下調べは抜かりないタイプです

File2.小野とおる(18)



「もうすぐバレンタインだね」

「そうだな」

「小野はどんなチョコが好きなの?」

「俺?あー、基本的に何でも食うよ」

「ふーん」


 休み時間に廊下でぼーっとしていたら、いつの間にか宮田が隣に並んで勝手に喋り始めていた。

 しかしこいつ、ふーんって…自分から話題を振ってきた割に絶対興味なかっただろ。


「……ちなみに緑川は?」

「ひびきはそれこそ女子から貰えたら何でも喜ぶんじゃね?」


 ゆで卵でも、と付け足す。今朝、コンビニで買ってきたであろうゆで卵を美味しい美味しいとひびきが食べていたのを思い出した。


 緑川ひびきは俺と小学校からの同級生だ。元気でいいやつだが、騒がしすぎてモテない。よく言うとムードメーカー。


「いや、そういうのじゃなくてさ…ほらもっと具体的なやつ、何かないの」


 具体的なやつってなんだ。何で俺があいつのチョコの好みを把握しとかなきゃいけないんだ。


「知らねーよ、本人に聞いてこいよ!聞く相手間違ってるよ!!」

「本人に聞けないから小野に聞いてるんでしょうが!!!」


 急に大きな声を出されてびっくりした。心臓止まるかと思った。というか、本人に聞けないって何?

 ひびきのこと嫌いなの…?………いや待て…違うなあれ、え、、そういうこと?


「え、何宮田お前…もしかしてひびきのこと、」


 ほんの少しからかってやろうと思って言っただけだった。それなのに宮田の顔は見たことがないくらい緊張していて、頬はほのかに赤く染まっていた。


「好きだよ……1年のときからずっと」


 目を逸らしながら言う宮田を見て嘘じゃないとわかった。


「バレンタインに告白するのか?」

「わからない。でもどんな状況にも備えられるように、下調べは抜かりないタイプです!」


 なんで急にドヤ顔してるんだコイツ。意外と宮田はアホだからこのままだと本当にゆで卵を渡しそうだな。


「あんたは貰うあるの?」


 自分の眉が少し動いたのがわかった。

 誰かが換気のために窓を開けたようで、急に冷たい風が廊下に流れ込んでくる。首の後ろが少し寒い。


「あー…いや、うーん………」

「何?どっち??」

「あるにはある、と思う」


 俺がそう言った途端、宮田の目が輝きを増した気がする。でも少し怪訝そうな顔をしたまま。


「あるにはあるってその言い方、嬉しくないの?」


 嬉しくない、わけがない。でも俺はそのチョコを受け取れない。


「俺さあ…_____」


 もともと大きい宮田の目がさらに大きく見開かれて、動揺しているのを表すようにその瞳が揺れ動いた。


「……もし貰わないならその理由をちゃんと言わないとダメだよ」


 ちょうどいいタイミングで予鈴が鳴って俺たちはそれぞれの教室に戻った。教室は暖房が効いていて冷えた身体を温めてくれたけれど、むわっとした空気が少し息苦しかった。


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