第12話 連携

「おめでとう二人共。契約成立だ」 


 ルナちゃんの体内魔力とヒナにパスが繋がったことを確認した僕は、パチパチと拍手をしながら二人に告げる。


「うんうん、良い契約の儀式だったじゃない! ワタシも久しぶりに胸が熱くなったよ!」


 素直な性格ではないフーコも珍しく大絶賛だ。

 二人のキスを見て恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめながらそう褒め称える。


「う、うん。ありがとう」

「嬉しいわ~」


 ルナちゃんもヒナも顔が真っ赤だ。

 お互いにチラチラと視線を向け合って意識しまくっているのが丸分かり。

 まるで本当に恋人同士であるかのよう。


「……ルナ、僕にパンツ見せてくれない?」

「何でこのタイミングで!?」

「いや、なんかルナをヒナに寝取られたみたいな気持ちにさせられたから……」

「あたしは先生のなんなの!?」


 なんなのって、未来の恋人以外の何者でもないだろう。

 僕は教え子と失った青春を取り戻すために家庭教師になったのだ。

 パンツの一つや二つ見せてくれるような関係になれなくては、働き損である。


「それにしても、来て早々一日で契約出来ちゃったけど、これからどうするの?」

「そりゃ特訓だよ。ヒナはここじゃないと実体化できないからね。今の内に色々練習しておいた方が良い」

「意外に大変なんだからね? ワタシもご主人様と契約を交わしたばかりの時は、よく連携をミスったんだから! 実体化してないと声が届かないから苦労するよ?」

「確かに、コミュニケーションが取れないと難しそうね~」


 実は魔力が少ないルナちゃん用に、実体化は出来ずとも声だけは聞こえるようになる魔法を昨日開発したのだが……今は言わないでおくか。

 無いものだと思って訓練に励んでもらった方が、より効果的な時間を過ごせるだろう。


「とは言え、せっかく二人が契約を交わしたんだ。訓練の前に、美味しい物でも食べてお祝いしようか」

「「「やったー!」」」



~~~~~~



 僕達四人は、皆で手分けしてカレーを作った。

 キャンプといえばカレー。カレーといえばキャンプ。


 これはキャンプでは無いが、山奥に来てカレーが食べたいと思うのは人間の本能だろう。

 僕はその事をよく知っていたから、ちゃんとカレーの食材を家から持って来たのだ。


 わざわざ高級ブランド肉や、大きな鍋をリュックに詰めてこのクソ高い山を登った甲斐があったかな。

 カレーは非常に美味で僕ら四人の舌を唸らせた。(精霊も主食は魔力だが、こうして実体化している時に限り人と同じ食材を食べる事が出来る)


 もしかしたら隠し味にリンゴとチョコを入れたのが良かったのかもしれない。

 僕は今回のカレーのレシピを、家に帰ってからもう一度試してみようと心に決めた。


 そんな幸せなひと時を堪能した僕達。


 だが何度も言うように、ここにはキャンプやバーベキューをしに来たのではない。

 ルナちゃんを強くするために来たのだ。


 という事で、食休みを終えた僕達は早速訓練を始める。


「よし、それじゃあまずは風属性で僕に攻撃してごらん」

「りょーかい」


 僕とルナちゃんは二十メートルほど距離を取り向かい合う。

 それぞれの肩には契約精霊が座っている。


「風よ。あの変態家庭教師の元に飛んで行け!」


 右手を前に構え、そして詠唱を行うルナちゃん。

 僕は自身に飛んでくる魔法を相殺しながらアドバイスを送る。


「契約精霊がいるから、右手を僕に向けて構える必要は無いよ? それは自我の薄い微精霊への合図の代わりなんだ。契約精霊は頭が良いから、言葉だけで正確な魔法を撃ち出せる。次はヒナに手伝ってもらおうか」


 もっと精霊との信頼度が上がれば、以心伝心といった形で言葉もあんまり要らなくなる。

 恐らく契約者の体内魔力を共有しているから、そこから思考もある程度共有出来るようになるのだろう。


 僕とフーコはその状態になるまでに半年くらいかかったが、果たしてルナちゃんとヒナはどれくらいの期間でその域に至るのか。


「そ、そっか。ヒナがいるんだもんね。よし、分かった! ヒナ、パンツ魔人に風をくらわせて!」

「はいは~い」


 今度はちゃんとヒナに呼び掛けたので、ヒナが魔法の発動を手伝ってくれている。

 先程と込めた魔力は同じだろうに、その規模と威力が桁違いだ。


 てかさっきから僕の呼び名が酷過ぎない?

 ヒナもよくそれで僕だと認識出来たな。


「フーコ、打ち消せ」

「任せなさい、ご主人様!」


 僕の指示でフーコが単身、迫りくる魔法に同じ魔法をぶつけて消滅させた。


 ふっふっふ、長年の修行でフーコは僕の体内魔力を使って一人で魔法を行使することも可能となっているのだよ。


 流石に僕の十八番おはこである相殺とまではいかないが、ほとんどの人間が到達不可能な領域での魔法制御を実現して見せている。  


 精霊は大気中に薄く散りばめられている魔力を食べる事で生命エネルギーに変換する。しかしそれを貯蔵したり、属性付きの魔力に変換するといったことは出来ない。


 普通の魔力を属性付きの魔力へ変換するにはある程度まとまった量が必要という条件があり、大気中に漂う薄い魔力だけではその条件を満たせないからだ。


 魔法は属性付きの魔力があって初めて魔法になる。

 だから精霊は本来、単体では魔法の行使が不可能。


 だが人と契約を交わした精霊は少し違う。

 契約を交わした精霊は、契約者の体内魔力を共有することになる。


 そのため、通常であれば持ちえないはずのまとまった量の魔力を操る事が可能となり、こうして精霊単体での魔法の行使が実現するのだ。


「凄い……! あたしがあんなに強い魔法を発動出来るなんて……」

「す、すごいわ~! ルナちゃんの風魔力、美味しすぎる~~~!!!」


 初めて共同で魔法を行使した二人は、それぞれが驚きのリアクションを取っている。


 ルナちゃんは、想像以上であった魔法の強力さに。

 ヒナは、想像以上であったルナちゃんの魔力の美味しさに。


「うんうん、分かる分かる! ワタシも初めてご主人様の風魔力を食べた時は凄い感動したもん! こんなに美味しい魔力がこの世にはあったのか~って!!」


 どうやら精霊にとってはあるあるな話らしい。

 確かに僕も、フーコと契約して最初に魔法を使った時は感動した覚えがあるな。


「先生! これなら確かにあたしでもSクラスを狙えるかもしれない!!」

「いや、狙うんじゃなくてなるんだよ。言ったでしょ? 目標は主席だって」

「うっ……。ま、まぁ。先生がそう言うなら……」


 精霊と契約した事で、大幅に増した実力を感じ、自信が付いたのか。

 ルナちゃんはいつになくうっきうきだ。


「よし、それじゃあ今日は寝るまでずっと魔法を撃ち続けようか。大丈夫。ここには魔力が腐るほどあるから、魔力切れを起こす心配は要らないよ」

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