぁ……」


 アホか何を緊張してんだよこの俺が!?


 そのせいでセリフで飛んだんだがどうすんだよ俺。そうだ先ずは名を名乗るんだ。


 それから、それから……一発芸に手からオナラの音を再現しようか?


 ブーっ、プーっ、プッって鳴らせば……いや滑ったら俺死ねる自信あるぞ。


「……名前は、荒牧ラファエロです……んー……」


 つーかそれただのヤバいやつじゃんそんなことすれば失笑される。


 というより勢いよく立った割には錆びたロボットみたいになってて既におかしいだろ、低電力なくせに最後の足掻きで直立した故障してる機械みたいだ。


 もうこうなったら、なんでも言っちまえ!ええい、ままよ!


「青色が好きなので良く空を眺めたりします。色んな形の白いデザインが見てて面白いので、通学中なんかはしょっちゅう見てます。改めてよろしくお願いします」


 なんとか言えた……!


 もう適当に独り言吐いただけのようだったから、俺が何を言ったのか記憶に無い。


 けど……あれ、教室がちょっとシーンってしてるぞ。これは不味い。


 さっと着席をしたと同時に悟ってしまった。


 ──失敗した!


 あ……これは帰宅したらベッドの上で叫び散らかすヤツだな──。


「ってラップくんそれ雲のことじゃん!アハハハ〜」


「「……ぷっ」」


「「「アッハッハッハッハ〜」」」


 何だこれは!?クラスの女性陣も笑ってるようだぞ。


 盛大に滑ったかと思えば河南のツッコミで場の空気が一転したんだが。


 これは……もしかして俺はフォローされたのだろうか。


 パチパチパチ、と俺に向けられる拍手が妙に心地良い気がするぞ。


 これはまた今度話す機会を作った時に、河南にお礼をしないとな。


 幸いながらも、彼女の突っ込みのおかげで変に目立たずに済んだようだ。

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