第18話 最後の最後に大活劇!?
その時、後方から声があがった。
声は、オアシスと村を結ぶ道の、村の方向から響いてくる。声の主達を良く見ようと目を凝らしたシェラハは、思わず目を見張った。
村の女達の鬨の声を聞いた盗賊と思しき男達は、急に力を取り戻したかの様に抵抗を始めた。盗賊達の表情が、徒党を組んでやって来る村の女達の逆襲を恐れたものではなく、力強い味方を得た様な生き生きしたものになっている事から、武装した女達が立ち向かう相手は、この足元に横たわらせられている盗賊団と呼ばれていた男達ではなく、自分達キャラバンの人間である事は間違いないだろう。
彼女等は、キャラバンから男達を護る為にこちらへ向かって来ているのだ。
が、剣を持ってでさえ簡単に取り押さえられてしまった男達だ。今度も簡単に取り押さえられるだろうとキャラバンの誰もが思っていたが、どこからそんな力が湧いて来るのか、何度叩き伏せられても今度はしつこく起き上がってくる。
そしてシェラハ達に課された流血厳禁の長老の言葉は、キャラバン全員にも適用されていたらしい。誰も剣に手を掛ける事はせず、相手の得物を素手で叩き落すか、加減しながら叩き伏せる……と言った、妙に高度な芸当をやってのけている。
「長老様!これじゃあキリがありません!!」
参戦して来た女達の鍬を避けながら、シェラハが悲鳴を上げる。
「ではここから立ち退きますか?」
同じ様に、ヒョイヒョイと入り乱れる人間を避けながら長老がニッコリ微笑んで言う。
「俺、もうどうでもいい!こんなトコ。さっさと立ち退きましょう!」
老人の振るった鋤を避けたイリジスが、横手から割り込んで来て言う。
「だめ!この先にはミアーナが休んでる!!まだ動かさせる訳にいかないの!」
イリジスを睨みながらシェラハが言う。
「けどこんな面倒な芸当……いつまでも続けられるもんじゃないぞ!」
突き出された婦人の包丁を、両手で面を押さえる様に取り上げ地面に捨てるイリジス。
けれど婦人はすぐに包丁を取り戻してまた切りかかる。何度村人達の得物を落とさせても、村人はまたすぐに得物を拾い上げて襲い掛かってくる。取り上げて、取り返されて……これでは際限の無い繰り返しなのだが、女性や老人相手に手荒な事は出来ない。急いてほんの少し加減を誤っただけで大怪我をしかねない相手達だ。男達を叩き伏せた時よりももっと、慎重にならざるを得ず、精神的・肉体的な負担がどんどんと蓄積されてゆく。
ざくり……。
嫌な感覚がシェラハの左腕に走る。避け損なった鎌の先がかすめたらしい。
咄嗟に身体を丸め、逆の手で傷を押さえたところに、横手から別の婦人がスリコギを振るって来る。慌てて避け様としたが、不安定な姿勢だったせいでよろけてしまった。
……当たる!!
思わず目を瞑ったが、スリコギがぶつかって来る感覚は無い。おそるおそる目を開けると、イリジスの背中が目の前にあった。
「イリジス!前見えないってば」
「そー言う事は、ちゃんと前を見てる人が言って……」
振り返らずに、げんなりした台詞だけが帰って来る。
素早く辺りに目を走らせると、怪我をしているのはシェラハだけでは無かった。キャラバンの人間達の殆どが、既に何箇所か傷を負っている様だ。
キャラバン全体がきりの無いやり取りに疲労を重ね、負傷が目立ち始めている。けれど、キャラバンの護り竜ミアーナの為に立ち去るわけにはいかない。
一方、村の婦人・老人集団と、盗賊と呼ばれていた男達にも同じ様に疲労は蓄積されていっている。けれど盗賊たちを村に残したままキャラバンの人間を立ち去らせるには、ここで勝つしかないと必死だ。
体力の限界も近付き始めてはいるのだが、両方共に引くわけには行かない理由がある。だから、体力が尽きてきても互いに一歩も引けない……そんなにっちもさっちもいかない状況となっている。徐々にではあるが怪我人が増えて来た。
それでも気力を振り絞って向かって行く村人達。そして同じ様に気力を振るって受けるキャラバンの人間。
と、突然。
にわかに吹き荒れる突風、巻き上がる砂塵。あたり一面が黄土色に塗りつぶされ、空と大地の境目も存在しなくなる。村とキャラバンの人間も区別無く砂嵐に飲み込まれ、その場にいた全員が舞い上がる砂に目を瞑り、ビュウビュウと吹き荒れる風に身体を吹き飛ばされない様にある者は地面に伏せ、またある者はその場にじっと屈み込む。
ぴたり、と風が止む。
そして。
「皆やめて――――!!!」
少年の声が響き渡った。
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