第5話
「ん……? もう朝か」
ダンジョンマスターとなってダンジョンアイランドにやって来た記念ということで、真っ昼間から一人で酒を飲んだ挙句に酔い潰れた熊翔は、目を覚ますと手元にあった携帯端末を見て今の時間と日付を確認する。
「朝の九時か。確か昼の三時くらいまで飲んでいたから……『六十六時間』も寝れたのは久しぶりだな……」
携帯端末の時計が示している日付は、熊翔がダンジョンアイランドに来た日の翌日ではなく「三日後」の日付であった。熊翔には一日以上眠り続けられるという、まるで熊の冬眠のような役に立ちそうにない特技があり、現在の最高睡眠時間は七十時間と十四分だったりする。
「ふああ……! さて、これからどうするか……」
流石に六十六時間も寝ればすぐに二度寝をしようとは思わないようで、熊翔は大きな欠伸を一つすると今から何をしようかのんびりと考える。
ちなみに外に出ようという考えは最初から熊翔の頭の中にはない。買い物だったら転移魔術を使ったデリバリーサービスを使えば一瞬だし、暇つぶしの娯楽は携帯端末を使えば大体何とかなるからだ。
結局熊翔はソファとクッションの上に寝転がって、携帯端末でアニメか漫画でも見ることにした。携帯端末を操作して何か面白い動画はないかと探していると、ダンジョンマスターの一人が自分のダンジョンの一部を紹介している動画を発見する。
「ダンジョンの中が見れる動画か……。こんなの外ではまず見られないな」
この動画のダンジョンマスターのように、自分のダンジョンの様子をネットに公開して自慢をするダンジョンマスターは少なくない。
しかしダンジョン内部の情報は例え一部だけだとしてもこのダンジョンアイランド、いいや、似本国の重要機密である。そのため公開を許可できるダンジョンの情報はほんの一部だけで、公開するのもダンジョンアイランド内専用のインターネットの中だけだと限定されている。
だがそれでもダンジョンの中の様子を見たいという者はいて、毎年大勢来るダンジョンアイランドの観光客の目的には、ダンジョンアイランド内専用のインターネットでダンジョン紹介動画を見ることが含まれていた。
今見ている動画だけでなく、それ以外のダンジョン内部を紹介する動画も閲覧数がとても多く、それらを興味深そうに見ていた熊翔の脳裏にある光景が浮かび上がった。
何処までも続く一切の光がない通路。そしてその先の部屋にあった青銅の全身鎧。
ただの夢にしては今もはっきりと思い出せる光景。恐らくあれは自分のダンジョンの内部と、そこに封印されているアーティファクトなのだろう。
そう考えるとどうしても気になってしまい、熊翔は面倒臭そうな顔をしながらも立ち上がる。
「まあ、一回くらいはダンジョンの中を見てもいいか。……こうすればいいのか?」
熊翔の頭の中には一体化したダンジョンコアからダンジョンに関する知識が送られてきており、その知識に従って右手を前に差し出して念じると、その先の空中に魔方陣、ダンジョンに転移するためのゲートが出現する。
「おお……! 本当に作れるんだな。それじゃあ、ちょっと行ってみるか」
実際にゲートを作り出せたことに熊翔は思わず感動すると、それを切っ掛けに好奇心を刺激されて、自分が作り出したゲートに右手の指先で触れた。すると次の瞬間、彼の姿はマンションの部屋から消えて、異空間にある自らのダンジョンへと転移されたのであった。
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