死霊術師と吸血姫は『追放勇者も悪役令嬢も流行病』だと気が付いたから、そいつらで遊んじゃおうと無双する〜『追放・婚約破棄』を撲滅したい復讐代行事務所〜

祭囃子

プロローグ

「ハンス。今日限りでお前は『追放』だ」


 冒険者ギルド内の端に設置して有る待合スペース。

 そこのソファーに座る勇者マルケスが、彼の目の前で直立している、荷物持ちのハンスへと、そう宣言した。


「え?」


 突如として勇者マルケスに言い渡されたハンスは、驚きを隠せず首を傾げている様子だ。


「自分でも分かってたと思ってたんだが、とことん脳無しのゴミ虫なことだ。ハンス、うちのパーティには、お前のような荷物持ちしか出来ない奴の居場所なんざ、何処にもねぇんだよっ!」


 勇者マルケスは、獲物を威嚇するような声色を響かせる。


「なんで、なんでだ……。今までずっと――」


「いいから、早く消えて頂戴っ! この役立たず」


 勇者マルケスから腰に手を回されている聖女ヒルダは、先程まで悦びの笑みを浮かべていたが、ハンスの悲愴な嘆きを聞くや否や、その言葉を待たずに罵声を浴びせる。


「せ、聖女様まで……くっ……」


 ガルデン王国にある冒険者ギルド所属のS級パーティ。

 通称『勇者パーティ』に、荷物持ちとして参加していたマシューは、突然にもパーティからの追放宣告をされたのだ。

 挙句『勇者マルケス』の他にも『聖女ヒルダ』『重騎士のゴルドー』『拳闘士バッカス』『魔導師ブリュンヒルデ』。

 この超一流と言われるメンバーにおいても、『荷物持ちのハンス』を庇う者は居らず、散々と罵り貶し、わざと彼の悔しがる姿を楽しむような表情で、罵詈雑言を浴びせ続けた。


 ひたすら懸命に健気に献身的に。

 ずっと彼達パーティを陰ながら支えてきていたハンスは、その敵意を剥き出しにした言葉に、心が折れてしまったのだろうか。

 彼等がギルドを去っていく中、彼はただ黙って壁を見つめており、その後ろ姿からは表情を見る事が出来なかった。




――絶対、殺してやる。




 そんな恐ろしい言葉が聞こえた気がするが、きっと気の所為なのだろうと私は思った。


 先程迄のギルド内は、勇者パーティのいざこざもあってか、どの冒険者達も彼等を刺激しないように、ただ静かに事が収まるのを待っていた様に見えた。

 だが、その原因が居なくなった今は、クエストやダンジョン攻略の打ち合わせを再開して、普段の賑やかな喧騒を取り戻しているからだ。


 まさか、荷物持ちのハンスが事を起こせるわけも無い。やはり気の所為なのだろう。

 私は、その場の空気に少しほっとしながら、再度ハンスへと目をやる。



――先程までは、ハンスに話しかける様子等、誰一人として見せていなかった筈だったのだけれど。



 と呟きつつ、ハンスの背後に近づく人影を見つめる。冒険者登録をしている者の中には、あのような姿の2人組は居ない筈だ。

 どちらも女性だけれど、やはり見覚えがない。


「そこの君。少しわたし達と話をしないか? 君の望みを、わたし達は叶えて上げられると考えているのだけれど――」


 かなり品のある女性のその姿から、男性の出す野太い声を耳にしてしまい、あまりのギャップに私は驚きを隠せなかった。確かに、黒のマントを羽織り、ステッキを持ち、ハットも被ってはいるけれど、中身の服装までは確認する事は出来ないのだけれど。

 それでも艶のある白銀色の長髪を見せるその姿形の横顔は、何処かの貴族や金持ちの女性にしか見えなかったのだ。やはり、勘違いしてもおかしくないのだろうと、自分の答えに納得してしまう。


「ねぇ、サシャ。せめて場所を変えてあげるのが優しさだと思うよ?」


 先程から、ハンスは彼女達。いや、彼達の問い掛けには答えようとせず、変わらず壁を見つめている。

 その答えを待っていた彼達の、もう片方の女性が、黒マント姿の横顔を見て声をかける。サシャと言う名が彼の名前なのだろう。


 声や話し方で女性と判断したのだけれど、流石に次は間違えてはいないと思いたい。


 こちらは、正に貴族の中の貴族。いや、王族と言えてもおかしくない、上から下まで豪華絢爛、正に絶世の美女。深紅のドレスを着こなし、両の髪束を三つ編みにし、襟足の辺りで2本の三つ編みを編み込んで纏めているシルクの様な金色の髪。彼のステッキ同様に、彼女の片手には畳まれた日傘が持たれている。


 固唾を飲み込みながら、この美女と美女風の彼を目にした私は、この後の言葉には更に絶句した。


「モナちゃん。少し待ってね? ねぇ、君。先程のパーティを『』。どうかな?」


 私の空耳だったのかもしれないけれど、その言葉を聞いたハンスは、ハッとした表情で振り返り、咄嗟に彼等を見つめ頷きを見せた。ハンスは彼達の手招きに応じ、その後ろを黙ってついて行った。



 その後、私含めた街の住人達が、ハンスと例のパーティの姿を見かける日は2度と無かった。


「そもそも聞き間違えかもだしね。きっと、何処か別の街にでも行ったのかな。勇者パーティなんだしっ!」


 相変わらず汗臭い冒険者ギルドの受付業務は、過酷だと私は思う。もう見かけることは無いけれど、ハンスも何かしらの仕事にありつけれてれば良い。等考えながら目の前の筋肉バカを相手にするのだった。





「うっせーんだょ、筋肉! 殺されてぇか! ギルド『追放』するぞ!」





――――――



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