第15話 自分の正体

 まさか、本当に彼女なのか?


 思えば俺達が前世で会ったのは、互いに魂の状態だった。

 だから彼女がどんな容姿だったのか知らない。


 俺で言えば、前世の時の容姿が碧色の瞳に変貌したていどだけど。


「……君が神木瑠璃だと証明できるものはあるか?」

「前世の貴方のフルネームを答えられた、他に共通する記憶でも言えばいいの?」


 ああ、そうだった。

 彼女は前世の俺の苗字、吾妻の姓を今口にしたばかりか。


 すると、彼女はおしとやかな表情で、組手していた俺の手を優しく両手でおおう。


「久しぶりだね、もう会えないものだと思ってたよ」


 十数年振りの再会に、彼女は感動していたようだ。

 眼鏡を取って、込み上げた涙を手で洋服の裾で拭っている。


「……マリア、どうして私にシレトのことを黙っていたんだ?」

「言った所で、彼に会えるかどうかなんて」

「それでも多少は協力できるだろ、私達は姉妹なんだから」

「今言いました」

「――ふざけるなよ」


 ライオネルはマリアの態度に切れてしまったみたいだ。

 彼女はマリア目掛けて、風属性の衝撃魔法を手加減なしにぶっ放す。


「何するんだよッ!」

「大丈夫だよ、あの程度、妹は物ともしない。っておいシレト、他人の話を聞け!」


 不意打ちを喰らったマリアは船長室の壁に穴を空け、船外に放り出されたようだ。

 俺は彼女の後を急いで追い、飛空挺から身を投げるように飛び出したら。


 ――っ。


「え? もしかして今上って行ったの、マリア?」


 俺達は空で交錯し、マリアは船に戻り、俺は地面に一直線。

 うーむ、飛空挺を持つライオネルと同盟を結んだ以上、空を飛ぶ能力が欲しい。


 今の俺が持っている飛空系の能力は、滑空能力だけで。

 ふわふわと、空からなだらかに眼下の荒野に落ちて行った。


 § § §


「こんな所に居たのですか」


 夜、着地点の場所で焚火をしていると、マリアがやって来た。


「空艇は?」

「貴方がいなくなったのをいいことに、イングラム王国に向かいましたね」


 ライオネル……王国に針路取っている分、まだましだが、覚えておけよ。


「姉さん達とはこの魔石道具を使って交信可能ですから」


 そう言い、彼女は灰色した通信用の魔石を渡す。


「ありがとう、後で使い方を教えて欲しい」

「ええ」

「……ナチュラルに隣に腰を下ろすんだな」

「何か問題でも?」


 そう言われると、反論するのは億劫だ。

 人も動物だ、本能的に縄張り意識を持っている。

 彼女は物怖じせずに俺の縄張りに踏み込んでいる。


「ここら一帯は、カタルーシャとは違い暑いな。分かっていたことだけど」

「そうですね……」


 イングラム王国は地球で言う所の赤道付近にある。

 水資源と緑が豊かで、生活水準は周囲の国から一歩抜きんでていた。


「服、脱ごうかな」

「え?」


 簡易的に作った木石の席から立ち上がり、上着に手を掛ける。

 すると、近場の草むらが少し揺れ、布がこすれる音がした。


「誰かいるのか?」

「つ、つくつくほーし」


 この世界イルダでも夏場に出て来る蝉の鳴きまねを、誰かがしていた。

 十中八九ライオネルのものだが、気にせず服を脱ごう。


「し、シレトくん、肌着は着てた方がいいんじゃないかな」

「いや、このままだと破けちゃうし」

「肌着が破けるほど激しくするつもりかっ、ほーし」


 ズボンに手を掛けると、草むらからメスのフェロモンが立ち昇る。

 ライオネルは妹のベッドシーンを妄想して興奮するほどの代物だった。


「シレトくん、なんで下着まで脱いじゃうの……?」

「何故って、こうするためだよ」

「よ、よう、こんな所で奇遇だな二人とも……って、え?」


 ライオネルが草むらから姿を出すと、驚愕の眼差しで銀毛の虎となった俺を見ていた。

 マリアに目を向けると、彼女は若干青ざめた様子でいる。


「これが俺の正体だよ」

「その、虎の姿がですか? さっきまで人間の格好をしていたのは一体」


「俺の本当の姿が、この虎だという事は極力隠しておきたかったし、何かを証明するには結論から述べるのが、地球の作法だろ? 時間もあることだし、二人に説明しておきたくて」


 俺の身に何が起こり、どうして俺が――Sランククラスに復讐したいのか。

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