第15話 オアシスのほとりでの格闘劇

 どうしたら良い……?


 シェラハが考える間も無く、じりじりとにじり寄ってきていた男たちが一斉に2人に切りかかってきた。


「うわぁぁぁ!!」


 とんでもない掛け声とともに一人の男がシェラハ向かって剣を振るう。


「わわっ!」


 間の抜けた掛け声に驚きつつも。大振りに振り回された大剣の切っ先を慌てて避けるシェラハ。


「てえぇ―――――いぃ!」


 続いての剣も大振り。かと思えば避けた後に鋭い一突きが、地面目掛けて入って来る。


 なにこれ!?


 ひらひらと振り回される剣の間をかいくぐりながら、シェラハはイリジスの方を見る。

 イリジスは既に剣の一つを取り上げて、歯で切りつけずに剣の面で打撃を与えて応戦している最中だった。

 バシバシと小気味いい音を立てながら、男たちの剣をどんどん叩き落してゆくイリジス。


 なにこれ?なにこれ??この人達ってひょっとしなくても目茶苦茶弱い!?


 シェラハもイリジスが叩き落した剣の一つを素早く取り上げると、イリジス同様応戦にかかろうと、柄を両手でしっかりと握り締めた剣を振り上げる。

 その時、


「くぉらぁぁ!こんの馬鹿ムスメが!!何を持っとる!!!」


 彼方から、嫌と言うほど聞き覚えのある怒声が聞こえて来た。突然の出来事に一瞬シェラハの動きが止まる。運良くそのタイミングでシェラハ目掛けて振るわれた剣があった。


「シェラハ!」


 声と同時に遠慮の無い力で無造作に背後に引っ張られる髪。耐え切れずシェラハが後ろに仰け反ると、目の前を勢い良く剣の切っ先が掠める。


「危ないじゃないのよ!急に怒鳴りつけないでよ!!」


 すかさず体勢を整えて、怒声の主のグニルに怒鳴り返す。


「あんたも!痛いじゃないのよ!!」


 続いて襲ってきた切っ先を避けながらイリジスに文句を言うのも忘れない。


 すぐにグニル率いるキャラバンの護衛隊7人ばかりが辿り着き、長老の命令があってのことか、使う必要がないと判断したのか、剣を用いずに30人近くいた男たちをあっと言う間に取り押さえた。






 一方パミはと言うと、ミアーナとパミの2人だけを残して、オアシスから駆け出していったシェラハとイリジスをすぐに追おうとしたのだが。


『 邪魔になるから 行くな 』


 とのミアーナのひと言で、オアシスに留まっていた。


 力ずくで引き止められた訳ではないが、自分達をかばって怪我をしたミアーナが心配だったのと、異形の化け物に逆らう事が怖かったのとの両方の微妙な葛藤から、行くに行けなかったのだ。

 パミは、オアシスの中央にぽっかりと顔だけを覗かせているミアーナを、恐る恐る見遣る。ミアーナの周囲の水は先程と同じ様にかすかな朱色を滲ませている。


「本当に……治るの?」


 弱々しいながらも気遣わしげなパミの声の響きに気付いて、ミアーナは目を細める。


『 治る だろう ……と 思う 』


 対する答えがなんとも曖昧なので、パミはさらに不安そうな面持ちになる。その様子に気付いたミアーナが申し訳無さそうに頬を掻きながら付け足す。


『 お前だって 自分の怪我が ちゃんと 治るかなんて わかんないだろ? 』


 少しバツが悪そうに眉間に皺を寄せてミアーナが言うと、パミはきょとんと不思議そうな表情を浮かべて、ミアーナをじっと見詰める。


「ほんとうに?」


『 そんなものダロ? ただ なおりそうだ みたいな風には 思えるけど ね 』


「うん。僕もそう……」


 何かを納得した様子で、熱心に首を縦に振るパミ。対するミアーナは、そんなパミをしばらく見詰めていたが、やがて視線をそらしてシェラハやイリジスの向かった先へ注意を向けた。パミもすぐにミアーナの様子に気付いて、何を見ているのか、と問いかけるような視線を送る。


『 もうそろそろ 行っても 良さそうだ な 』


 そう言って視線をパミに戻したミアーナは、ゆっくりと水面へ上半身を現す。

 オアシスから出たばかりの時よりは、傷は少なくなった様に見えるが、それでもまだ幾つかの深い傷には薄く血が滲んでいる。動いた拍子に傷が痛んだのか、微かに顔をしかめるミアーナ。


「まだ、動かない方が良いよ。無理をしたら余計に悪くなるよ!……その‥怪我とか、治るのとかが僕達といっしょなら・無理しちゃいけないよ!」


 パミが、所々躊躇ちゅうちょしながらも強い語気で言う。


『 けど もう ここまで 良くなった…… 』


「だめ!!」


 断言して、ミアーナの血を滲ませた傷を指差す。


「そんなのは、大丈夫だなんて言わないよ」


 必死の形相で言うパミに気圧されて、2の言が継げないミアーナは、それでもまだシェラハ達が気になるのか2人の向かった先へ視線を彷徨わせ、けれど噛み付かんばかりの様子のパミを見遣って諦めた様に、また水につかった。

 おどおどしていたパミが急に強気になったのに戸惑ったミアーナであったのだが、パミの方は異形のミアーナへの怖さと、怪我をしたミアーナへの心配が入り混じった結果の必死の行動だった。


 両者の受け取り方に多少の隔たりはあったものの、それでもミアーナはパミの説得に応じる事にした。

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