第20話 セリア②
フーコのご要望通り、チェム商店でケーキを購入した僕は自宅へと帰って来た。
「相変わらず、せっまい部屋ね。引っ越しなさいよ」
……セリアを引き連れて。
「何なら……わ、私も一緒に引っ越してあげなくもないわよ?」
一緒にって同棲でもするつもりか?
確かにそれはちょっと魅力的だけど、すぐに僕がセリアの奴隷と化しそうで怖いな。
料理、洗濯、掃除……。
ほぼ全てを僕がこなして、セリアはイスに座りながらそれをニコニコと眺めているだけ。
そんな光景が目に浮かぶようだ。
それに、僕はセリアの親父さんを説得できる気がしないよ。
あの人は小さい頃からセリアと仲が良い僕を目の敵にしていたからね。
一緒に遊びに行くというだけでも鬼のような形相で僕を睨み付けて来たのだ。
同じ家に住みたいなんて言った日には、殺されるかも。
「いや、当分はこの部屋で良いかな。家賃も安いしね」
「そ。私はいつでも準備できてるからね?」
僕は鈍感な方では決して無い。
だからセリアが僕の事を昔から憎からず想っているのにも当然気が付いている。
そしてなんだかんだ言って僕も、この幼馴染の事が嫌いではないのだ。
学生時代、「アイツに手を出したら許さないわよ」と僕と仲の良かった女子に言って回り、僕の周囲から完全に女子が消え失せた時期があった。(セリアは学生時代から――特に女子に――モテまくっていたため、誰もアイツの言葉に逆らえなかったのである)
あの時ばかりは流石の僕も怒髪天を衝く勢いで頭にきたが、今ではその怒りも大分和らいだ。
今の僕にはたくさんの可愛い教え子達がいるからね。
二兎追うものは一兎も得ずという格言があるが、僕の考えは違う。
一兎しか追わないものは一兎しか得られず。
つまり一枚のパンツしか追わないものは一枚のパンツしか見られないのだ。
僕はたくさんの女の子のパンツが見たい。
だからこうして幼馴染も教え子も含めて、たくさんの美少女のパンツを僕は今日も追うのである。
「それで? 自宅に帰れないってどういう事?」
スイーツバイキングのお店を出た僕はセリアに言った。
『久しぶりに話せて楽しかったよ。じゃあ、またね』と。
するとセリアもこう返した。『うん、バイバイ』と。
しかしセリアはチェム商店に行っても、家への帰路についても、ずぅーーっと金魚のフンよろしく僕の後ろを付いて来る。
そこで話を聞いてみると何やら今日は家に帰れないから泊めてと言うじゃないか。
取り敢えず詳しい事情を聞こうと思い、僕はセリアを自宅まで連れて来たのだ。
「私の家って広いじゃない? だから何人か部下の子を住まわせてるんだけど……」
「けど……?」
「今日は男の家に行くから帰らないって言っちゃった!」
「完全に自業自得じゃないか……」
「という事で今日はここに泊まるから! 前に泊まった時に持って来た着替えとかまだ置いてるわよね?」
セリアはそう言って、クローゼットの中をごそごそと漁り始める。
何故家主の僕の許可を取らずに、勝手に泊まる事が決定してるんだこの幼馴染は。
「ほら、フーコ出ておいで」
僕は買って来たケーキを切り分け、お皿の上に置く。
そしてフーコに呼び掛けた。
「わーい、ケーキだー!」
フーコは実体化と同時にケーキへダイブ。
そのままケーキを貪り始める。
「あら久しぶりね、フーコ」
「うん、久しぶりーセリア!」
二人は顔馴染みだ。
精霊と契約している事が貴族にバレたら、間違いなく面倒事になる。
だから僕は基本、フーコの存在を秘密にしているが、セリアはそれを知る数少ない人物。
「……ちょっとリロイ。この女物のパジャマは何? 私はこんなの持ってきてないわよ」
セリアが少し不機嫌そうに、クローゼットからパジャマを取り出す。
あぁ、それはこの前わざわざ遠くから帝都に来た教え子を泊めた時に買った奴だ。
また来るって言ってから、そこに置いておいたんだよね。
「まさか私以外の女を家に泊めたりしてるんじゃないでしょうね?」
「それは……その……」
「もぐもぐ。ご主人様はしょっちゅう女の子を家に泊めてるよー? とっかえひっかえってやつ?」
「はあ?」
「人聞き悪すぎない!?」
泊めてるのは教え子だけだから!
そして泊めるのも一ヵ月に一人か二人くらいだから!
