第2話 Sランククラス

 巨大な一角獣の神が予め言っていたように、この世界、イルダでは科学文明に代わる魔法文明が発達していた。もちろん魔法を使っても不可能なことはあるし、イルダ人は今もなお、魔法の研究に勤しんでいる。


 神様から宿命と吸収の力を授かった俺は、イルダにある王国の貴族家の長男として生まれ、順調に育ち、十五歳になる頃には、他の有力者を差し置いて王立学校のSランククラスの首席として在籍していた。


 Sランククラスの景観は他の下位クラスの風景とさして違わない。


 クラスの前には黒板と教壇があって、前から後ろに向かい木造の生徒達の椅子机が林立している。定時になると各クラスの担任が教壇に立ち、それぞれのランクに見合った朝礼を伝えるのだ。


「お早う御座います、Sランククラスのみなさん」


 黒縁の丸眼鏡が特徴的なSランククラスの担任のレクザムがやって来ると、ちょっとした緊張感が走る。さすがは学校や国が一目置くだけのことはある優秀な人材ばかりがそろったクラスだった。


「先ず、昨夜未明、FからBランククラスの生徒による総合実習が行われました。その際、幾人か死傷者は出たものの、概ね問題なく進行できたようです」


 レクザムが口早に下位クラスの総合実習の成績を報告すると、騎士見習いの一人が音を立てた。


「先生、死傷者の数は詳細にお願い致します」


「失礼、今回の死傷者はおよそ十名、うち三名は戦闘不能に陥り、すぐさま復活の魔法によって事なき事を得たようです」


「その三名に関しては、私の方から自主退学するよう伝えておきます。難しい湿地帯戦闘だったとはいえ、教導員も同行していたのですから、戦闘不能になるような役立たずに下手な夢見せない方が賢明ですからね」


 手厳しいことこの上ないな。俺としてはこの世界には復活の魔法があるのだから、まだいい方だと思っている。地球にも復活の魔法があれば、前世の俺は高二の春に死ぬこともなかったんだから。


 それは担任のレクザムも同意だったようで。


「ミラノ、貴方に何の権限があってそのような勝手をしようと言うのですか。彼らは貴方より下位の実力とは言え、王国を支える立派な組織の一員です。昔から流行らないんですよ、貴方のような独裁主義は」


 騎士見習いの彼女をいさめていた。


「……失礼いたしました」


「それで、本題に入りますが、総合実習の際、生徒の何名かが敵対モンスターに拉致されたようでして」


 ……一大事だな。


「そこで、Sランククラスの皆さんには拉致された生徒の救出をして頂きたいと思います。貴方達の実力ならきっと全員無事に救出できると思いますので、くれぐれも慢心だけには気を付けて、任務を全うしてください。今回のリーダーはシレトくんにお願いしましょう」


 レクザムから指名された俺は慣例にならい、席から立ってSランククラスの顔ぶれを見やる。


「……よろしく」


 と、やる気のない感じで言うと。


「覇気が感じられないなシレト、そんな様子では救出を待つ身としては不安だろ」

「と言うか、またシレトがリーダーか。悪運がいいだけで、指揮力はないだろ」

「シレトが中心の作戦はいつも決まって俺が酷使されるんだよな、はぁあ」


 先ほどの騎士見習いのミラノを筆頭に、クラスの連中は陰口を叩いた。


「レクザム先生、先ずお聞きしますが、どうしてこの救出作戦を俺達に託したので?」


 だって、敵対モンスターに生徒を拉致されたのだろ?


 学校、ひいては国の威信がかかってる重要な局面だ。


 俺達がSランク――将来的に国を代表する顔役の面々だったとしても、それはあくまで将来における話だ。今どうこうの話ではない。


「などと、思っているのならそれは大きな誤解ですよ皆さん」

「勝手に心を読まないでくれませんか」


 この担任の特技は読心術の魔法で、何かといやらしいと思う。


「今のシレトくんの思考には矛盾があります、貴方達は腐ってもSランク――将来的に国を代表する顔役の面々です、だったとしてもじゃありません、確実にそうなって頂くのです。それに、君達も今年でもう十五歳、来年度にはこの学校を卒業する時期です。君達の才能は今が正に最高潮、この時を逃しては君達の将来が知れると言うもの……皆さんの肩にかかっている期待は、言わば国の未来の期待です。その皆さんが、このような重要な局面に何もしないのは、私個人としてどうかと思う訳でして」


 つまり。


「つまり先生の話を要約すると、先生の個人的希望で引き受けちゃったんでしょうかね。俺達は先生の出世の道具にでもされたんですかね」


 と言及すると、担任のレクザムは驚いたように目を丸めたあと、微笑んでいた。


「鋭い、だからシレトくんは嫌なんです。まぁ引き受けた以上しょうがないことではありますが、下位クラスの生徒が拉致されたのは事実です。急いで救出に向かいましょう」


 と言う訳で、Sランククラスは下位クラスの生徒を救出すべく、各人ダンジョン装備を持参して当該の湿地帯へと続く転移魔法の門の前に集った。


 レクザム先生が説いた戯言はあながち間違いでもなくて。

 Sランククラスの面々はいずれ国を代表する人材である。


 なら、今回の事案は近しい未来起こりうる救出作戦の予行演習みたいなものだった。



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