精霊は長寿なだけあって、時間間隔が人間とかけ離れている。
フーコからすればとっかえひっかえなのかも知れないが、その表現は誤解しか生まないからやめて欲しい。
「アンタ、本当にロリコンなんじゃないでしょうね……?」
「違うから! 僕はちゃんと成人した十五歳以上の子にしかパンツ見せてって言ってないよ!?」
「それがロリコンだって言ってんのよ、このバカ!」
ええ? 成人済みの女の子はロリじゃないだろ……。
さてはコイツ、自分より年下は全員ロリでだと思い込んでるな?
「そ、そんなにパンツが見たいなら……私に言ってくれれば…………」
「え? 見せてくれるの?」
「見せ……………………ない」
見せないんかい!
一瞬期待した僕の気持ちを返してくれよ!
セリアは自分で言っておいて、いざパンツを見せる状況を頭で考えたら恥ずかしくなったのか。
顔を真っ赤にして近くにあったクッションをぎゅうーっと抱きしめる。
「ご主人様。今日の晩御飯は何? ワタシは久しぶりにプリンが食べたいんだけど!」
するといつの間にかケーキを全て平らげていたフーコが、鼻にクリームを付けながら僕に言う。
「プリンは主食じゃないよ……」
ちょうど今ケーキを食べたというのに、まだ甘い物を食べ足りないのだろうかこの精霊は。
太って飛べなくなっても知らないぞ……。
「セリアは何か希望ある?」
「……私は、アンタの手料理なら何でも良いわ」
「りょーかい。オムライス好きだったよね? 今日はオムライスにしようか」
「うん。ありがと」
帝国内では基本的にパンが主食だが、僕とセリアの地元ではパンよりも米が盛んに食べられていた。
それは別にこだわりとかでなく、たまたま僕達の地元が稲を育てるのに適した環境だったというだけだが、それでも僕達の故郷の味は間違いなく米であろう。
その影響で、僕は今でも遠方からわざわざ高いお金を支払って米を取り寄せている。
セリアは日頃米を食べていないそうだが、今日くらいは米料理が食べたいに違いない。
オムライスを作るため、米を研ぎ始めると、
「あははは! セリア、だぼだぼー!」
「うっさいわね。アイツのなんだから私に合う訳ないじゃない!」
楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
どうやらセリアが僕のローブを着ているらしい。
ただでさえ僕は自分のサイズよりも二回りくらい大きいローブを着ているのに、僕よりも頭一個分身長の低いセリアが着たらそりゃだぼだぼにもなる。
「……私がこれを着ていた可能性もあったのよね」
「……そうだね。逆に僕が剣を持っていた可能性もある」
ローブを着て、感慨深そうにセリアは呟く。
この世界において、剣は男、魔法は女、というのが普通の常識だ。
では何故男の僕が魔法使いとなり、女のセリアが騎士となったのか。
それは僕達の盛大なすれ違いが原因である。
小学校、中学校と、地元の学校を卒業した僕達。
普通は中学を卒業したら就職するものだが、僕とセリアには才能があった。
剣でも魔法でも、僕達に敵う者は大人でもごく僅か。
僕達は多くの人から期待されていた。
その才能を活かすため、僕達は就職ではなく帝都の学校へ進学する事に。
そこで選択肢に上がって来るのが、アイビス魔法学校とステラ騎士学校である。
当然、誰もが男の僕が騎士学校に進み、女のセリアが魔法学校に進むと思い込んだ。
だが僕らは皆が思っているよりも仲良しだった。
僕はセリアに内緒で魔法学校の入試を受け、セリアは僕に内緒で騎士学校の入試を受ける。
そしてお互い主席合格。
ホントお笑い草だ。
僕達は互いに相手と同じ学校に行こうとサプライズを企画して、見事に入れ違ったのである。
入学式に互いの姿を確認できなかった僕らは、愕然としたものだ。
「騎士の仕事大変?」
「そうねぇ、皇女はウザいし、そのメイドは礼儀にうるさいしで面倒よ?」
城勤めというのは、僕の想像以上に苦労がありそうだ。
僕のせいで、騎士という男社会に一人身を置くことになった責任も多少は感じている。
「でも、楽しくないと言ったら噓になるわ。給金も高いし、従順な部下もいる」
「部下に無茶振りとかして無いだろうね……?」
「私を何だと思ってるわけ? 私が無茶を言うのは、アンタだけよ」
……それはそれでどうなんだろう。
「それに、いざとなれば仕事なんてやめれば良いのよ。アンタと一緒に家庭教師をやるのもそれはそれで面白そうだわ」
「帝国に優秀な騎士が大量に生まれるだろうね」
「だからアンタが気に病む必要無し! 私は今が一番幸せよ! もしそれでも気になると言うなら――――」
セリアはローブを着たまま僕を指差し言った。
「わ、私を貰ってくれればそれで良いわ! そうしたら私は最高に幸せになれるから!!」
あぁ、本当に。
僕はこの幼馴染には敵わない。
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